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第52回 高齢世代

元駐タイ大使 恩田 宗

 780歳台の高齢者が火事や土砂災害から逃げ遅れたり避難所生活に耐えられず命を落としている。同じ世代として気の毒に思う。

 この世代は少年時代が戦中・戦後の耐乏生活で長じてはワークホリックと言われるほど働いた。お陰で高度成長の恩恵も享受したが人生の終わりになって経済・社会の停滞・閉塞と未曾有の大震災にも遭遇した。日本の盛衰のひとうねりを体験したことになる。

 しかし考えてみると一サイクル前の世代も同じだった。維新前後の混乱の中で成長し富国強兵の国策のもと幾つかの戦争を戦って一等国の国民だと誇っていたが最後に敗戦国の悲哀を味わされた。人生780年も生きるとどこかに山があり谷がある。

 「解体新書」の杉田玄白は1733年の生まれだが晩年は世が太平だということの他9つの幸運に恵まれたとして九幸老人と称し幸福な老年を送り85歳で没した。彼の780歳代は江戸文化の最盛期に当たり北方を脅かすロシア軍艦など時代の変化の兆しが見えてはいたがまだ天下太平の時代だった。しかし、彼の壮年期は驕奢と貧窮が並存した田沼時代でその後半は天明の大飢饉(6年間で日本の人口が90数万人減)や浅間山の大噴火(死者2万余)があった。大規模な百姓一揆と打ちこわしが頻発し世情騒然としていた。彼自身「後見草」の中に「この末いかなる世とや成るならんと・・日夜案じ居り侍りし」と書いている。心細い思いをしていたに違いない。

 平成の次の時代に生きる世代はどんな山に登りどんな谷を渡るだろうか。当面の課題はグローバル化した新しい世界に適応するための改革である。それにはには既得権の整理など経済社会組織の大胆な組み替えが必要である。そうした大改革は外圧など余程の事態にならない限り日本人はよくしない。現にこの十数年來議論だけで終わっている。

 しかし何とか奮起して事を成し遂げたいものである。幸い日本人の国家意識や連帯意識はまだまだ強く残っており子供達でさえ「日本がんばろう」と叫んでいる。次の世代には改革をやり遂げてその先に進んで欲しいと思う。

 高齢世代にとり今となって出来ることといえば健康保険や年金などの既得権を日本の次の前進のため少し譲る位のことである。福祉国家建設という日本人が戦後一丸となった目ざしてきた理想の達成からは後退になるが歴史の進行は一本道とは行かないものだと思うより他ない。