日ペルー交流年 ~日本人移住120年、南米へのゲートウェイ~
在ペルー大使 土屋 定之
2018年2月の着任以来、日々感じるのがペルー人の日本に対する意識が極めて友好的なことです。これほどまでに日本に対して良いイメージを持している国は他には無いと、大使として、大変うれしく、また常に感謝しています。
なぜ、太平洋を挟んで直線距離で約1万5千kmの地理的な遠さがあるにもかかわらず、ペルーではこれほどまでに友好的な対日関係を維持できているのでしょうか。その最大の理由は、「優秀な日系人の方々」です。豊かな自然と文化、そして様々な食材を使った料理など「多様性」というキーワードが当てはまるペルーにおいて、ペルー日系社会はペルーの「多様性」を象徴するものです。2019年、日本とペルーは日本人のペルー移住120周年という節目を迎え、両国政府は本年を「日ペルー交流年」として、両国の連携協力を一層強化していくことで一致しています。この重要性に鑑み、当館は1月1日、当地最有力紙「エル・コメルシオ」紙の紙面を買い上げる形で両首脳のメッセージを掲載しましたが、日系団体幹部からは、これまでこのような画期的かつ素晴らしいメッセージは見たことがなく日系人として誇らしかったとの声も聞かれるなど、「日ペルー交流年」を国内レベルで積極的かつ効果的に発信しています。これまで以上に両国関係を発展させる絶好の機会となる中、その重要性を踏まえつつ、日系人のこれまでの足跡をたどると共に、「戦略的パートナーシップ」を基礎とした両国関係の展望について述べてみたいと思います。
「日本人移住120周年」の意味するところ
現在、ペルーにおける日系人の存在というのは政治、ビジネス、学術などの幅広い分野においてペルー社会のみならず両国の架け橋として活躍しておられます。ペルー日系人の数は約10万人に達するとも言われ、中南米ではブラジルに次いで多い状況にあります。
しかし、日系人のこれまでの歩みというのは決して平たんな道のりだったわけではありません。それは、2018年8月に当地を訪問した河野外務大臣の「ペルー日系社会が様々な苦難を乗り越えて、これまでペルーで勝ち得た信頼が、そのまま祖国である日本への信頼に繋がっている」という言葉にまさに集約されています。1899年4月3日、森岡移民会社がチャーターした日本郵船の佐倉丸で約790人の農業契約移民がペルーに到着しましたが、以後劣悪な生活環境と厳しい労働で亡くなる人も多く、移住者は苦労を重ねられました。日本からの移住者たちはそれぞれが努力すると共に、お互いに助け合うことで徐々にペルー社会において存在が大きくなってきたと聞いています。また、第2次世界大戦中の日本人に対する暴動や日本語教育禁止、アメリカへの強制収容といった過酷な体験もしてきたことを「日系社会」の歴史を語る上では忘れてはならないことです。こうした歴史を経て、戦後日系人の方々は先人の御尽力の上に、更に努力を重ねられ、今では3世、4世の若い世代があらゆる分野で活躍されています。これがまさに河野大臣が言わんとされる点です。このペルー日系人の方々の社会への貢献度合いとそれに対する高い評価を私は日々実感しています。
日本とペルーの友好関係は社会の中に根付いており、それを象徴するのが1989年8月に挙行された日本人ペルー移住90周年記念式典においてペルー政府が、第1回契約移住者がペルーに到着した1899年4月3日にちなんで制定した「ペルー・日本友好の日」です。ペルーでは毎年4月3日には記念式典が実施されています。また過去を振り返れば皇室の御訪問もあり、1999年、清子内親王殿下及びフジモリ大統領(当時)御臨席の下、日本人ペルー移住百周年記念式典が開催されたほか、移住110周年に当たった2009年には常陸宮同妃両殿下御臨席のもと、また、同年11月には当時のガルシア大統領出席を得て記念式典が開催され、その他、年間を通して多くの記念・文化行事が行われ、両国友好関係の一層の強化に繋がりました。
「戦略的パートナー」としての日ペルー関係
もちろん、冒頭述べた日ペルー関係の長きにわたる友好関係というのは日系人の存在もさることながら、これまでの145年を超える外交関係とそれに根ざす国際場裡での協力という面も大きく影響しています。
