講義参考資料 II 学期末試験問題、及び、レポート課題の例

基本原則

① 私は、春秋の各学期において、中間期にレポートの提出を求め、学期末に筆記試験を行い、その評価は、レポートを20%、学期末試験を80%で行いました。

その理由は、学期末試験のみでは学生に大きな負担となるので、評価点の一部をレポートで獲得することを可能とするためでした。

レポート作成に当たっては学生は自由に資料に当たることが出来、それを引用することも可能であったので、低く20%に評価しました。他方、学期末試験は机上には鉛筆と消しゴムのみとし、全て記憶に基づいて記述する必要があり、80%と高い評価としました。

なお、レポートの場合、コピペ(copy & paste)が明らかな場合には、零点扱いとしました。コピペを見破る方法として次の二つの措置をとりました。(1)紙に印刷したレポートの提出に加えて、(2)電子ファイルのレポートをEmailに添付して提出することを求めました。両方の提出をもって正式な受付としました。

紙のレポートが不自然によくできているような場合には、電子ファイルの当該部分をインターネット上のgoogleなどの検索サイトにコピペして、検索すると、コピペの原本が大体明らかとなります。

② 学生にとって負担が大きい期末試験に関しては、負担の緩和措置として、試験の約50日前に「期末試験問題は、次の3題の内から出題者(先生)が選ぶ1題を出題する。」として、事前に重要な問題・課題を伝えることとしました。

外大の学生にとっては、外国語の習得は非常に大きな負担であるので、教養科目としての私の講義については、特に重要な点のみを記憶すれば十分と考えたのが、その理由です。

  • 各講義科目のレポート課題、および、期末試験問題の例は次の通り。それぞれの項目をクリックすれば、課題・問題にリンクされています。
  1. 東アジア政治外交史 I (19世紀から日本敗戦まで)
  2. 東アジアの政治外交史 II(日本敗戦後から今日まで)
  3. 日本外交課題論 I(日本外交が今日抱えている諸課題 I)
  4. 日本外交課題論 II(日本外交が今日抱えている諸課題 II)
  5. Cross Cultural Studies I 文化理解―異文化の多様性と魅力―
  6. 日本人の価値観 -異文化と異なる日本文化、その特徴は何か -
I.東アジア政治外交史  I(19世紀から日本敗戦まで)

レポートの課題: 江戸時代後期から明治維新にかけての時代において欧米列強は日本へ進出したが、日本は植民地化されることなく、独立を維持することができた。主に江戸末期の時代において、列強、特に、米国、英国、ロシアのの3国が東アジア、特に日本へどのように進出したか、その動きをそれぞれ詳しく説明しなさい。

その上で、江戸時代末期においてなぜ日本は植民地化されなかったか、その理由につき自分の意見をしっかりと述べなさい。(明治維新以降の動きに言及する必要はない。)

期末試験問題
次の質問の中から出題者が選ぶ1問が出題されます。

  1. 日本はなぜ日清戦争、日露戦争を戦ったのか、および、日露戦争の後はなぜ日本自らが朝鮮を併合するなどして帝国主義・植民地主義の政策を推し進めたのかにつき、その理由を詳しく述べなさい。

    更に、20世紀初頭の帝国主義・植民地主義の大きな趨勢(流れ)の変化と、民族自決の趨勢(流れ)の変化の中にあって、日露戦争後から太平洋戦争で敗北するまでの間、日本自身が帝国主義・植民地主義に向かったが、その動きをあなた自身はどう評価するか記述しなさい。
  2. 1931年の満州事変および満州国建国は誰が主体となってどのように推進したのか、また、なぜ日本は満州を必要と考えたのか、について記述しなさい。また、この日本の動きに対して日本国民や国際社会はどのように反応したのか、についても記述しなさい。

