ルワンダの人工衛星が完成! ― 続く「蛙跳び(leapfrog)」成長【アフリカと日本】


駐ルワンダ大使 宮下 孝之

 本年6月4日,東京大学の全面的な支援により,日本で研修を受けたルワンダ人技術者達が,ルワンダ初の人工衛星「RWASAT-1」の組み立てを完了し,この小型衛星は宇宙航空研究開発機構(JAXA)に引き渡されました。今後JAXAの手により国際宇宙ステーションに運ばれ,そこから軌道に投入される予定になっています。

 ルワンダは,近年急速な経済発展を続けており,それが「アフリカの奇跡」とも呼ばれることもあります。今から25年前の1994年,ルワンダではジェノサイドが発生し,3ヶ月の間に100万人以上のルワンダ人が犠牲になったことをお聞きになった方も多いと思います。ルワンダの歴史を紐解くと,実は94年以前にも国内では長年紛争が続いており,カガメ大統領自身も難民の子として3歳からウガンダの難民キャンプで暮らしていた経験があります。しかしルワンダ人は,1994年のジェノサイドによる破壊の中から立ち上がり,復興に向け努力を重ねてきました。25年前,まさにゼロから国造りを始めたルワンダですが,カガメ大統領の強力なリーダーシップの下,勤勉な国民の不断の努力により,その後は順調に経済成長を続けています。過去10年以上に亘りGDPは平均で毎年7%の成長を続けており,昨年のGDP成長率も8.6%を記録しました。

 ルワンダは2050年までの長期国家開発計画を発表していますが,2035年までの中所得国入りを目指しています。「ICT立国」を標榜し,内陸国であるハンディを自覚し,それを克服するための手段としてICTを活用したイノベーションを推進しようとしています。もちろん国内には課題が余りに多すぎて一挙に全てを克服することは困難ですが,大統領が先頭に立って世界の最新技術を貪欲に取り入れようとしていることは間違いなく,今から3年前には,米国ジップライン社のドローンによる血液・薬剤輸送事業をアフリカでいち早くスタートさせました。そして今度は日本と宇宙分野での協力を進めようとしています。この日本とルワンダとの宇宙分野での協力も,わずか2年前に始まったばかりです。日本では長い時間かけて開発してきた技術をルワンダは僅か2年で獲得し,まさにこれから「蛙跳び」しようとしています。

 このように,中間発展段階を一気に飛び越えて先進国に追いついてしまう「蛙跳び」は,実は多くの途上国で見られますが,ICT分野で「蛙跳び」を続けるルワンダでは,既にインターネットが国土の95%をカバーしており,モバイルマネーも地方を含めてかなり広く普及しています。しかし一方で,国内の基礎的インフラの状況をよく見ると,いびつな発展が目につきます。例えば全人口に対する給水率は85%と公表されていますが,実際に蛇口をひねれば水の出る家はごく僅かです。ルワンダの給水の定義は「自宅から500メートル以内に給水ポイントがあれば給水されている」と見做すものです。従って,多数の子供達も,毎日ポリタンクを持って給水ポイントまで水汲みに通っています。また,電化率についてもようやく50%に達したばかりです。このためルワンダ政府は2024年までに給水率も電化率も100%にすることを目標に設定しています。この目標は,単に外国の先進技術を導入するだけで達成できるものではなく,ルワンダ政府と国民の今後一層の地道な努力が必要です。このように「蛙跳び」を続ける途上国では,特に政府が力を入れる特定分野だけが異常に発展した状況が見られており,社会がバランスのとれた発展をしていないケースも少なくないと思われます。従って「蛙跳び」を続ける途上国も,一皮むけば,未だそこには多数の貧しい国民が暮らしているのが現実でしょう。したがって,このような途上国に持続可能な社会を形成していくためにも,ODAを通じた国際協力が引き続き必要とされていると思います。

 さて,ルワンダと日本との宇宙協力プロジェクトは,多くの途上国で見られる「ODA頼み」のプロジェクトではありません。まず日本側の主体が日本政府ではなく東京大学です。東京大学が協力の対象国としてルワンダを選び,ルワンダ政府とは,水資源の把握や農業・干ばつ対策のための技術のひとつとして,覚え書きに基づき,両者一体となって小型人工衛星の開発を進めてきました。このことは,内閣府の宇宙開発戦略本部においてモデル事業にも取り上げられています。またルワンダ政府側も「オーナーシップ」をしっかりと発揮し,国家予算の中から人工衛星開発資金の一部を拠出しています。もっとも,ルワンダにとり必要なのは,内陸国のハンディを克服する観点からの上空からの情報であり,具体的にはリモートセンシングや通信といった技術です。もとより宇宙大国と渡り合おうなどとは微塵も考えていません。また,これに協力する東京大学も,RWASAT製造に当たり,地方の中小企業や宇宙ベンチャー企業などを積極的に取り込んでいることから,広く日本の地方創生や中小企業支援に貢献するものとなっています。そして,今回の人工衛星1号機「RWASAT-1」に続き,2号機「RWASAT-2」も打ち上げられる予定です。1号機は全面的に東京大学の支援を受けて組み立てが行われましたが,2号機はルワンダ人技術者のみで組み立てる予定です。成果を期待したいものです。

 最後にもうひとつ,ルワンダの「蛙跳び」を紹介したいと思います。それは,最近「内向きになっている」と評されることが多い日本の若者達による「蛙跳び」です。現在ルワンダで活動している日本企業は27社になりました。私が着任した2016年7月には僅か7社でしたが,その後3年の間に,ルワンダに進出して会社を立ち上げてビジネスを始める日本の若者が急増しています。青年海外協力隊員としてルワンダで2年間活動した後にルワンダに戻ってくる青年も少なくありません。彼らの活動分野としては,農業,ICT,そしてコンサルタント業がほとんどですが,企業数が僅か3年で4倍に増えたことは,素晴らしい「蛙跳び」だと思います。内向きでない日本の若者がルワンダを目指して来てくれることは,現地に駐在する者として本当にうれしいことです。ルワンダは世銀の「Doing Business」という報告書で「アフリカで2番目にビジネスのしやすい国」と評されていることも背景にあると思いますが,ルワンダで苦労しながら一定の成果を挙げた先輩日本企業のサクセス・ストーリーが若者達のネットワークを通じて広がっているのも大きな要因ではないかと思います。ルワンダは,清潔で治安が良く,さらに汚職も許されないという,アフリカの中では極めてユニークな国だと思います。日本の若者達が,自分の可能性の限界に挑戦する場所としてルワンダを選んでくれていることを有り難く思うとともに,在ルワンダ日本大使館としても,こうした日本の若者達を今後一層支援していきたいと思っています。

(2019年6月17日)