日本とペルーの関係は中南米で最も長い関係を誇り、自由、民主主義、基本的人権、法の支配、国際法の尊重といった基本的価値を共有する戦略的パートナーとして世界の安全保障や自由貿易、多国間主義といったビジョンを共有し、その実現のために緊密に連携しています。3年連続で外相会談も開催されるなど、国際場裡における両国の連携は、ペルーの我が国に関する深い理解の下、極めて緊密かつ良好です。
2018年12月30日に発効したTPP11については検討の当初より貿易、投資の自由化を進めると共に、知的財産や電子商取引など幅広い分野で新たなルールと自由で公正な経済秩序の構築のため緊密に連携してきました。この原稿を書いている時点では、ペルー国内手続きが完了していませんが、早期に完了を目指した努力が行われています。
さらに日本にとってペルーは中南米最大のODA被供与国であり、特にペルーの経済社会インフラの整備、格差是正、環境、防災、教育等の分野を中心に支援を行ってきたことは、両国の強固な信頼関係を形作る要素の一つでもあります。
なお、現在大使館として力を入れている案件として、インフラ整備支援があり、その1つがペルーの首都圏交通分野における協力です。特にペルーの首都リマを訪れた方なら感じられたことがあるでしょうが、交通渋滞の解消や物流コストの低減はペルーが抱える大きな問題の一つです。大使館としては都市交通の改善を通じたペルーの発展を目指し、都市交通インフラに大きな関心を持つ大統領府並びに運輸通信省と日々連携しています。2018年10月にはトルヒーヨ運輸通信大臣に日本を訪問いただき、国土交通省との間で協力覚書を締結しました。訪日後、トルヒーヨ大臣と会談したところ、「直接日本の企業の総合力と先進的な技術力を視察することが出来、大変感銘を受けた」とのことでした。もう1つの力を入れている案件が、総合防災対策の構築支援です。ペルーは日本と同様環太平洋火山帯に位置する国であり、地震や津波に対する問題意識は極めて高く、これらに対する早期警戒警報システムの構築や地震と津波の複合災害に対応した広域・分散型の科学的な知見とペルーの特性に基づく新たな方法による防災避難体制の確立を目指し、大統領府や国家防災庁と密接に準備を進めています。今後日本の技術を活用したペルーの都市交通インフラの改善や防災対策の強化を期待しているところです。
「南米へのゲートウェイ」としての重要性
ペルーは中南米地域でも安定した成長率を誇り、現在では19の国・地域との通商協定が発効しているなど中南米における貿易・投資の拠点の一つとなっています。それ故に我が国はペルーとの経済関係を重視し、様々な地域的な経済枠組において太平洋を挟んだ重要なパートナーとして連携をとっています。加えてペルーは世界有数の鉱物資源国であり、日本にとってもペルーは鉱物資源を安定的に確保できる重要な供給国です。これを背景として、日本企業によるペルーへの鉱業分野への投資は拡大しており、昨年もビスカラ大統領が知事時代から推進しているケジャベコ鉱山を含めた2件の大型プロジェクトへの投資が決定し、内外の大きな注目を集めました。加えて、二国間経済関係の更なる促進に向け、昨年10月にはビジネス環境整備小委員会と鉱業官民合同会議を実施しました。
日本に対する高い評価と更なる成長のための潜在力等を踏まえれば、ペルーはビジネス展開のメリットは大きい国だと考えています。さらに、新規事業がペルーにおいて成功すれば、ペルーのみならず中南米全体への展開も期待されるところ、中南米へのゲートウェイとしての魅力は大きいのではないでしょうか。
結語
145年以上の外交関係、そして120年の日系人の歩み、これらがあいまって形作られる良好な両国関係には、まだまだ大きな成長の潜在力があると確信しています。それをより強固なものにするとともに、ペルーの魅力を日本に、日本の魅力をペルーに対外発信していくべく、大使として今後も尽力していく所存であります。皆様の御理解と御支援をいただけますよう、よろしくお願いします。(了)