    更に、あなた自身はこの日本の動きをどう評価するかについて述べなさい。

  3. 第一次世界大戦(1914-18)を経て、日本は朝鮮半島のみならず、満州や中国北部地域に対する支配を強化していき、1937年からは日中戦争そして太平洋戦争へと突き進んでいった。この動きの中で、特に1930年から1945年の敗戦までの約15年間において、日本軍部は日本政府(文民)や国民との関係においてどのような手段を用いて軍部の大陸進出政策に対する反対を封じ込めたか、そして、何故日本政府(文民)はそれを押しとどめることができなかったかについて詳しく記述しなさい。

    更に、あなた自身はこの軍部の動きをどう評価するか述べなさい。

<参考>上記問題3への回答を考えるに当たっては、当時の日本国内の諸勢力(政府、軍など)の間の確執、日本経済の動向、中国の国内情勢(民族自決運動の高まり、権力争い、秩序・安全の欠如など)、国際情勢(日本の政策に対する国際社会の受け止め方、米国の対日政策)、日本報道機関や国民の受け止め方などにつき検討・記述することが望ましい。

II.東アジアの政治外交史 II(日本敗戦後から今日まで)


レポートの課題
: 戦後の中国の歴史(1945~1976年)において、毛沢東が進めた諸政策をできるだけ詳しく説明するとともに、中国国民にとって毛沢東の諸政策は良かったと考えるか、それとも悪かったと考えるかについて、自分の意見を述べなさい。

期末試験問題
次の質問の中から出題者が選ぶ1問が出題されます。

  1. 1965年に日本と韓国との間に締結された「日韓基本条約」並びに「日韓請求権及び経済協力協定」において、いわゆる「請求権(対日賠償請求権)」問題、および、「日本の朝鮮植民地支配に関する認識(歴史認識)」がどのように解決されたか、についてできるだけ詳しく説明するとともに、今日の韓国の対日歴史認識要求について、また、従軍慰安婦問題や強制徴用工問題(新日鉄や三菱重工に対する請求権問題)についてあなたはどのような意見を有しているかを記述しなさい。
  2.  1989年の天安門事件以降の中国の国内政策と対外政策の双方についてできるだけ詳しく記述するとともに、あなたが日本の総理大臣になったと仮定して、このような状況の中で、あなたは、これから中国に対してどのように対処していくことが望ましいと考えるかを記述しなさい。

    (注:この問題2に対する回答を準備する上では、次の諸点を考慮することが望ましい。

    「1970年代末から中国は改革開放政策をとって経済発展を進め、日中両国間の経済交流は大いに進展し、両国は相互に経済依存関係を深めた。他方、今日GDP世界第二位となった中国は政治的にも軍事的にも大国・強国を目指しており、近隣諸国との間に存在する領土問題を含めた種々の国際問題についても、また、国内の少数民族対策や基本的人権・民主化問題についても、今日の国際ルールは中国が関与しないところで欧米諸国等が勝手に作り上げたものであるとして、これとは異なった中国独自の価値判断で対応しているように見受けられる。その結果、南シナ海問題等に表れているように、中国と諸外国との間の摩擦は増大していると観察される。」)

  3. 近年の東アジア安全保障環境につき、中国、北朝鮮、ロシア、米国の動向を踏まえて、できるだけ詳しく説明するとともに、あなたはそのような環境の中で日本の安全をどのようにして保障すればよいと考えるか、記述しなさい。

    (注:この問題3に対する回答を準備する上では、次の諸点を考慮することが望ましい。

    「今日、中国はこれまでの経済成長を基礎として政治的・軍事的大国を目指している。また、北朝鮮は核兵器および弾道ミサイルを保有するに至っている。更に、ロシアは再び軍事大国として戻ってきており、戦略核兵器においては米国と競争している。

    このような情勢を受けて米国は、アジア太平洋を重視する政策を打ち出し、日本などの同盟諸国に対して同盟諸国側の役割の分担を求めつつ、金銭面でも負担の増大を期待している。このような環境において、2015年、安倍政権は「集団的自衛権」に関する従来の憲法解釈を変更し、いわゆる3条件の下で限定的な集団的自衛権の行使は合憲であるとの新解釈を閣議決定し、その趣旨に沿った安保法制の法律改正を行った。」)

