書籍紹介
北野 充著「アイルランド現代史―独立と紛争、そしてリベラルな富裕国へ」(中公新書、2022年)
林 景一(元駐英大使、元駐アイルランド大使) 1.まえがき アイルランドについての待望の本が出た。著者は前駐アイルランド大使であり、評者の四代後の同国駐在大使である。本書は、その秩序だった構成と筆力で、1922年の英国からの独立後百年という大きな節目である2022年までの現代史を、読みやすい新書版にまとめるという難事を成し遂げた。270頁の本文には豊富な引用があり…
竹内行夫著「外交証言録―高度成長期からポスト冷戦期の外交・安全保障」(岩波書店、2022年)
吉川元偉(国際基督教大学特別招聘教授) 474頁の大著である。しかも中身が濃い。著者は、執筆の動機について、重要な外交政策に関し、「レジェンド」ではなく事実を伝えることが「世代の責任」であるとしている。学者や外交実務家のみならず国際関係に関心を持つ多くの方に読んでもらいたい一冊である。 著者の竹内行夫氏は、1967年に外務省に入省し、駐ワシントン特命全権公使、条約局長、北…
雨宮夏雄・訳『モルドヴァ民話』(明石書店、2022年)
伊藤実佐子(霞関会理事・国際文化会館理事・カルコン事務局長) “意外性”がたくさん詰まった本である。 まず本書の原本は、オリジナルの著者(民話であるので、収集・語り)による本の1986年出版の英語翻訳版であること。モルドヴァ共和国の独立は1991年であるから、ソ連邦時代に英語として出版されたということになる。モルドヴァの民話には、かのプーシキンやゴーリキーも影響を受けたという。…
前田隆平氏著『地平線に』(幻冬舎、2019年)
元駐ロシア大使 枝村純郎 この本を霞関会事務局から入手してまず驚いたのは、それが700ページを超す大作であるのに、その内容が極めて充実しており、それでいて読みやすいことでした。 旧制中学校を卒業して家業の手伝いをしていた主人公の杉井謙一は昭和14年入営しますが、甲種幹部候補生試験に合格して見習士官となり陸軍砲兵将校となります。その間に各種の訓練を受ける状況が一々詳細に記…
中村順一著『日本の感性と東洋の叡智』(淡交社、2021年)
元駐ギリシャ大使 齋木俊男 この本は一年以上前に刊行されすでに二刷を重ねて評価が高まっているようですが、出版当時は事情があって果たせなかったので、遅ればせながら同期の一人として賛辞と推奨のことばを述べさせていただきます。 本書は著者の意図はともかく内容的にいわゆる日本・日本人論の流れの中にあるといえます。船曳建夫の『「日本人論」再考』は日本人論を総括した好著であり、読んだ人…
河東哲夫著『ロシアの興亡』(MdN新書、2022年)
元駐トルコ大使 田中信明 国と言うのは単なる個々人の集合体でなく、人々の利害、愛憎その他諸々の情念を糾合した人間社会であり、その過程での巨大なエネルギーを基盤として成り立っている。その国を理解するためには、そのエネルギーを形成する宗教、歴史、文化、人種と言った側面を十分に理解することが大切だ。現在起こっている事象を分析するのに、政治、経済面の説明だけでは足りない。BSプライム…
岡本行夫著『危機の外交 岡本行夫自伝』(新潮社、2022年)
元駐デンマーク大使 小川郷太郎 最初は外交官として、そして自らの意思で外務省を辞職し、その後も2度にわたる首相補佐官や外交評論家を務めるなどして国内外で幅広い活動を展開し、多くの人々に惜しまれてこの世を去った岡本行夫氏が死の直前まで精魂を込めて書いていた自叙伝が先般上梓された。四半世紀にわたり「岡本アソシエイツ」のゼネラルマネジャーとして岡本を支え続けてきた澤藤美子氏は巻末の…
佐野利男著『核兵器禁止条約は日本を守れるか』(信山社、2022年)
日本国際問題研究所理事長 佐々江賢一郎 本書は、核軍縮・軍備管理をめぐるこれまでの歩みを振り返りつつ、人類の目標としての核兵器廃絶と主権国家が抱えている安全保障上の要求との相克について、現場を経験した外交官の視点から分析し、今後我々がとるべきアプローチについて専門家としての率直な見解を述べ、提言を行っている。 とりわけ、昨今注目を集めている核兵器禁止条約について、近年の核軍…
松浦晃一郎著『アジアから初のユネスコ事務局長』 (日本経済新聞出版、2021年)
関場誓子(霞関会副理事長・聖心女子大学名誉教授) はじめにー日本の存在感低下への警告の書 本書は、40年にわたる外交官生活の後、2期10年にわたってユネスコ事務局長を務めた松浦晃一郎氏(以下著者)による人生の旅路の書であり、それと同時に国際社会で存在感を低下させつつある日本の現状に対する痛烈な警告の書でもある。 本書では、幼少時代を皮切りに、東京大学での学びを経て外務省に入省…
野口武著『デンマーク「希望の絆」』
(マイティーブック出版 2021年)
佐野利男(元駐デンマーク大使) 2011年3月11日、世界に衝撃が走りました。次々に家屋や構造物をなぎ倒してゆく津波の破壊力が映し出され、メディアの発達により、世界中の人々が震災を「疑似体験」したのです。更に、福島原発の水素爆発、陸自ヘリコプターによる放水の映像を多くの人々が固唾をのんで見守りました。成田空港に殺到する外国人、大使館の関西方面への移動など在留外国人の反応が危機…