フランスにおけるジャポニスム2018の開幕


在フランス日本国大使館 次席公使兼広報文化部長 樋口 義広

 大型日本文化紹介事業「ジャポニスム2018」が、7月12日に正式開幕しました。本稿では、この企画の経緯や見どころをご紹介します。

● 開会式と関連イベント

 7月12日、パリの巨大複合文化施設ヴィレットでジャポニスム2018の開会式が行われ、河野外務大臣とニッセン文化大臣の他、日仏関係者約400名が参集しました。当初安倍総理大臣がマクロン大統領と共に参加する予定でしたが、西日本豪雨への対応のため急遽訪仏を中止せざるを得なくなった総理の名代として河野大臣がパリに駆けつけてくれました。

 河野大臣は、ニッセン大臣他の出迎えを受けた後、ヴィレットで先行開催中のチームラボの「境界なき世界」展を、フュジリエ・ヴィレット総裁とチームラボ創設者の猪子寿之氏の案内で視察しました。同展は、先端テクノロジ-を駆使したインターアクティブな大規模デジタル・アート空間を提供する体験型展示会で、5月半ばの開幕以来すでに沢山のフランス人から好評を博しています(7月末の時点で入場者数14万人超)。

 その後、会場脇の芝生グランドでサッカーに興じる日仏の子供達と交流した両大臣は、続いて開会式の舞台に上がって日仏の子供達と共に、ミクロフォリーというタブレットを使ったデジタル美術鑑賞ソフトを操作しながら、大型スクリーンに映し出された日本と西洋の名作のデジタル映像を解説と共に鑑賞しました。

 その後、開会スピーチを行った河野大臣は、次のように述べました。「特筆すべきことは、日本とフランスの最初の橋渡しをしたのが、文化であったということです。フランスと日本の両国民の心と心が、絵の色彩で、詩の韻律で結びつき、文化を通してお互いを高めあい、そして価値観を共有しました。自由、平等、博愛は、我が国がフランスとともに世界に広めるべき共通の価値観になっています。」

 続いて、ニッセン大臣は、日仏の出会いが新たな想像力と文化を生み出してきた歴史を振り返りつつ、ジャポニスム2018で取り上げられる広範な日本文化の魅力についてフランス側の視点を交えながら紹介してみせるとともに、2021年に日本でフランス文化イベントを開催する意向を初めて公にしました。

 締めくくりに和太鼓グループ「DRUM TAO」によるダイナミックな演奏が披露された後、参加者は会場内のカクテル会場に移動、特製の法被を羽織った河野大臣による乾杯の音頭に続いて、和食を賞味しました。

● オープニング関連イベント

 今回の訪仏時、河野大臣はいくつかのジャポニスム2018関連イベントに参加されました(河瀬直美監督による日仏合作「Vision」のプルミエ上映会、ルーブル美術館ピラミッド内に設置された名和晃平氏による巨大インスタレーション(Throne (玉座))、パリ日本文化会館における前衛書家井上有一の展覧会)。ロスチャイルド館での「深みへ-日本の美意識をもとめて-」展は、ジャポニスム2018の全体コンセプトに基づき、縄文土器から現代インスタレーションまで約100点の厳選された展示品によって、日本の美意識をいわば「目次」の如く提示する企画展で、河野大臣は開幕テープカットに臨まれた後、本展示のキュレーターを務めた長谷川祐子東京芸大教授の案内により一つ一つの展示を丁寧に見て回られました。

 また、河野大臣は、離仏前の時間を使って、ジャポニスムとゆかりの深い土地であるパリ近郊のジベルニーを訪問し、浮世絵から大きな影響を受けた印象派の父クロード・モネが晩年を過ごした住まいとアトリエ(モネの家)を訪れるとともに、その斜向かいに位置する印象派美術館にて「ジャポニスムと印象派」展を視察されました。

 ジャポニスム2018とは直接関連するものではありませんが、河野大臣は、恒例になっている7月14日のフランス革命記念式典パレード観覧に招待されました。昨年は、米国の第一次世界大戦参戦100周年ということでトランプ大統領が招待を受けましたが、今年は友好160周年を祝う日本と、仏との空軍協力20年を迎えたシンガポールが招待国となりました。安倍総理の代理として訪仏した河野大臣は、マクロン大統領とリー・シェンロン首相と共にコンコルド広場の特設席から記念パレードを観覧しました。今年のパレードには、日本の陸上自衛隊員7名が徒歩行進部隊として特別参加し、友好160周年に華を添えました。

 今回の訪問中、河野大臣はル・ドリアン外相と日仏外相会談を実施し、自由で開かれたインド太平洋の実現に向けた協力や明年のG20/G7議長国としての緊密な連携を確認するとともに、日仏海洋対話の立ち上げで一致しました。更に、河野大臣とパルリ軍事大臣による日仏物品役務相互提供協定(ACSA)への署名も大きな成果となりました。

● ジャポニスム2018とは

 ジャポニスム2018は、日仏友好160周年を記念し、古代から近現代に至る日本文化の幅広い魅力をフランスを起点に世界に発信する大型文化イベントとして企画されたもので、2016年に安倍総理とオランド大統領(当時)との間でその実施について合意を見たものです。その後、仏では大統領選挙が行われ、昨年5月にマクロン大統領が誕生しましたが、この企画は日仏関係における重要事業として仏新政権にもスムースに引き継がれました。当初の構想から2年以上もの時間を掛けて、日仏双方で協力しながらその準備を行って来ました。当初からその前線で準備に当たってきた日本大使館としても7月の開会式はたいへん感慨深い節目となりました。

