2030年に中所得国入りをめざす、アフリカの内陸国、ザンビアの今


駐ザンビア大使 側嶋 秀展

1.はじめに
 この文章を書いているのは、平成29年(2017年)8月。ルサカに着任して10か月経った。
初対面のザンビア人から、ザンビアの印象について聞かれた場合、いつも外交的に次のように答えてきている。「快適です。人々は親切で、自然は美しく、気候も穏やかだし、治安もいいし。」他方、旧知の人とは、特に外国人とは、もっと率直に意見を言い合う。
 街に車は多い。大半が日本車であるが、中古車が多い。主たる公共交通機関は、ぎっしり乗り合うように改造されたミニバン。物はそれなりにある。ただし、スーパーマーケットに行くと、例えば、お菓子はほとんど南ア製。
 まだまだ発展の余地は大きいと感じている。

2.政治情勢
 ザンビアは、1964年10月24日(東京オリンピックの閉会式の日)の独立以来、内戦やクーデターは経験せず、平和を維持している。1991年と2011年には選挙結果を踏まえ、平和的に政権政党の交代が行われた。一般犯罪には注意が必要ではあるが、ザンビアはアフリカの中では治安はいい方であると思う。
 また、コンゴ(民)やアンゴラの和平を仲介した。国連PKOにも参加してきている。特に評価されるのは、隣国のコンゴ(民)やアンゴラからに加え、遠いルワンダ、ブルンジ、ソマリアからも、合計5万6千人以上の難民・元難民を受け入れており、そのうち、アンゴラからの長期移住者のすべてとルワンダからの長期移住者の大半を「元難民」と認定し、ザンビア社会への持続的な定住の対象としていることである。このようにザンビアは南部アフリカ地域の平和と安定に積極的に貢献してきている。
 ルング大統領は、精力的に国家の指導者としての仕事をしているように見える。週末も含めほとんど毎日何らかの行事に出席しているし、外国訪問や国内出張も多い。外国訪問は、ザンビアの発展のために相手国から様々な協力を取り付けるため、国内出張は、国内各地の人々から意見を聞いて、国政に反映させるため、と見られる。悪い噂を全く聞かない訳ではない。また、多くのメディアは政権寄りである。しかし、大統領が各地を精力的に訪問していることは事実である。
 その大統領が、本年3月、議会で憲法の価値及び原則の適用に関する国家の状況について演説を行った。その中で、ザンビアがキリスト教国家であることにも言及しつつ、すべての両親、教師、宗教指導者に対し、若者への指導を要請した。(ザンビア憲法は、前文でザンビアはキリスト教国家であると宣言している。政府主催のセレモニーは、必ず国歌演奏ないし斉唱から始まり、アーメンで結ぶお祈りをしてから、スピーチが始まる。)「ザンビア第一」とし、ザンビア人はザンビア製品を優先して購入すべきであるとする一方、ザンビア企業もその製品の質の向上のために努力を続けるべきであると述べた。ザンビアにおいては現在、障害者の差別、子供の虐待、若いうちからの結婚、夫婦間の殺害、儀式のための殺害、子供と性交するとエイズが治るとの誤解に基づく幼児の強姦等、様々な形で人間の尊厳が蹂躙されているとし、政府は宗教団体や伝統的指導者と協力してこれらの阻止に取り組んでいると述べた。貧富の差を指摘し、最も開発の遅れている地域における開発を優先すると述べた。途上国の指導者の悩みを正直に述べ、真剣に取り組んでいると感じられた。
 ところが、本年4月、クオンボカという大きな伝統的なお祭りがあった際、ヒチレマ野党UPND党首の車がルング大統領の車の走行を妨害したとされ、その直後から現在まで同党首は反逆罪の嫌疑で勾留され、裁判手続きが行われているところであり、欧米諸国を中心に本件が問題視されている。
 また、昨年の8月の総選挙以降、放火事件や破壊事件が頻発している。これらは野党支持者が行っているものだとの見方もある。そのような中、7月4日早朝、ルサカ・シティー・マーケットの建物が火事で全焼し、1375店の人達が商業財産を失った。私は、その後、1か月間、いろいろな場所でのスピーチでお見舞いを言い続けた。
 ザンビアがこれまでのように平和と安定を維持できるか、今一つの山場を迎えている。

