雄大な自然に包まれたナミビア


駐ナミビア大使 坂本 秀之

1.アフリカの新しい独立国家

 「ナミビア」と聞いて、それがアフリカの国とすぐわかる日本人は未だ多くはないであろう。その意味で、ナミビアは、多くの日本人にとり未だ未知の国であり、アフリカの中でもフロンティア地域に属する。恐らく、ナミビアが1990年に独立した、アフリカの中でも、南スーダンに次ぎ最も若い独立国家であることも、その理由の一つであろう。

 ナミビアの歴史を翻ってみれば、1884年のベルリン会議を契機に、アフリカでは珍しいドイツの植民地となり(但し、大西洋に面したウォルビスベイ港は、南部アフリカ地域への戦略的港として、英国が保持。)、第一次世界大戦後には国際連盟の委任統治地域として南アフリカの管理下におかれ、第2次世界大戦後は、南アフリカによる不法占拠が続き、悪名高いアパルトヘイト政策の導入も相まって、南アフリカとの武力闘争が続いた(特に解放闘争を率いたSWAPO(南西アフリカ人民機構、現与党)の武力闘争においては、キューバ等旧社会主義諸国が軍事支援。)。最終的に独立達成への契機になった要因の一つは、東西冷戦の崩壊にあり、東西和解の中で、国連主導の独立プロセスが成功裏に実施され(当時、我が国は、初めて国連の選挙監視に参加。)、新たな独立国が誕生した。なお、当時、ウィントフックにて、独・ソ連外相会談が行われ、ドイツ再統一プロセスにつき話し合われているが、旧植民地にて自らの統一につき話し合われたということは歴史の皮肉かもしれない。

2.資源に恵まれた雄大な自然と僅かな人口

 ナミビアは、我が国国土の2倍の大きさを有し、ウラン、金、ダイヤモンド、銅、亜鉛等の鉱物資源に恵まれ、資源開発の潜在力は依然大きい。特に、最近は、中国企業によるウラン開発が本格化することも見込まれ、ウラン生産国として世界のトップ3の位置を占めるとみられている。海岸地域には、世界最古と言われる砂漠地帯を擁し、全体的に乾燥地帯が多いが、北部の国境地域周辺では、農業等も盛んである。

 主要産業としては、資源分野の他、水産業、農牧業(特に、牛肉は有名)等に加え、近年では観光業(砂漠ツアー、野生動物ツアー等)が成長してきているが、最近の干ばつもあり、水資源の確保は引き続き大きな課題である他、エネルギー輸入依存度の削減が課題となっている。人口が約245万人と小さく、遠隔地の電力ネットワークが容易ではなく、地域独立型の代替エネルギー(太陽光、風力等)の導入に力を入れている他、インフラ整備等の課題に取り組んでいる。

 ちなみに、首都ウィントフックは、長年、アフリカの中で最もクリーンな町との名声を享受しており、各種法整備、治安の安定の他、南ア系スーパーの進出、隣国から医療観光を受け入れていること等もあり、一般的なアフリカのイメージと異なる顔も持っている。また、概して、各種行事や約束の時間を守るといった点も非アフリカ的かもしれないし、国民性もどちらかというと、対立を好まない穏やかな傾向にある。

3.政治的、経済的安定と今後の課題

 独立後27年間、ナミビアは民主的国家としての制度を確立してきており、大統領も、ヌヨマ初代大統領(国父)、ポハンバ前大統領、そして現在のガインゴブ大統領と民主的選挙により平和裏に選出されており、これまで大きな騒擾等もなく、政治的安定を維持してきている。また、法の支配、人権尊重等を重視してきている他、独立メディアの存在等、アフリカの中でも最も表現の自由の高い国に位置づけられており、この点は政府自身も誇りにしている。また、昨年こそ国際経済の低調や資源価格の低迷などを受け0.2%と低成長となったが、近年は約4~6%の経済成長を維持してきており、経済的にも安定性を保持してきた。

 他方、独立以降、与党SWAPOが政権維持している点に国民の不満がないわけではなく、特に、南アに次ぐレベルの経済格差の問題は社会的安定への不安定要因となっており、ガインゴブ大統領も人口の約2~3割とみられる貧困層を念頭に貧困撲滅政策を打ち出している。その背景には、人口の約1割を占める白人系ナミビア人(ドイツ系及び南ア系等)が経済の約7割を占めるという現実があり、過激な所得是正政策はジンバブエの例になる可能性もあり、部族民の人材育成等を進めながら経済格差の是正を暫定的に進めざるを得ない状況にある。

 2015年3月に就任したガインゴブ大統領は、汚職撲滅並びに透明性、アカウンタビリティある政府ガバナンスに向けての努力を強調しており、今年末のSWAPO党大会(5年に1回開催)において、党総裁選挙に勝利することが当面の内政課題となっている。右総裁選で勝利する場合、SWAPOへの支持が依然根強い中で、同大統領が二期10年大統領に就任する可能性が高い。

 経済面では、ナミビアの金融、財政管理は、アフリカの中でも優れており、例えば、サブサハラ・アフリカ諸国の中で現在唯一ユーロボンドを発行できる適格国となっている。他方、最近の資源価格の低迷、南ア経済の低迷(南アとナミビアの通貨はペッグ)と南部アフリカ関税同盟(SACU)関税収入の減少による歳入の減少等により、政府は緊縮財政をとっており、当面低成長が予想される中、雇用対策(特に若者)等の視点より、資源の高付加価値化や経済多角化が大きな課題となっている。なお、諸外国との関係では、南アとの経済依存関係が依然強いが、近年は、各種経済分野で中国企業の進出が著しい。

4.我が国との関係

 我が国は、ナミビア独立以来、両国間の外交関係を樹立しており、両国関係は良好である。2010年10月に駐日ナミビア大使館が東京に設置され、我が国は2015年1月、ウィントフックに大使館を設置、同年7月には仮事務所から現在の場所に本事務所を開設した。

 経済面では、我が国は伝統的に水産物(ズワイガニ、伊勢エビ等)を輸入する一方、自動車や機械等を輸出している。当地日系企業は概ね南ア拠点の企業の支所で、邦人駐在員はいない。また、これまで目に見える投資等はなく、ナミビア政府が経済関係を重視する中、投資等の経済関係の促進は主要な課題である。

 経済協力分野では、ナミビアが高中所得国(一人あたり5千ドル強。)に含まれるため、教育、農業分野などにおける技術協力が中心となっているが、特に現在JICA専門家が協力しているウォルビスベイをゲートウェイと位置づけた国際物流ハブ構築支援は、地域統合を通じナミビア市場を隣国経済と連結する側面を有しており、ナミビア政府も強い期待を示している。アフリカにおける民間を通じた経済関係の促進において、官民の連携は重要である。ナミビアにおいては、とりわけ水分野(淡水化、地下ダム等)やエネルギー分野(クドゥ・ガス開発等)を中心に開発ニーズは高く、また、資源、インフラ、ロジスティック等のナミビアの持つ潜在力に鑑みれば、貿易、投資分野での協力が推進される余地は大きいと思われ、これら分野における官民連携した一層の取り組みが望まれる。


草の根・人間の安全保障無償資金協力で
支援したカメル高等小学校。
青年海外協力隊も派遣されている。


ウィントフック市内中心にある
 独立記念博物館とキリスト教会。