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「愛の都」アシュガバットより


駐トルクメニスタン大使 勝亦 孝彦

 2016年8月26日、トルクメニスタンの首都アシュガバットに初代の現地駐在大使として赴任しました。それまでは駐露大使が兼轄していましたが、2015年10月に安倍総理大臣が日本の首相として初めて当国を訪問された際にトルクメニスタンとの関係強化のために打ち出したものでした。

 このような重い任務を背負っている上に、赴任前に耳にしたトルクメニスタン評は、「大統領が絶対」、「夏灼熱・冬零下の砂漠地帯」、「インターネットは通じない」、「日本食は当然無い」など、これから赴任する身にはいささか厳しい内容でした。しかしながら、到着時の私の印象は一転しました。真夜中の空港到着にもかかわらず、友好議連の会長と外務省アジア太平洋局長が当館館員と共に丁寧に出迎えて下さり、感動。そして、市街に向かうと、白一色の美しい街並みに圧倒されました。Ashgabat「愛の都」(Ashg=愛 abat=国、都市)での生活の始まりです。

アシュガバットの白亜の町並み

 さて、トルクメニスタンは、日本ではまだまだ知る人ぞ知る国で、一般的には馴染みの少ない国でありましょう。そもそも中央アジア5カ国は、1991年にソ連(当時)から独立した世界で最も若い国ですし、その中にあって特にトルクメニスタンは厳重な入国管理を行っており、一般の日本人が観光で訪れるにはハードルが高い国です。まだ2年程度の当国勤務ですが、私が肌で感じたこの国の印象や日本との関係などをご紹介して、皆様のご理解に少しでもお役に立てれば幸いです。

 「大統領と国民」、「白亜の街とギネスブック」、「天然ガスと日本車と大学」。この国の印象深い点を3つ挙げろと言われれば、こうなります。

「大統領と国民」

 ベルディムハメドフ第2代トルクメニスタン大統領は、1997年にニヤゾフ初代大統領の急逝を受けて就任し、現在3期目です。昨年2月の大統領選挙で得票率97%を超えて、国民の圧倒的の支持を得ました。町中のいたる所、公共機関に大統領の肖像が掲げられ、式典の際には市民が街頭に整列して「Arkadaga shohrat!(アルカダァ・ショフラット=大統領に栄光あれ!)」と連呼する光景を目の当たりにすると、独裁的なイメージで見られがちですが、私は少し違うのではないかと思います。

 トルクメニスタンは、豊かな天然ガスを産出する一方で国土の80%以上が過酷な自然環境のカラクム砂漠に覆われ、人口も500万強と少なく軍事力も限定的です。一方、周辺はロシア、イラン、中国など難しい大国に囲まれ、アフガニスタンとも長い国境を接しています。見方を変えますと、戦略的に重要な位置にあり、エネルギー資源に恵まれた国ですから、周辺国の政治・安全保障そして経済上の利害が絡みやすいとも言えましょう。「永世中立国」として何れの地域同盟にも属さない全方位外交を展開しているのも、このような安全保障上の環境を踏まえたものです。ですから、国民は、国の繁栄を牽引し、対外関係でも国民の安全と利益を守る強いリーダーを必要としていると考えるのが自然だと思います。

 ところで、ベルディムハメドフ大統領は大変な親日家で、お会いする際は必ず天皇陛下への敬愛、安倍総理との信頼関係に言及し、そして日本をパートナーとして自国を発展させていくのだと熱く語ります。昨年の天皇誕生日レセプションには、極めて異例なことですがメレドフ副首相兼外相と大統領子息のセルダル国会立法委員長(現外務次官、対日友好議員連盟会長)のお二方に臨席頂きました。

 余談になりますが、当地に駐在する各国大使と大統領の距離は大変近いです。大使でも任国の元首と接する機会は限られている国も多いと思いますが、当国では、およそ大統領が主催、臨席する公的行事のほぼすべてに各国大使は招待を受け、大統領と親しく接する機会が頻繁にあります。祝祭日の式典をはじめとし、新たな産業・社会施設の完成式、各国元首来訪時の歓迎式典・晩餐会などです。また、アフガン国境方面での鉄道完成式やカスピ海のリゾートホテルのオープニングなど泊まりの行事にも同僚大使と共に参加し昼夜を共にしますから、大使同士は「学校のクラスメートみたいだ」「いや、ボーイスカウトの仲間だ」と冗談を言うくらい親密な関係です。週末や祝祭日の多くが行事で埋まるのでちょっと息切れしている大使もおりますが。

ベルディムハメドフ大統領の黄金の像

「白亜の街とギネスブック」

 多くの人はトルクメニスタンは気候風土が厳しい国だというイメージでアシュガバット空港に恐る恐る降り立ちますが、まずはその近代的な設備と美麗さに感激します。そして、私がそうであったように、市の中心地に向かう途中で、その驚きはエスカレートしていきます。白い大理石を施した建物が次々と目に映り、すばらしく舗装された道路と、砂漠国とは思えない緑の多い公園と噴水の数々。ゴミ一つない清潔な街並み。しかし、人が少ないので、別世界のような無機質な印象も。

