英 正道著『トランプ登場で激変する世界』(アートデイズ、2017年)

國廣道彦著「経済大国時代の日本外交」.jpg
矢田部 厚彦(元駐フランス大使)

 本書は、第1部でトランプ登場により激変する世界のさまを詳述しているが、核心は、第2部、「外交の復権」と第3部「自立した日本外交と安全保障戦略」である。著者は、「どうすれば、二十年先に、日本が諸外国と相互依存のウイン・ウイン関係を維持し、豊かな國であり続けられるかを念頭にした安全保障戦略を描く」ことが本書の目的であるとしている。この目的の延長線上にあるのが「外交の復権」である。その文脈で、著者は、「外交とは、妥協により好循環を作り出す作業である」との名文句を吐く。そもそも日本の環境は孤高であり、日本人は、本来的に鎖国的DNAを持っているとの分析も鋭い。したがって、日本の地位を安定化するものは、外交力でしかない。

 外交の課題とは何か?その最大のものは国家安全保障である。適正かつ十分な軍事力は必要だが、その使用を未然に回避しつつ、いかに安全を確保するかが外交の使命である。

 著者はまず、「安全保障は、戦争への意思を挫くさまざまな方策を講じることで獲得できる」とした上で、その選択肢として、同盟アプローチ、勢力均衡政策、中立政策という三つの方策を挙げる。著者は、そのいずれかを選択しなければならない訳ではないとして、日本の選択は「良いとこ取りのハイブリッドで行くこと」だとしている。

 著者は更に、「中国、北朝鮮からの核脅威に自ら身を護る術のない日本は、米国の核の傘を抑止のために利用するのが妥当」としつつ、問題は、「トランプ・ショック」後の米国が果たして同盟国として信用できるのか、米国の核の傘が抑止力持ち続けるか、だとしている。これは、日本にとって死活の問題であり、まさに、外交の出番である。日本外交が早期復権に留まらず、最大限の力を発揮しなければならない秋(とき)が来ていることを痛感する。

 本書が心ある読者層に広く読まれることを祈り、でき得れば、続編「トランップ・ショック以後」の執筆を期待したい。

(2017-2-4記)