3.経済情勢
 2015年の世銀の統計によるとザンビアの人口は約1621万人で、GDPは211.5億ドル、1人当たりの所得(GNI)は1490ドルで、これは為替レートにもよるが、17万円程度である。(7月25日の相場は、1米ドル=112.34円=8.85ザンビア・クワチャ。)
 ザンビア政府は、2030年までに繁栄した中所得国となることをめざす「ビジョン2030」を策定している。本年6月に発表された「誰一人取り残さずにビジョン2030に向けた努力を加速化する」との副題が付された第7次国家開発計画は、その目的を達成するための2017年から2021年までの計画である。
 2017年予算は645.1億クワチャで、対2015年GDP比は約3割。この予算において外国から177.3憶クワチャの援助が行われることを計画しており、これは歳入の3割近くを占める。
 ザンビア経済を牽引してきているのは鉱業であり、銅とコバルトが同国の輸出額の約7割を占める。ザンビアは、2003年から2014年までは、銅の生産増を背景として、5%以上の経済成長率を維持してきていた。ところがその後、銅の国際価格が下落し、鉱業生産が低迷した。また発電量の大宗を水力発電に依存しているザンビアは、降雨量不足に見舞われ、長時間の計画停電を実施した。このため、ザンビアの国内経済は悪化し、2015年及び2016年は、世銀の統計によれば対前年比2%台の成長に留まった。2017年は、銅の国際価格が回復し、降雨にも恵まれ、経済は概ね順調に進展している。
 このような状況の下、ザンビアにとって、中長期的に、国際価格に左右される銅を中心としたモノカルチャー体質からの脱却が課題となっている。この実現のためには、農業、製造業、及び観光業を振興して、経済構造を多角化していくことが必要である。また、財政赤字等の問題に対応するため、ザンビアは現在IMFと協議を行っているが、安定的な財政運営の実現も課題となっている。これらが進めば、持続的な経済成長への道が開け、外国からの投資増大も期待することができるようになるであろう。

4.日本との関係
 1964年、日本はザンビアを独立とともに国家承認し、以降、一貫して友好的な関係を維持・発展させてきている。在ザンビア日本大使館は1970年に、在日ザンビア大使館は1975年に開設された。日本からザンビアへは、天皇・皇后両陛下が皇太子・同妃としてご訪問されたのを始めとして、高円宮・同妃両殿下、及び秋篠宮・同妃両殿下もザンビアをご訪問された。安倍晋太郎外務大臣を始め日本政府や国会からも多数の方がザンビアを訪問されている。ザンビアから日本へも、カウンダ初代大統領を始めとする多くの大統領や閣僚が訪日されている。
 ODAについては、1968年から研修員を受け入れ、1970年から青年海外協力隊を派遣(追ってシニア海外ボランティアも派遣)、1972年から円借款を供与、1980年から無償資金協力を実施してきており、これらの協力の累計は2300億円を超える。ザンビアからの研修員の受け入れは計3000人以上。ボランティアについては、本年7月時点での派遣累計は、青年海外協力隊が1425名、シニア海外ボランティアが80名。現在、それぞれ59名及び12名の計71名がザンビア各地で活躍しており、専門家と合わせると約100名が人と人との交流を通じた協力を実施している。
但し、過去に比べると日本からのODAの量は減ってきている。日本は、OECD諸国の中で、1980年代の後半及び1990年代の半ばはザンビアに対するトップ・ドナーであった。しかし、近年、OECD諸国において、1位米国、2位英国が定着しており、日本は3位以下の中で行き来している。また、OECDの外の、中国の活動が顕著である。
 但し、本年4月18日及び22日、日本が約20億円の無償資金協力を供与し、昨年既に改修工事と機材供与が完了していた2つの病院の公式開所式にルング大統領が主賓として出席することが実現した。私は、両日、数回、同大統領に握手し、短い挨拶を交わした。席は隣ではなかったが、長時間、同じ行事に出席した。翌月、私は、ムタティ財務大臣との間で本件第二期事業のE/N署名式を行った。また、チルフヤ保健大臣とエボラ対策のサーモカメラの設置式に出席した。これらの日本の援助はそれぞれ翌日の当地各紙に報道された。お蔭様で、現在、日本のプレゼンスが高まっている状況である。
 日・ザンビア間の貿易額については、年によって相当波があるが、近年、日本からザンビアへの輸出のトップは中古車、次が、新車とその部品。ザンビアから日本への輸出については、コバルトとたばこが1位を競っている。
 本年6月に武井外務大臣政務官がザンビアを訪問し、カラバ外務大臣と会談した際、両国で投資協定を交渉することを合意した。協定がまとまり、発効すれば、両国間の投資関係が大きく拡大することが期待される。

5.結びに
 ザンビアが経済的に更に発展していくためには、まずこれまで同様、政治的な安定が必要である。
 経済面では、ザンビアが、銅を中心としたモノカルチャー体質から脱却するために、農業、製造業、及び観光業を振興して、経済構造を多角化していくことができるかどうか、また、IMFとの協議をも踏まえ、安定的な財政運営を実現することができるかどうかが、鍵となっている。
 私は、着任以来繰り返し、これまでの伝統的な友好協力関係の上に、在ザンビアの日本の専門家、ボランティア、NGO、及び企業と協力して、TICADイニシャティブの実施を中心としてODA、貿易、投資等の面で日本とザンビアの関係を一層発展させるために最善を尽くしたいと述べてきた。
 着任から10か月経って、ODAの量では勝負できない今、日本の質の高い協力を日本人らしく誠意をもって行うことが最も重要だと思うに至った。これを実施することにより、ザンビアの中所得国入りに貢献したいと思っている。
(在ザンビア大使館HP http://www.zm.emb-japan.go.jp/)

(以上は、筆者の個人的意見である)