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メディア報道からみたモディ・インド首相の訪米の意義


前駐グアテマラ大使 元フォーリン・プレスセンター事務局長代行 川原 英一

 モディ・インド首相は、トランプ大統領との初の首脳会談のため6月24日訪米した。7月7日から始まるドイツでのG20サミットに先駆けての米国訪問であり、この機会に安全保障・経済面などでの両国の緊密な関係を通じて、トランプ大統領との個人的信頼関係を構築したいとの思いがあろう。
 御承知のとおり、モディ首相は、昨年11月に訪日し、安倍総理との首脳会談後、同首相出身地のクジャラート州と縁のある兵庫県を安倍総理と共に訪問して、新幹線車両工場を見学している。また、日本とインドとの間で、2011年8月、経済連携協定(EPA)が発効して、日本企業の進出も増えている。2014年に首相に就任したモディ首相は、インドを世界の製造拠点にというメイク・イン・インディア(Make in India)を公約に掲げ、複雑な税制など国内障壁の撤廃、大規模インフラ整備計画を実施している。
 本稿では、モディ首相の今回の訪米の目的、今後の米印両国関係と変容するインドなどについて、米国及びインドのメディアがどのように報じたのか、その注目点を以下にまとめた。

 モディ・インド首相は、6月24日経由地のポルトガルに6時間滞在し、アントニオ・コスタ同国首相と会談、両国企業家による起業奨励、科学・スポーツ・租税に関する二国間協定を発表している。

 その後、米国を訪問。同首相の米国訪問は、昨年に続いて2度目である。今回の訪米に際し、インド側の事前の関心事項には、トランプ大統領が脱退表明したパリ協定、米国へのインドから多くの特殊技能労働者の査証(H1B)などが含まれようと報じられた(ニューヨーク・タイムズ紙の報道)。

◆米経済紙を通じて訪米目的を明確に語るモディ首相

 6月25日付WSJ(ウォールストリート・ジャーナル)紙のOp-Ed欄にモディ首相の投稿記事が掲載され、米・インドは共に成長と技術革新のエンジンを強化する立場(「Our two nations stand as mutually reinforcing engines of growth and innovation」)との小見出しで、訪米目的を明確に語る。
 その要点は、
(1)米印間の緊密な経済関係を象徴して、両国間の往復貿易額が1150億ドルで今後増大傾向にあり、インド企業は米国内製造業・サービス業の付加価値を高めている、インド企業による対米投資累積額は150億ドル、(トランプ大統領の選挙支持基盤の)ラスト・ベルト地帯を含む米国35州で操業している。米国企業による対インド投資は200億ドルを超えており、また、インドが変容(transformation)を遂げ、米国企業にとり豊富なビジネス機会が生じる。
(2)インドの変容については、7月1日からインドで新たに導入実施される財・サービス税(GST)により、インド13億人の市場が統一される、また、100のスマート都市、港湾・空港・道路・鉄道網及び住宅建設を内容とする大規模近代化実施計画が2022年までに実現予定だと紹介し、今後の米企業との連携に期待を寄せている。
(3)さらに、インド国内での航空産業、天然ガス・原発・クリーンコールや再生エネルギーへの需要が増大しており、米国から400億ドル超のエネルギー輸入や200機以上の米国航空機の購入を見込である(※26日の両国首脳共同記者会見で、トランプ大統領からインドによる100機の米国航空機購入とエネルギー輸入契約交渉に言及、米国内に大きな雇用機会を創出すると高く評価された)。
(4)米印両国間でのデジタル・科学技術パートナーシップが強化され、技術者・科学者・研究者の自由な移動により、両国が知識経済(knowledge economy)における高い技術革新力と競争力を維持することが可能であると主張。また、
(5)安全保障面での両国協力については、アフガン、西アジア、インド・西太平洋、サイバースペース及びシー・レーンの航行自由を確保することを挙げた。

◎在米インド系住民は3百万人、両首脳はツイッターを日頃から利用:

(1)NYT紙の首相訪米の直前報道によれば、在米インド系人口は、3百万人を超えており、インド系米国在住者の平均年収は、8.8万ドル以上で、米国人平均年収4.9万ドルを遥かに上回る。過去のインド系米国人の政党別支持率調査では、民主党支持者が65%となっている。また、両国首脳が共にツイッターの活用をしている共通点があり、米国訪問に際し、モディ首相からは、トランプ大統領自らの暖かな歓迎への感謝の気持ちをツイッターし、トランプ大統領からは、米国はインドの「真の友」であるとツイッターをしていると報じられた。