III.日本外交課題論  I(日本外交が今日抱えている諸課題)


レポートの
課題: 北方領土問題について、その歴史的経緯、及び、現在の日ロ双方の主張につき詳しく説明しなさい。

さらに、あなたは日本としては北方領土の返還を主張し続けるべきか、それとも領土返還をあきらめるべきか、自分の意見を論理的に述べなさい。また、返還を主張するのが望ましいと考える場合には、具体的にどのように解決することが望ましいと考えるかについて、また、あきらめるべきと考える場合には、なぜあきらめるべきかについて、記述しなさい。

期末試験問題
次の質問の中から出題者が選ぶ1問が出題されます。

  1. 日本の排他的経済水域(EEZは日本にとってどのような利益をもたらすと考えるかについて、また、近隣諸国とのEEZ及び大陸棚の境界線画定について、どのような問題点があるかについて詳しく記述しなさい。

    更に、この境界画定問題をどのように解決することが望ましいと考えるか、あなた自身の考えを述べなさい。

  2. 尖閣諸島をめぐる日本、中国それぞれの領有権の主張を筋道を立てて記しなさい。

    更に、あなたが総理大臣になったと仮定して、どのような解決が望ましいと考えるか、あなた自身考えをしっかりと記述しなさい。

  3. 世界が抱える地球温暖化問題とエネルギー問題の現状につきできるだけ詳しく説明しなさい。

    更に、あなたは、自前のエネルギーをほとんど有していない日本として、21世紀において日本が必要とするエネルギーをどうすれば十分確保できると考えるか、自分の考えを述べなさい。

    その際、今後、原子力発電に対してどう対応することが適切と考えるか、賛成か反対かを含めてあなた自身意見を論理的に述べなさい。

IV.日本外交課題論  II


レポートの
課題: 従軍慰安婦問題と「元徴用工」問題につき、それぞれの事実関係についてできる限り詳しく説明するとともに、この問題は日韓両国間でどのように解決されるのが望ましいと考えるか、それぞれの問題に分けて自分の考えをしっかり述べなさい。

期末試験問題
次の質問の中から出題者が選ぶ1問が出題されます。

  1. 近年の東アジア安全保障環境につき、中国、北朝鮮、ロシア、米国の動向を踏まえて、できるだけ詳しく説明するとともに、あなたはそのような環境の中で日本の安全をどのようにして保障すればよいと考えるか、記述しなさい。

    (注:この問題1に対する回答を準備する上では、次の諸点を考慮することが望ましい。

    「今日、中国はこれまでの経済成長を基礎として政治的・軍事的大国を目指している。また、北朝鮮は核兵器および弾道ミサイルを保有するに至っている。更に、ロシアは再び軍事大国として戻ってきており、戦略核兵器においては米国と競争している。

    このような情勢を受けて米国は、アジア太平洋を重視する政策を打ち出し、日本などの同盟諸国に対して同盟諸国側の役割の分担を求めつつ、金銭面でも負担の増大を期待している。このような環境において、2015年、安倍政権は「集団的自衛権」に関する従来の憲法解釈を変更し、いわゆる3条件の下で限定的な集団的自衛権の行使は合憲であるとの新解釈を閣議決定し、その趣旨に沿った安保法制の法律改正を行った。」)

  2. 南シナ海における中国の動向につき、
    ① 中国の主張・行動について、また、
    ② 国連海洋法条約の規定や2016年7月の常設仲裁裁判所の判決などを踏まえた米国、日本などの主張・動向について、それぞれできるだけ詳しく説明しなさい。

    その上で、中国の南シナ海での主張や行動について、あなたはどう評価するか述べなさい。

  3. 第2次世界大戦後、米国主導の下、世界は自由市場経済原理に基づき自由貿易・通商を推進してきたが、近年、米トランプ政権は、二国間自由貿易協定FTAを推進する一方、自国の貿易赤字を問題視して相手国に対して対米貿易黒字の削減を要求し、輸入関税の引き上げなどの措置を取っている。特に2018年、中国に対しては、軍事・宇宙技術など先端技術(知的財産権)の中国によるハッキングやサイバー攻撃、対中投資外国企業に対する技術移転の強要、中国国有企業への財政補助、中国の軍事大国化(南シナ海における軍事基地建設など)を非難して、関税を引き上げるなどの対抗措置をとるに至っている。これに対して中国も、対米関税を引き上げるなどの対米対抗措置を取ってきている。

