書籍紹介

J.ハインズ「宗教と開発」(麗澤大学出版会、2010年)を読んで(宗教抜きには、開発を語れない時代)

杏林大学客員教授 元駐バチカン大使 上野 景文 ジェフリー・ヘインズの「宗教と開発」は、「近代化、開発とは脱宗教化を意味する」として来たこれ迄の「常識」を根っこから覆してくれる大著である。キャッチフレーズ的に言えば、「宗教抜きには、開発を語れない時代が来た」ということだ。 そう、つい20-30年前までは、近代化が進めば進むほど、社会における宗教の地位が低下することは自明のことだ…

米・中・ロシア 虚像に怯えるな ―元外交官による「日本の生きる道」』河東哲夫著 草思社、2013年 出版

元駐韓国大使 霞関会理事長 大島 正太郎  仕事の関係でTPPに関する論調あるいは各党の立場に接していた当時、具体的なTPP賛否のいずれの側にも、今まで経験してきたことのないほどの嫌米感情に触れて、何時からこんなになったのかと驚いた。(それまで約4年間、自分が国際公務員、しかも裁判官みたいな仕事、をしていたので政策当事者と直接接することをいわば忌避していた特殊な事情があったこと…

リー・クワンユー講演集」を読んで

元駐シンガポール大使 橋本 宏 2011年9月、シンガポールのCengage Learning Asia社から“The Papers of Lee Kuan Yew , Speeches, Interviews and Dialogues,1950-1990”が刊行され、同月末リー元首相出席の下、同地において出版記念会が開催された。 これは、1950年のロンドンからの帰国に始ま…

上野景文著『バチカンの聖と俗』(かまくら春秋社、2011年)

元駐チェコ共和国大使 髙橋 恒一 本年7月末に出版された上野景文著「バチカンの聖と俗」(かまくら春秋社)は、15年程前から文明・文化についての論考を発表してきた著者が2006年から4年間にわたるバチカン大使としての体験と観察を基に書き下ろした意欲作です。著者によれば本書は、バチカンについての概説書でも単なる体験記でもなく、「文明論としてバチカンに迫ることを試みたもの」ですが、そ…

田中 修著「2011~2015年の中国経済」(蒼蒼社)」を読んで

元中国大使 国広 道彦 本書の目次だけ見ると役所の調書のように見える。しかし、少し読み進めると著者の鋭い分析を随所に見出す。 著者はまず中国のマクロ経済政策の決定過程を解説し、第12次五カ年計画(2011~2015年)の成立過程を解説し、その間に如何に情報を集め、計画内容を各部局、地方にまで議論させるかを説明する。その上で第12次五カ年計画についてその指導理念、主要政策の内容、…

「国際人のすすめ-世界に通用する日本人になるために」 松浦晃一郎著(静山社出版)」を読んで

静山社元科学技術協力担当大使元ユネスコ事務局長補松井 靖夫 松浦晃一郎氏が、日本の外交官40年余のプロフェショナルとしての経験とユネスコ事務局長10年の成功体験に基き、国際人として得られた成果と学んだ教訓を織り込んだ好著である。国際人をめざす前途有為な我が国の若い世代、彼らを育てようとする教育関係者、国際社会の舞台をみているジャーナリストと研究者には必読の書である。 本書は、ユ…

宮本雄二著『これから、中国とどう付き合うか』(日本経済新聞出版、2011年)

元駐チェコ共和国大使 髙橋 恒一 1. 本年1月に出版された宮本雄二著 「これから、中国とどう付き合うか」は、2006年から4年間、駐中国大使を務めた著者が、長いあいだ中国を観察し、日中関係を考えてきた者として、自らが到達した考えや認識を初めて世に問うた対中国外交論である。これまで意識的に中国関係の対外発言を控えてきたという著者が、満を持して専門家としての薀蓄を傾け、自説を書き…

中国動漫新人類」を読んで

元駐中国大使 国広 道彦 政大学の王敏先生が「ほんとうは日本に憧れる中国人」という本を出版したとき (2005年1月PHP新書)、私は彼女に「そのように『日本に憧れる』中国の若者達も心の奥のどこかに反日のマグマが潜んでいて、何かのときにそれが表に噴出してくるのですよね」と話したことがある。その年の春、いわゆる反日暴動が起きて、「やはりマグマ」がと思った。  遠藤誉先生が最近出版…

逝きし世の面影 渡辺京二

逝きし世の面影」 元駐メキシコ大使  西村六善  名著である。幕末と明治初期の日本を外国人はどう見たか? この本はそれを膨大な資料をもとに物語る。当時の日本人の純朴さや社会が旨く機能している様子に先ず外国人が驚嘆した。 同時にその良さは日本の開国や国際化とともに消え去るだろうと確信していた。重要なことは彼ら外国人がそのことを自分のことのように悲しみ、嘆いていた点である…この本は…

モスクワ攻防戦

桐蔭横浜大学法学部客員教授 元駐ミャンマー大使 津守 滋  2010年5月に作品社より出版した『モスクワ攻防戦 - 二十世紀を決した史上最大の戦闘』(津守滋 監訳、津守京子 翻訳)は、現在まで第四版を重ねた。著者は、『ニューズウイーク』誌の元モスクワおよびベルリン支局長のポーランド系アメリカ人、アンドリュー・ナゴルスキである。第二次大戦の独ソ戦については、スターリングラードやレ…