◎米新政権への気遣い、シリコン・バレー企業トップとの親密さ:

(1)タイムズ・オブ・インディア紙は、モディ首相訪米に際し、首都にいる在米インド・コミュニティ人口は15万人であり、同首相との集会に首都市内に大きな施設を確保してよさそうなはずなのだが、トランプ政権、バノン補佐官への気遣いから、場所選びをした。その結果、集会場所は首都の隣、バージニア州のリッツ・カールトン・ホテルの1500人収容の宴会場を使用し、ローキーな対応に終始し、米国メディアがあまり報じないよう配慮したこと、インド首相のツイッターのフォロワ―数が、トランプ大統領のそれより2百万人少ない31百万人であったことにインド側は安堵していると報じ、今回のインド首相一行の訪米姿勢を知る上から興味深い。
(2)6月24日には、首都市内の首相宿舎(Willard Hotel)で、シリコンバレー企業との懇談がアレンジされ、Amazon、アップル、シスコ各企業トップと共にインド系が企業トップを占めるマイクロソフト、Adobe、マスターカード、Google社代表が参加したと報じており、インドとシリコンバレー企業との親密さがうかがえる。
 インドのメディア及び米国のNBC、CNNなどTV局は、6月26日(月)のホワイトハウスでの米印首脳による共同記者会見の模様を一斉に放映した。米側メディアは、トランプ大統領の内政問題に関心が高かったものの、この記者会見では記者質問を受ける場面はなく、同共同記者会見は、数多い外国首脳の米国訪問の一つとして、比較的短く報じられた。

◆良好な個人的関係を印象づけた共同記者会見映像

(1)TVで見る両国首脳共同記者会見には印象深いものがある。映像は見る者に強いメッセージを与えてくれる。例えば、モディ・インド首相がトランプ大統領とホワイトハウス玄関で初めて会った際及び首脳共同記者会見終了後の両首脳のハグする姿を、両首脳の波長が合っている証左として、映像を見た多くの米印両国民が感じたのではないかと思われる。
(2)トランプ大統領は、共同記者会見の冒頭発言で、インド建国70周年への祝辞に続き、米国はインドの真の友であるとの暖かい言葉を述べ、両国の憲法が「We the people」の同じ言葉で始まり、民主主義など共通の価値観を有するインドと米国が、国際的脅威に共に闘うパートナーシップ・協力を謳っている。また、インド経済が世界最速の成長を続けていることに注目、北朝鮮への対応、インド太平洋地域の平和と繁栄、海洋安全保障、国際的過激テロへの戦いなどでの協力を重視する旨発言があった。
(3)同時に、トランプ大統領から、インドが米航空機100機の購入を決めたこと、米からの大型エネルギー購入契約交渉が始まっているとの披露があり、米国の経済と雇用へ極めて大きい効果があると称賛。両国間の貿易面での障壁撤廃、公平な貿易について同大統領が発言している。
 モディ首相は、両国の情報・知識産業分野での協力についても語っており、両国をデジタル・パートナーシップとして関係強化を図りたいとの発言もあった。
(4)両首脳がソーシャル・メディアを駆使する一面について紹介するトランプ大統領の発言もあった。同大統領のみならず、モディ首相もこうした情報発信を日頃から積極的に行っていることを好意的に受け止めている。

○インド首相の訪米の狙い

 NYT紙などによると、モディ・インド首相は、今回の訪米により、
(1)中国より米国との親密な友好・協力強化を明確にすることが出来たことを成果と見る。インドは、中国との国境間紛争を常に抱え、中国による大型インフラ・プロジェクトは拒否する立場をとっている。
(2)両首脳共同記者会見で明らかにされた米航空機のインドによる大量購入、米国からの大型エネルギー輸入契約は、トランプ大統領が期待する米国経済・雇用促進に寄与するものであり、また、今後の情報・知識集約産業分野での両国間の協力の深化は両国にとって、ウィン・ウィンの関係が続く。
(3)活力あるインドへの米国からの投資促進のため、米企業関係者との懇談では、市場への参入障壁の緩和・撤廃の観点から、インドが今年7月から実施する新たな間接税の実施により従来の複雑な間接税を簡素化すること、腐敗防止の観点から高額紙幣への切替を実施したことなどに言及があったのではないかと報じている。

○最後に

 日本の立場からみれば、今後、米印両国が、国際過激テロ、アフガン和平、北朝鮮への対応、インド太平洋での海洋安全保障などで協力を推進することは、我が国とも同じ分野で共に協力を進めることが出来ると思われるので、大いに歓迎すべき結果に思われる。 (了)