 この企画の発端は、2015年に発足した「『日本の美』総合プロジェクト懇談会(座長:津川雅彦氏(その後、ジャポニスム2018総合推進会議総括主査))」で、誇るべき日本文化を一堂に集めて世界に発信する『日本博』を開催するとの提案が示されたことです。その後の検討を経て、文化大国であり、また以前から日本文化の最も良き理解者でもあるフランスの首都パリを中心に、日仏友好160周年に合わせてジャポニスム2018として開催することが決定しました。

 日本文化事業を日仏友好関係全体の文脈に位置づけるべく、構想から準備・実施に至る一連のプロセスにおいて日仏双方が協力してこれに当たることが重要とされ、そのために日仏合同委員会(日本側議長:木寺駐仏大使、仏側議長:仏外務省次官(マセ次官(当初)、グルド・モンターニュ次官(現在))が組織され、日仏双方の関係者(日本側から、外務省・日本大使館、総理官邸、国際交流基金・パリ日本文化会館等、仏側から、大統領府、外務省、文化省、アンスティチュ・フランセ、パリ市、イルドフランス州、関連の美術館・劇場等)が一堂に参集して検討を重ねました。会合は、基本的にこの事業の日本側実施組織となった国際交流基金の安藤理事長他の仏出張の機会を捉え仏外務省にて開催され、これまでに計11回の会合を重ねました。

 そもそもジャポニスムとは、19世紀にフランスを始めとする西欧で紹介された浮世絵や装飾品、舞台芸術等の日本文化が西欧の芸術家達の新たな想像力を大いに掻き立てた現象を指したものです。その時から時代は変遷しましたが、日本の文物は引き続きフランスを含む世界中の芸術家達の想像力の源泉の一つになっています。元々のジャポニスムはフランス人が日本の美学を大きな衝撃をもって受け止めた現象を指す言葉でしたが、今回の企画は、現代においても脈々と生き続けている日本の美学の姿とインパクトを今度は日本の側から再提示し、フランスの人々に新たな発見と驚きを提供する試みと言えます。日本語表記では区別がつかないのですが、仏語表記のJaponismesが複数形なっているのは、現代におけるジャポニスム現象が様々な新しい相の下にあることを暗示しています。

 本企画の公式パンフレットにおける挨拶で、マクロン大統領は、次のように述べています。「日本と西欧が出会う契機となり、また19世紀を特徴づけた、日本のあらゆるものに対する熱狂である「ジャポニスム」の動きに寄与した沢山の出来事があったのと同じように、1世紀半の時を経て日本が再訪することを決めたこの「ジャポニスム」をめぐって、今日の日仏二国間関係を祝う沢山の理由があります。日本は世界に輝く芸術・文化を有しています。日本の創造的な芸術家たちは新たな世代の熱狂を喚起しています。常に新しいものを追求するフランスの大衆と芸術家は、現代日本を発想と革新の持続的な源泉と見ています。「ジャポニスム2018」の企画は、こうした日仏間の相互交流の成果でもあります。」
副題の「響き合う魂」とは、日本とフランスの感性が共鳴し合っていること、すなわち双方が文化を通じて互いに刺激を得てきたこと、そしてそれが現在も続いていること、またそうした共鳴の輪を世界中に広げていくことで、21世紀の国際社会が直面している様々な課題の解決に取り組んでいくとの意欲が込められています。

 政府中心による文化事業としては過去最大規模の企画を友好160周年に合わせて実施することにより、フランスを起点として日本文化の新しいムーブメントを世界中で巻き起こそうというのがジャポニスム2018の狙いであり、その射程はフランスに留まらず、欧州、そして世界の他の地域を広く含むものです。また、そのインパクトが2020年にオリパラをホストする日本自身の新たな発展の起爆剤となることも期待されています。特定の国における文化事業に予算と事業を集中投下し、そのインパクトを二国間関係の文脈で好循環させるとともに、日本を含む世界中に波及させるという手法において、ジャポニスム2018は我が国の文化外交の新たな形とも言えるでしょう。

● 今後の展開と見どころ

 ジャポニスム2018の公式企画(50を越える事業)は来年2月末まで続きます。企画は、展覧会、舞台公演、映像及び生活文化他の4つに大別され、場所や時期は様々ですが、どの時期においても複数の日本関連事業がパリを中心に実施されていることになります。主として国際交流基金(予算規模約40億円)によって企画・実施される公式企画とは別に、任意の団体・個人の自主的な企画・実施による「参加企画」という枠組みもあり(公式HPを通じた申請に基づいて事業認定)、最終的には100を超える参加企画が実施されることが見込まれており、公式企画と共に相乗効果を発揮しつつ、ジャポニスム2018全体が盛り上がることが期待されています。

 当地における新学期となる9月から10月にかけての時期は、例年、様々な文化行事のハイシーズンとなりますが、ジャポニスム2018についても、様々な大型企画が予定されています。具体的には、伊藤若冲展、雅楽、松竹大歌舞伎、狂言、日本の映画100年、エッフェル塔特別ライトアップ、琳派展、明治展、芸術祭フェスティバル・ドートンヌへの日本の舞台作品10作の参加、縄文展、「地方の魅力-祭りと文化」等の特別企画が目白押しです。

 9月半ばには、皇太子殿下がフランス政府からの招待により、公式訪問され、ヴェルサイユやパリでジャポニスム2018関連イベントに出席される予定です。

 ジャポニスム2018の今後の展開にどうぞご期待下さい。

【参考】
ジャポニスム2018公式HP:https://japonismes.org/

開会挨拶を行う河野外務大臣と
ニッセン文化大臣

「深みへ」展の視察

革命記念日パレードの観覧