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トランプ米大統領一般教書演説の見方


元駐グアテマラ大使 外務省参与 川原 英一

 2月4日夜、TV中継を通じて米国民が見守る中、「偉大な米国復活(The Great American Comeback)」と題するトランプ大統領による3度目の一般教書演説が行われ、復活した明るい力強い米国の姿を伝える内容であった。米NYT(ニューヨークタイムズ)紙は、レーガン米大統領が使った、偉大な米国の復活「Make America Great Again」と似た楽観的な表現をトランプ大統領が使ったと指摘する。

 昨年2月に行われた同大統領の一般教書演説と比較すれば、トランプ政権下の3年間の具体的な成果を掲げた発言が多く、特に、経済・貿易面での最近の具体的成果が多く盛り込まれた。他方、同大統領への弾劾裁判を実現させた民主党との対立が鮮明となり、米上院で進行中の大統領弾劾裁判は、上院の過半数を共和党が占めており、無罪となる可能性が高いとはいえ、一般教書演説では、この同大統領弾劾裁判について一言も触れていない点にも欧米メディア(例えば、英ガーディアン紙、BBCニュース、米WSJ紙など)が注目して報じている。

 同じ例として、1999年に大統領弾劾裁判を控えた中で行われたクリントン大統領(当時)による一般教書演説があり、同大統領は自らの弾劾裁判に触れていない(米WSJ紙)。また、米下院本会議場で行われた一般教書演説を大統領の真後ろに座っていたペロシ民主党下院議長が、トランプ大統領の演説が終了するや否や、全米にTV放映される中で、配布済の同演説原稿を破り捨てるという異例の行動を見せて、激しく対立する両者の関係(「tense relationship with Speaker Nancy Pelosi was also on display」NYT紙2/5電子版記事)を鮮明にさせている(注:トランプ大統領に対する弾劾裁判で、2月5日、米上院は無罪評決を下した)。

<雇用・貿易などの具体的成果>

 約78分の一般教書演説は、過去3か年間のトランプ政権期間中、①米国の新規雇用数については、昨年の5百万人の実績に2百万人を更にプラスした700万人となったことや、失業率が人種を問わず、過去半世紀の中で歴史的な最低(3%台)水準であったこと、②4年前の米大統領選挙の際、米国民に公約した北米自由貿易協定(NAFTA)の不公平な内容を見直して、米・墨・加協定(USMCA)の国内批准・署名手続きを今年1月に終えており、過去の米大統領が就任前に公約しても果たせなかったことを、自ら(トランプ大統領)が初めて実現したこと、③この結果、米国自動車産業をはじめとする国内製造業への企業投資の回帰と新規雇用の創出、米国産酪農品の輸出拡大などで大きな成果を見込んでおり、又、米国労働組合(AFL/CIO)が賛成した貿易協定でもあると、自らの成果をアピールした。なお、同協定の批准には多くの民主党議員も賛成している。

 なお、今年春以降にUSMCAの発効が見込まれる中、同協定には、メキシコ・カナダからの自働車・同部品輸出について管理貿易の手法を導入し、また、無税輸入のための原産地ルールを米国企業に有利な内容に引き上げるという、国際貿易上の新ルールを持ち込んでおり、メキシコ・カナダの製造企業や日系企業他にも影響を与える可能性があると思われる。

 米中貿易関係について、2018年から開始されていた両国間の貿易協議の結果、中国による米国産品の購入額を大幅拡大し、2017年の中国による対米輸入実績レベルに追加して2年間に2千億ドル輸入の追加輸入を行うこと、剽窃されていた知的財産保護の強化、中国市場の開放措置などを含む合意を実現させ、又、習中国主席との関係も良好だとの発言もあった。

 しかし、今年1月下旬以降、中国での新型ウィルス感染者の急速な拡大が国際的に注目される状況の中で、両国間で合意内容が予定どおり履行されるのか、また、第三国との国際貿易上の影響について、今後の動向が注目されると思われる。

<移民規制、国際テロとの戦い、社会保障>

 米国内の老朽化した橋梁や橋などインフラの再建は、与野党を問わず支持する議員は多い。他方、昨年1月にメキシコとの国境の壁建設を巡り、民主党と共和党の間で予算論議が紛糾し、米政府機関の一部が長期にわたり閉鎖されたことが記憶に新しい。その原因となった非合法移民の米国流入規制の強化に関連して、カリフォルニア州政府が連邦政府との連携をしない中で発生した非合法移民による市民の殺戮事件を取り上げ、同被害者家族を議場で紹介している。

 また、中東における国際テロ活動の首謀者達をミサイル攻撃などで成果を収めたとする中で、国際テロリストの犠牲者となったイラク派遣の米女性兵士の遺族の紹介や湾岸地域に派遣中の米兵士とその米国内家族とのサプライズ再会を演出し、又、米少数民族出身者で100歳となった元米空軍兵士の顕彰と米国宇宙軍への参加を願う13歳の曾孫の紹介も行っている。さらに、シングルマザーの娘への奨学金により自由に選択する学校へ通うことになったアフリカ系米国市民である母娘の紹介もあった。 民主党の伝統的支持基盤であるマイノリティ・グループに対して共和党大統領が配慮を示した形になっており、今年11月の米大統領選挙を念頭に置いて、こうした姿勢を大統領が示し、支持層の拡大を狙ったのであろうと米メデイァは見ている。

 国防費増額による世界一の軍事力を維持する強い姿勢を示した一方で、オバマ前政権が進めていた国民皆保険の考えには賛同せず、他方で薬価引き下げを行う意向を表明し、又、銃保持について、憲法上認められた米市民の権利と発言して、民主党と立場の違いを鮮明にしている。

 米国の対中南米政策について、世界59か国政府が認めているクワイド・ベネズエラ暫定大統領を議場2階にある米大統領ゲスト席に招待して、米政権のベネズエラ野党指導者への支持の姿勢をアピールしたほか、ベネズエラのマドゥロ現政権下で圧制に苦しむ同国国民との連帯を表明し、又、同国を支援してきたキューバへの米国の制裁措置の強化にも言及している。

<米大統領選への着実な布石>

 TVを通じて米国民に直接話しかける絶好の機会となっている大統領一般教書演説をトランプ大統領は、政権の実績をわかりやすい言葉を使い、強くアピールし、サプライズ演出も行い、共和党支持基盤の拡大も狙った。今年11月3日の米大統領選挙に向けて、着実な一歩を踏み出したと思われる。

( ※本内容は、個人的見解を述べたものです。)