書籍紹介
井上勇一著『満州事変の視角』
(東京図書出版 2020年)
加来至誠(元駐ホンジュラス大使) 在カナダ大使館で御巫、菊地両大使の薫陶を共にうけた畏友井上勇一氏がこのたび新著「満州事変の視角」を上梓された。快著であり、まことに稀有な書である。 この書は、日露戦争から満州事変にいたる満州の情勢を、同地域の中心的在外公館であった奉天総領事館の館長を務めた8人の総領事(吉田茂を含む)及び1人の総領事代理の立場から俯瞰的かつ精密に捉えており、…
大島正太郎著『日本開国の原点: ペリーを派遣した大統領フィルモアの外交と政治』(日本経済評論社、2020年)
関場誓子(霞関会副理事長・聖心女子大学名誉教授) はじめに 「歴史は状況と個人とが織りなす錦絵である」 本書を読み終えてつくづく思い起こされるのは、五百旗頭眞氏による、この指摘である。 著者の大島正太郎氏は、米国への留学経験も豊富な元外交官で、サウジアラビアや韓国の駐在大使を勤めた他、ジュネーヴの国際機関日本政府代表部大使として多国間外交の最前線に立った経験も併せ持つ。それだ…
阿曽村智子著『国際交流のための現代プロトコール』の魅力(東信堂、 2017年)
上野 景文(文明論考家・元駐バチカン大使) (はじめに) 首脳外交全盛の今日、プロトコールの重要性を疑問視する人は少ないであろう。ただ、外交のプロの中にすら、プロトコールなるものは「外交技術」の一つであり、専門家に任せればよいと誤解している人がいる。これに対し、そのような認識は間違っており、理論的に言っても、実践論から言っても、プロトコールは彼らが思っているより遥かに「重く、深…
英 正道著『トランプ登場で激変する世界』(アートデイズ、2017年)
矢田部 厚彦(元駐フランス大使) 本書は、第1部でトランプ登場により激変する世界のさまを詳述しているが、核心は、第2部、「外交の復権」と第3部「自立した日本外交と安全保障戦略」である。著者は、「どうすれば、二十年先に、日本が諸外国と相互依存のウイン・ウイン関係を維持し、豊かな國であり続けられるかを念頭にした安全保障戦略を描く」ことが本書の目的であるとしている。この目的の延長線…
國廣道彦著『経済大国時代の日本外交』(吉田書店、2016年)
矢田部 厚彦(元駐フランス大使) 本書の著者、國廣道彦氏は、病を得て退官する1995年までに、外務省中国課長、在米大使館経済担当公使、本省経済局長、内閣外政審議室長、経済担当外務審議官、駐インドネシア大使、そして駐中国大使と、日本外交の要所要所に在り、特に経済面で重要な足跡を残したが、その時期は、まさに日本の劇的とも言える高度成長期に当たっていた。本書は、そのドラマに重要な役…
枝村純郎著『外交交渉回想』(吉川弘文館、2016年)
矢田部 厚彦(元駐フランス大使) 読者には、まず本書のカヴァーに注目頂きたい。説明書きによれば、1990年7月27日、クレムリンにおける信任状捧呈式の写真とある。枝村大使が背筋をピンと伸ばし、頭を上げ、しかも、ニッコリ微笑を浮かべているところに注目したい。筆者にも経験があるが、天皇陛下の御信任状を任国の主権者に捧呈するという儀式は、矢張り相当に緊張するものである。相手に対する敬…
枝村純郎著「外交交渉回想――沖縄返還、福田ドクトリン、北方領土」(吉川弘文館、2016年)
小寺 裕子(前駐サウジアラビア大使夫人) 「外交交渉回想」などという堅苦しい題の本は私のような素人には睡眠薬代わりかと思いきや、これは下手な推理小説を凌ぐハラハラ,ドキドキものだ。読み始めたらやめられないのだが、ありがたいことに章ごとに話が完結しているので睡眠不足にはならない。 小説と同じく登場人物が実に生き生きと描かれている。著者は正義感に燃える熱血漢であり、いかにしたら難題…
阿曾村邦昭著『ミャンマー―国家と民族』(古今書院、2016年)
元駐ベトナム大使 阿曽村 邦昭 メコン地域に勤務、居住したことのある研究者や実務家の相互乗り入れの場としての 「メコン地域研究会」も創立以来8年半を超えた。 霞関会の会員で、この研究会の会員になっておられる方々も数名おられる。筆者は、この研究会の創立以来、会長のポストについてきたが、これまで、3・11以外には一度も休まず、毎月、例会を行ってきた。よく続いたものだと思う。 これ…
谷野作太郎著「外交証言録 アジア外交回顧と考察」(岩波書店)について
元駐ロシア大使 枝村 純郎 日中、日韓関係についての必読書 著者は1960年外務省入省から2001年退官するまでのほとんどを日中、日韓関係にかかわってきた。中国課長、鈴木総理秘書官、韓国公使、アジア局長、内閣外政審議室長、在中国大使などを歴任したからである。中国への政府援助の実施、天安門事件のほとぼり冷めやらぬうちの天皇の御訪中などの際には反対派の議員から「クビにしてやる」など…
田中 修 著『世界を読み解く経済思想の授業 』(日本実業出版社、2015年)
元駐中国大使 國廣 道彦 この本の著者 田中 修(たなか おさむ)氏は20年ほど前に、北京の日本大使館 経済部に参事官(財務担当)として4年間勤務して、中国経済の研究に取り組んだ。 帰国後、信州大学教授、東京大学客員教授などを経て、2010年より財務省財務総合政策研究所副所長に就任している。 その間、田中 修 氏は、中国経済の動向について一日も目を離すことなく、今日に至ってい…