    ついては、米国トランプ政権の対中政策と中国の反応についてできるだけ詳しく記述するとともに、米中貿易戦争ともいわれる現在の事態において、日本は米国と中国に対してどう対処することが望ましいか、について自分の意見を述べなさい。

    (注:この問題3を検討するに当たっては、参考までに、2018年10月のペンス米副大統領の演説を読むことが望ましい。)

V.Cross Cultural Studies I  異文化理解―異文化の多様性と魅力―


レポートの
課題: 世界には多くの異なった文化(国や民族、言語、宗教、その他)が存在している。その結果、多くの紛争や対立が生じていることも否定できない。あなたは、このような紛争の原因である多数の異文化の存在をできるだけなくして、世界がもっと同質性を高めることが望ましいと考えるか、それとも、世界は現在のような多様性を出来る限り維持して、異なったもの同士が平和に共存する知恵を深める方が望ましいと考えるか、理由を詳細に示しつつ記述しなさい。

その際、自分の意見・見解を実現するためには、具体的にどのような方法をとることが望ましいと考えるか論理的にしっかり述べなさい。

期末試験問題
次の質問の中から出題者が選ぶ1問が出題されます。

  1. マレイシア、南アフリカ、インド、米国、カナダなどの国々の中から少なくとも一つの国を取り上げて、そのAffirmative Action(肯定的差別)政策につき、その長所と短所をできる限り具体的に詳しく分析・記述しなさい。

    更に、あなた自身はこの政策に賛成か反対かを、詳しく理由を付して述べなさい。

  2. ①中国人、および、②朝鮮半島の人々(朝鮮人)に関し、それぞれの人々の文化(広義)、価値観、ものの考え方について長所や短所をそれぞれの人々について二つに分けて詳しく記述しなさい。

    更に、あなたはそれをどう評価し、それとどう付き合っていくのが適切と考えるかについて、あなた自身の意見を述べなさい。

  3. 一神教としてはどのような主たる宗教があるか、また、多神教としては主にどのような宗教があるか、につき述べるとともに、一神教の中から一つ、および、多神教の中から一つの宗教を選び、それぞれがどのような特色を有しているかについて述べなさい。

    更に、今日なお世界で多くの人々が宗教を信じている理由はなぜと考えるか、また、今日若者の多くがなぜ宗教離れの現象を示すようになってきていると言われるか、についてあなた自身の考え・意見を詳しく述べなさい。

VI.日本人の価値観 -異文化と異なる日本文化、その特徴は何か -


レポートの
課題: 「和をもって貴しとなす」「心遣い」「正直」「空気の支配」などに表わされる日本人の「人間関係本位主義」の価値観につきできるだけ詳しく説明するとともに、あなたはこのような価値観を良いと考えるか、それとも悪いと考えるか、熟考の上、自分の意見をしっかり述べなさい。

期末試験問題
次の質問の中から出題者が選ぶ1問が出題されます。

  1. 「もののあわれ」とはどのようなことを意味するかにつき概説するとともに、日本人の情緒的感性の特徴につき具体例を示しながら説明し、あなたはそのような情緒的感性をどう評価するかを記しなさい。

  2. 武士道の基本的要素についてしっかりと記すとともに、今日の日本社会のみならず国際社会において人々が生活する上で武士道が役立つことがあると考えるか、否か、について、自分の意見を含めて記述しなさい。

  3. 日本人の「現世主義・実益主義・行動主義」という価値観について、その長所と短所について詳しく記述するとともに、日本人のこの価値観が世界にとって役立つものと考えるか、それとも、余り役には立たないと考えるか、自分の考えを述べなさい。

(了)