書籍紹介

前田隆平氏著『地平線に』(幻冬舎、2019年)

元駐ロシア大使 枝村純郎    この本を霞関会事務局から入手してまず驚いたのは、それが700ページを超す大作であるのに、その内容が極めて充実しており、それでいて読みやすいことでした。  旧制中学校を卒業して家業の手伝いをしていた主人公の杉井謙一は昭和14年入営しますが、甲種幹部候補生試験に合格して見習士官となり陸軍砲兵将校となります。その間に各種の訓練を受ける状況が一々詳細に記…

中村順一著『日本の感性と東洋の叡智』(淡交社、2021年)

元駐ギリシャ大使 齋木俊男  この本は一年以上前に刊行されすでに二刷を重ねて評価が高まっているようですが、出版当時は事情があって果たせなかったので、遅ればせながら同期の一人として賛辞と推奨のことばを述べさせていただきます。  本書は著者の意図はともかく内容的にいわゆる日本・日本人論の流れの中にあるといえます。船曳建夫の『「日本人論」再考』は日本人論を総括した好著であり、読んだ人…

河東哲夫著『ロシアの興亡』(MdN新書、2022年)

元駐トルコ大使 田中信明  国と言うのは単なる個々人の集合体でなく、人々の利害、愛憎その他諸々の情念を糾合した人間社会であり、その過程での巨大なエネルギーを基盤として成り立っている。その国を理解するためには、そのエネルギーを形成する宗教、歴史、文化、人種と言った側面を十分に理解することが大切だ。現在起こっている事象を分析するのに、政治、経済面の説明だけでは足りない。BSプライム…

岡本行夫著『危機の外交 岡本行夫自伝』(新潮社、2022年)

元駐デンマーク大使 小川郷太郎  最初は外交官として、そして自らの意思で外務省を辞職し、その後も2度にわたる首相補佐官や外交評論家を務めるなどして国内外で幅広い活動を展開し、多くの人々に惜しまれてこの世を去った岡本行夫氏が死の直前まで精魂を込めて書いていた自叙伝が先般上梓された。四半世紀にわたり「岡本アソシエイツ」のゼネラルマネジャーとして岡本を支え続けてきた澤藤美子氏は巻末の…

佐野利男著『核兵器禁止条約は日本を守れるか』(信山社、2022年)

日本国際問題研究所理事長 佐々江賢一郎  本書は、核軍縮・軍備管理をめぐるこれまでの歩みを振り返りつつ、人類の目標としての核兵器廃絶と主権国家が抱えている安全保障上の要求との相克について、現場を経験した外交官の視点から分析し、今後我々がとるべきアプローチについて専門家としての率直な見解を述べ、提言を行っている。  とりわけ、昨今注目を集めている核兵器禁止条約について、近年の核軍…

松浦晃一郎著『アジアから初のユネスコ事務局長』 (日本経済新聞出版、2021年)

関場誓子(霞関会副理事長・聖心女子大学名誉教授) はじめにー日本の存在感低下への警告の書  本書は、40年にわたる外交官生活の後、2期10年にわたってユネスコ事務局長を務めた松浦晃一郎氏(以下著者)による人生の旅路の書であり、それと同時に国際社会で存在感を低下させつつある日本の現状に対する痛烈な警告の書でもある。 本書では、幼少時代を皮切りに、東京大学での学びを経て外務省に入省…

野口武著『デンマーク「希望の絆」』
(マイティーブック出版 2021年)

佐野利男(元駐デンマーク大使)  2011年3月11日、世界に衝撃が走りました。次々に家屋や構造物をなぎ倒してゆく津波の破壊力が映し出され、メディアの発達により、世界中の人々が震災を「疑似体験」したのです。更に、福島原発の水素爆発、陸自ヘリコプターによる放水の映像を多くの人々が固唾をのんで見守りました。成田空港に殺到する外国人、大使館の関西方面への移動など在留外国人の反応が危機…

井上勇一著『満州事変の視角』
(東京図書出版 2020年)

加来至誠(元駐ホンジュラス大使)  在カナダ大使館で御巫、菊地両大使の薫陶を共にうけた畏友井上勇一氏がこのたび新著「満州事変の視角」を上梓された。快著であり、まことに稀有な書である。  この書は、日露戦争から満州事変にいたる満州の情勢を、同地域の中心的在外公館であった奉天総領事館の館長を務めた8人の総領事(吉田茂を含む)及び1人の総領事代理の立場から俯瞰的かつ精密に捉えており、…

大島正太郎著『日本開国の原点: ペリーを派遣した大統領フィルモアの外交と政治』(日本経済評論社、2020年)

関場誓子(霞関会副理事長・聖心女子大学名誉教授) はじめに  「歴史は状況と個人とが織りなす錦絵である」 本書を読み終えてつくづく思い起こされるのは、五百旗頭眞氏による、この指摘である。 著者の大島正太郎氏は、米国への留学経験も豊富な元外交官で、サウジアラビアや韓国の駐在大使を勤めた他、ジュネーヴの国際機関日本政府代表部大使として多国間外交の最前線に立った経験も併せ持つ。それだ…

阿曽村智子著『国際交流のための現代プロトコール』の魅力(東信堂、 2017年)

上野 景文(文明論考家・元駐バチカン大使) (はじめに) 首脳外交全盛の今日、プロトコールの重要性を疑問視する人は少ないであろう。ただ、外交のプロの中にすら、プロトコールなるものは「外交技術」の一つであり、専門家に任せればよいと誤解している人がいる。これに対し、そのような認識は間違っており、理論的に言っても、実践論から言っても、プロトコールは彼らが思っているより遥かに「重く、深…