[ UAEの国家理念・政治体制 ]
UAEにおいては、君主制維持が最大の国家理念であり、それを大前提としつつ各種政策が展開されているが、若干意外なことに、啓蒙的な民主主義国家が掲げる寛容と共存の精神、開かれた市場経済、地球環境の保護、女性参画の推進、未来志向といった価値観も国として国民に対して強く慫慂している。
また、宗教的には、イスラムの教えを価値観のベースとした社会風土があり、宗教指導者は社会的尊敬を集める存在ではあるものの、政治の実践においては、宗教指導者が政治に関わることがない世俗国家である。実際、イスラム教スンニ派が主流の国民構成であるが、国民の一定割合を構成するシーア派も、また、少数派のキリスト教徒、ヒンドゥー教徒、仏教徒等も政治的対立は無く、違和感なく共存している。
UAEは、政治的に、大変安定した国である。この理由の一つとしては、現在の実質的指導者であるムハンマド・アブダヒ皇太子のカリスマ性と人気が絶大で有ることが挙げられる。近年の安定した政治、経済、対外的な威信の拡大等のポジティブな功績が同皇太子に帰せられているからであるが、その他にも、同皇太子が、部族社会で形成されてきた統治スタイルを今も効果的な形で活かしていることも挙げられる。
もちろん国の安定を保証するために、特に2010年の「アラブの春」以後は、格段に厳しい徹底した治安対策が実施され、当時反政府活動を進めたムスリム同胞団を筆頭として、イスラム国(IS)、アルカイーダ等を暴力的テロ集団として特定し、厳密な取締りを実施しているのは事実である。それを一種の警察国家と形容することもできるかも知れないが、一般人にとっては治安が極めて良好に保たれているのもまた事実である。
いずれにせよ、君主制と民主制の違いはあっても、価値観的にも宗教的にも中庸な国であり、また、国情や治安が極めて安定しているため、日本にとっては、安心して長期的に安定的な関係を作り易い国である。
[ 外交・安全保障 ]
外交・安全保障面では、ムハンマド・アブダビ皇太子の実質的指導の下、近年、隣国サウジアラビアとの連携を基本としつつも、独自に国際状況に積極的に関与する姿勢が明確となっている。国家として初めての本格的対外軍事介入となるイエメンへの派兵に踏み切ったほか、湾岸協力理事会(GCC)の枠組みに傷を付けることも覚悟したカタールとの断交、経済対策に加えてムスリム同胞団対策としてのエジプトへの巨額支援、史上初めての徴兵制の導入、NATOとの積極的連携の模索等がその例であり、その共通した背景には、イランの影響力の膨張と国際テロ組織の勢力伸長に対する強い警戒感がある。
中東地域情勢の安定、そのためのグローバルな視野に立った外交こそが、UAEの国家発展に繋がるとするその強い外交姿勢は、国際舞台におけるUAEの存在感を急速に高めており、この国とより深い協調的関係を作ることは、日本の中東外交にとって重要性は高い。
但し、その際に念頭に置いておくべき点がある。それは、近年、当国が、周辺諸国において、UAE国益実現のために、膨張主義的な軍事的・経済的活動を拡大していることである。UAEは、連合軍の一部としてイエメンに介入しているが、一方で、UAE独自の動きとして、イエメン南部地区での南部独立勢力との関係構築、海洋輸送上の戦略的場所に位置する同国ソコトラ島への進出、アフリカ沿岸のエリトリアやソマリア北部地区への経済支援拡大や港湾利用の権利確保等を通じた関与拡大も著しい。UAEとしては、これらを、アラビア半島周辺での安全保障環境の確立のため戦略的に実施しているものと思料されるが、この急速な海外展開には、常に留意しておく必要がある。