西アフリカ「おもてなしの国」セネガル【アフリカと日本】
駐セネガル大使 新井 辰夫
1.序
セネガルに着任して,そろそろ一年になる。アフリカ大陸の最西端にあり,面積は日本の約半分,人口は1,500万人ほどである。最近では,2018年ワールドカップで日本が対戦して2:2で引き分けた相手である。日本との共通点も多い。なんと言っても「おもてなし」の国である。現地語では「テランガ」という。最初の印象はみんなの笑顔で,青い海に面するダカール市に初めて着いたとき,東アフリカと比べて,なぜか関西の雰囲気を感じた。
文化活動も盛んで,毎年サンルイ市でジャズフェスティバル,2年毎にダカール市ではビエンナーレが開催されている。日本文化との親和性も高く,セネガル相撲やセネガル太鼓を楽しむ。柔道,空手などの武道も盛んである。また,30年来「俳句コンクール」が実施されている。フランス語で五七五の俳句を作っており,昨年は600を超える応募があった。
2.最近の情勢
特徴は,いたって安定していること。独立以来,クーデター騒ぎは一度もなく,大統領は選挙で平穏に選ばれている。2019年2月に大統領選挙が大きな問題なく実施され,平和と民主主義の浸透が改めて確認された。興味深いのは,投票前は,与野党共に選挙戦で集会やらデモやら騒がしいものの,一旦結果が出ると静かになる点である。結果はマッキー・サル大統領が再選されたが,野党は結果を受け入れないと宣言する一方,法的な不服申し立ては行わなかった。大統領就任式には,アフリカ18国からの大統領を含む各国要人が列席して,国際社会の信用の高さも示した。我が国からは,北村誠吾衆議院議員が総理特使として派遣された。二期目に入ったマッキー・サル大統領は,一期目の実績が認められた形で,二期目に入り勢いがますます増したところである。
なぜこれほど安定しているのか。部族の違いもあるし,イスラム教団も複数あるが,対立は見かけない。着任以来,現地や第三国の人の意見を聞いていると,もともとの伝統と気質もあるようだ。従来より,村で争いが起こると,当事者が徹底的に話し合うそうだ。その後,長老なりのリーダーが裁定を下すと皆がそれに従うとのこと。また,それぞれあるイスラム教団は穏健とのこと。異なる部族間で時に相手を馬鹿にするような冗談も言い合って笑い合う,そんな伝統もあるそうだ。
3.日本との関係
日本との関係では,1960年のセネガル独立以来外交関係を結んで続いている。在セネガル大使館は1962年に開設され,西アフリカで最初である。在京セネガル大使館は1975年に開設,1976年にODAがスタートした。1980年から青年海外協力隊の派遣が開始された。両国の関係は成熟しており,二国間に加えて,アフリカ全体の視点,世界的な課題の観点からの連携が進んでいる。
(1)二国間の協力
二国間では,数多くの開発協力案件が実施されてきた。インフラ(港湾,電気,給水等),漁業,農業,保健,教育,職業訓練など,幅広い分野で協力を実績してきている。西アフリカにおける我が国協力のモデル国ともいえる。実際に,例えば,セネガルをユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(国民皆保険)のモデル国に指定して,有償,無償,技協を組み合わせて支援を行っている。
今後の課題は,民間セクターの参加を奨励することである。セネガル政府も,公的資金のみでは量的な制約もあり,民間セクターの参画が国の発展に欠かせないことを強く意識している。我が国のTICADでも官民連携の重要性が強調されている。日本企業がセネガルの安定性と民主的な社会を活用しない手はないかと思われる。西アフリカのビジネス拠点となる国であり,他国の企業はそのつもりで積極的に進出している。距離や仏語圏ということで躊躇している余裕はなさそうである。
(2)アフリカ視点の協力
セネガルとの協力関係は二国間を超えて,アフリカ全体の視点から進めている。ダカールには,日本の支援で設立運営されている職業訓練センターがあり,35年の歴史を誇って日・セネガル協力のシンボルになっている。そして,20年来,他のアフリカ諸国の研修員をも受け入れ,西アフリカ地域の研修センターに育っている。保健や農業分野でも,アフリカ全体への普及を意識した協力が実施されている。
昨年12月に,ダカールにて日・セネガル共催で「日本アフリカの科学技術イノベーション協力のためのワークショップ」を開催した。これが発端となり,TICAD7と同時期に,日本アフリカ科学技術閣僚会合が実施されるに至った。また,2014年より開催されている「アフリカの平和と安定に関するダカール国際フォーラム」には,我が国は主要なパートナーとして,資金面,サブ面での貢献を行ってきた。
マッキー・サル大統領は,NEPAD(「アフリカ開発のための新パートナーシップ」)の議長職も担い,いろいろな場面でアフリカのリーダーシップをとる気概がある。我が国にとって,アフリカ視点の協力のよいパートナーとなってきている。
(3)世界視点の協力
さらに,世界全体の課題解決のため,協力し合えるパートナーにもなりつつある。日本とセネガルが,同時期(2016年から2017年)に安保理非常任理事国として協力し合ったのは記憶に新しい。本年,日本で開催されたG20サミットには,NEPAD議長ということもあり,マッキー・サル大統領が招かれた。アフリカからの参加は,南アフリカ,エジプトとともに三カ国であり,TICAD7への橋渡し役を期待されている。
4.ビッグイベントが目白押し
このように,多方面かつ多次元での協力関係が進むセネガルとは,ここ暫く目が離せないビッグイベントが続く。
2019年は,G20,TICAD7,即位の礼など,日本での重要行事が続いている。セネガル大統領はすでにG20とTICADに出席し,加えて,多くの大臣がG20関係閣僚会合に参加している。
2020年は,日本セネガル外交関係樹立60周年,対セネガル青年海外協力隊派遣40周年となる。これまでの良好な関係を祝い,今後の発展に弾みをつけるため,日本とセネガルの双方で,一連の記念行事を実施する予定である。政治,経済,文化,教育,スポーツなど幅広い分野の事業計画が進んでいる。(なお, 1960 年は西アフリカの多くの国が独立し, 日本と国交を結んだ。従って, 日本と西アフリカの60周年と言ってよいであろう。)
2021年には,ダカールで世界水フォーラムが開催される。我が国も深く関わってきたフォーラムであり,次回も積極的に参画していく見込みである。
2022年になると,アフリカ大陸で初となるユース・オリンピックがセネガルで開催される。セネガルとしては,2020年の東京オリンピックを手本として,日本からの協力も得ながら,ユース・オリンピックを成功させたいとしている。
各イベントのそれぞれで日本との関係が重要性をもっている。今後の展開が楽しみである。
了