霞先生の会 報告要旨:「教えることは学ぶこと」
霞先生の会における報告の要旨は次の通り。
Ⅰ.退官後の再就職
- 関西大使の期間中、政界、財界、学界、宗教界、文化人たちと幅広く交流。
- そこで知り合った京都外国語大学の森田理事長ご夫妻と親しくお付き合い。
- 同理事長に対し、外務省退官後は若い学生諸君たちと自分の経験を分かち合いたいと考えており、機会をお与え頂けないかと長い手紙を送付。
- その結果、専任教員として客員教授の肩書で受け入れるとの回答を得た。
- 再就職は、本省の支援を受けない場合は、結局は、在職中に築いた人間関係に因ると言える。
- 19世紀の帝国主義時代は弱肉強食の時代
- なぜ日本は植民地化されなかったか
- 日露戦争の終了後から徐々に日本自身が帝国主義に突入(朝鮮、中国など)
- どのような手段で軍部は台頭し、どのようにマスコミ・国民はこれを支持したか
- なぜ軍部の台頭を抑えることが出来なかったのか
- 敗戦(「終戦」と呼ぶのは間違いではないか)
- 戦後の日本の外交は、戦前の日本の対外政策と異なり、世界に誇り得るもの
- 他方、近隣諸国(中国、朝鮮、ソ連・ロシア)の内政・外交には種々の問題点あり
- 日本の安全保障政策(日米安保条約、自衛隊、集団的自衛権など)
- 日本の対外経済政策(WTO、TPP、EPAなど)
- 自分自身の在外勤務や仕事上の経験に基づき、異文化の特徴を解説
- 具体的には、諸国民の歴史・文化・宗教に基づく価値観(ものの考え方)を説明
- 東南アジア、中東、西欧(英国、ポルトガル)、インド、中国、朝鮮、米国、ロシア、南アフリカ、カナダ、そして参考までに、古代ローマ
- 異文化を理解するための基礎を築く目的として、自分たち日本人自身はどのような価値観を有し、どのような行動を取っているかを講義。 講義内容は、小生自身の著作である「日本人の価値観」(2013年、かまくら春秋社刊)に基づく。ちなみに、日本人の価値観に対する外国人の理解を深めるために、別途英文で書き下ろした「Fall Seven Times, Get Up Eight—Aspects of Japanese Values—」をLondonのGilgamesh社から2019年に刊行(Amazonや紀伊国屋にて入手可能)。外国人の友人に本書をお勧め頂ければ幸い。
- 日本人は、具体的には、次のような4本の柱を基礎として行動。
① 自分自身の価値観・倫理観に基づくものではなく、周りの人たちとの関係、すなわち人間関係の維持発展を最重要視して、自分の行動を決定する。いわば「人間関係本位主義」
② 現世主義・実益主義の価値観を強く持っており、それに基づく行動・実践を重視する。現世主義・実益主義・行動主義。「頑張れ!」「三方よし」「武士道」「xx道」
③ 自然との共存・共生に喜びを感じ、諸行無常の観念を保有。
④ 自然との共生の結果、豊かな直覚的・情緒的感性が磨かれ、繊細で優れた美意識を保有
(4)日本外交課題論(年間26コマ)- 今日の日本が直面する諸外交課題を解説。具体的には次を講義
- 領土問題の歴史と詳細(尖閣、竹島、北方領土)
- 東シナ海のEEZ、大陸棚、ガス田、漁業
- 世界の気候変動、地球温暖化・環境問題
- エネルギー問題(原発は必要か否かを含む)
- 東アジアの汚染問題(河川、海洋、大気、廃棄物など)
- 朝鮮半島問題(日韓、日朝関係を含む)
- 中国の台頭(経済大国から軍事大国へ。大国主義・覇権主義)
- ASEAN、南シナ海
- 日本の安全保障(日米関係、集団的安全保障、)
- 中東の諸問題
- 卒論指導。テーマ・課題は何でも受け入れた。 例えば、集団的自衛権、再生可能エネルギー、外国人労働者受け入れ、少子化問題、非正規労働問題、軽自動車税制、インド女性論、ヘイトスピーチ(在日コリアン)、カンボジア経済振興、今後の航空業界、憲法9条改正、少子高齢化 など
- 講義では事実関係につき伝えるべき中身が極めて多いため、なかなかinteractiveな講義とすることが困難であることを踏まえて、「考える力」を培うべく意見開陳と自由な批判を内容とする「談論風発会」を開催。自身のオックスフォード大学でのTutorialの経験に基づく。
(了)