 アシュガバットには、大統領府や官公庁、大型公共施設、ホテルなどが立ち並ぶ新市街とソ連時代からの住宅や施設がある旧市街がありますが、新市街は大変計画的に、美観、景観に配慮して設計されています。白で統一され、清潔感を出しているのは、特に大統領が気にかけているためと言われています。歯科医師出身で健康行政にも力を入れており、原則自宅やホテル以外は屋内外で禁煙、また、町中に清掃サービスを行う人員が多く配置され、毎日勤勉に掃除をするのでゴミやたばこの吸い殻などは落ちていません。何と公用車の色も白で統一されており、我々外交団の館長車も当局から白を指定されるほどの徹底ぶりです(当館館長車も真っ白で来訪者の方々は「えっ!黒ではないの?」という顔をされます。)。

 トルクメニスタンの人口は500万人強ですが、アシュガバットにはそのうち80万人以上が集中しています。とは言え、日本に比べて人口密度は相当少なく、どの国にもあるような商店や飲食店が連なる繁華街もないので、平日でも人通りは少なく、最初は違和感を覚えました。一方、当国では女性が大変目立ちます。理由はいくつかあると思いますが、一つには当国は女性の人口比率が男性を上回っていること、女性の社会進出がイスラム圏にあって比較的進んでいること、そしてトルクメン女性の「コイネック」という伝統衣装です。大変鮮やかな赤や青を基調とし、金糸の刺繍をあしらったロングスカートのワンピースで、長身の多い当国の女性がこれを着て颯爽と歩く姿はとても印象的です。一方、男性は、上下黒のスーツに白ワイシャツ、黒ネクタイというモノトーンで統一されており、大変地味なビジュアルです。

華やかなコイネックを纏い客人をもてなすトルクメン女性

 ここでアシュガバット名物のギネスブック登録建造物を紹介します。白亜の街並の中に、いくつかの建物が異彩を放っています。丘の上にそびえる宇宙船のような形をしたホテルや結婚式場、官庁街の中に突然現れる「屋内」大観覧車、星形のテレビ放送局、そして巨大な鷹が羽を広げた形の新国際空港。これらの多くは、「○○の形状をした」世界最大の建造物としてギネスブックに登録されています。毎年ギネス登録が追加されるので、最初からギネスを狙った設計をしているのではと勘ぐりたくなりますが、国を内外にアピールする広報マインドには感心します。

世界一大きな「屋内」大観覧車

世界一大きな星形テレビ放送局

「天然ガスと日本車と大学」

 なぜこの3つを並べるのかと思われることでしょう。これらは、日本とトルクメニスタンの関係を表すキーワードです。

 当国は、世界第4位の天然ガス埋蔵量を誇り、高い経済成長率と一人あたりGDP約8,000ドルという経済発展を支えてきました。しかし、油価の下落や大型投資による債務増などの問題もあり、経済・産業の多様化や輸入代替産業及び輸出産業の育成が大きな課題となっています。そこで、日本企業の技術が大活躍しています。天然ガスから様々な製品の原料となる化学物質やガソリンなどの高付加価値の製品を製造するプラントの建設が、トルクメニスタン国内各地で進んでいます。各国からの輸入に頼っていた製品を国内で製造する原料となり、また、製品は海外輸出も創出します。プラントの現場は、砂嵐が吹き荒れるカラクム砂漠の過酷な環境にありますが、日の丸を背負ってトルクメニスタンの国作りに貢献するのだという高い意識をもって日夜作業に取り組んでいる日本企業の皆さんの姿に感激しました。

日本企業が建設中のプラント視察

 そして、日本車はトルクメニスタンが目標とする技術の象徴です。当国を走る自動車の大半は日本車ですが、人々はその高い性能に魅せられています。当国指導者からは将来日本の技術を習得してトルクメニスタンで日本車を製造するのが目標だと聞かされました。

 最後に、大統領のイニシアティブによる「オグズハン名称工科大学」の登場です。これは、2015年の両国首脳会談を経て2016年9月に開校した日本型カリキュラムで先端技術を習得するための大学です。筑波大学が全面的に協力し、本年9月の新学期から日本人講師による専門課程が始まります。学生は、英語と日本語で教育を受けるため、先行して日本語教育も行われています。同時に、複数大学及び中等教育での日本語コースも開始され、日本語学習者はそれまでの1大学での50名から3,500名に爆発的に増加しました。将来の日本からの技術習得と留学を視野にいれた英断です。

オグズハン名称工科大学開校式:ベルディムハメドフ大統領によるテープカット

 教育・人材育成の協力を通じて将来トルクメンスタンを背負う若者を育て、日本企業とも連携し日本の技術を根付かせる、そして両国政府が後押しする。これが今後トルクメニスタンとの関係で我々が腰を据えてやるべきことだと実感しているところです。

(以上)