モスクワ攻防戦

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桐蔭横浜大学法学部客員教授
元駐ミャンマー大使 津守 滋

 2010年5月に作品社より出版した『モスクワ攻防戦 - 二十世紀を決した史上最大の戦闘』(津守滋 監訳、津守京子 翻訳)は、現在まで第四版を重ねた。著者は、『ニューズウイーク』誌の元モスクワおよびベルリン支局長のポーランド系アメリカ人、アンドリュー・ナゴルスキである。第二次大戦の独ソ戦については、スターリングラードやレニングラードの戦闘が、「大祖国戦争」の英雄譚として、ソ連国内で広く語り継がれてきたし、これに関する内外の文献も多い。これに対しモスクワ攻防戦については、史上最大の戦闘でありながら(独ソ両軍併せて最高700万人を投入、戦死者数ソ連側190万人、独側61万人)、1941年6月の時点でのドイツの攻撃を予想できず、準備も怠るなど、スターリンの判断ミスにより、ソ連側に多数の不必要な犠牲者を出したこともあり、ソ連崩壊後まで実情は明らかにされなかった。本書は、公開されるに至った秘密資料を駆使し、多くの関係者とのインタヴューを通じて、叙事詩風の物語として仕上げた作品である。

これまで久保文明氏や立花隆氏から書評をいただいているが、久保氏の読後感として、「その物語は限りなく悲しい」との表現は、本書の性格を的確に表現していると思われる。本書は、戦争に放り込まれた人間が、極端な形で機械や道具として使われた場合、どのような恐ろしい状況になるかをイメージするうえから、示唆に富む物語である。