東カリブの国々

 


岡田光彦 駐トリニダード・トバゴ大使

1 在トリニダード・トバゴ大使館

 筆者は、2015年8月から在トリニダード・トバゴ大使館に勤務している。当館は、トリニダード・トバゴのほか、カリブ海東部の6つの島国(セントクリストファー・ネーヴィス、アンティグア・バーブーダ、ドミニカ国、セントルシア、セントビンセント及びグレナディーン諸島、グレナダ)及び南米大陸のガイアナ、スリナムを合わせ、現在日本の大使館としては最も多い9か国を担当していることが特徴となっている。このため、各国における日本のODAプロジェクトに関する署名式や供与式への出席、独立記念日式典への参加などの出張が大変多く、席の温まる暇がないのが実情である

 日本からトリニダード・トバゴを訪れるには、米国のヒューストン、ニューヨークまたはカナダのトロントを経由すると1回の乗り継ぎで到着することができるが、いずれにしても乗継時間を含めて丸一日近くの移動となる。当館が所管するカリブの島国への移動はローカルの航空便を利用するが、遅延や欠航が多く、距離的には数百キロとはいえ、その日のうちに目的地に行きつけないことも稀ではない。

 

2 日本とカリブ地域の関係

 カリブ地域は上述のように日本から遠く離れているが、近年日本との関係が急速に深まっている。2014年に安倍総理が日本の総理の初のカリブ地域訪問としてトリニダード・トバゴに来訪し、周辺14か国からなるカリブ共同体(カリコム)との首脳会合を行ったのを皮切りに、2015年はジャマイカ、2016年はキューバと、安倍総理は3年連続でカリブ地域を訪問し、関係の強化を進めているところである。その背景として、日本とカリブ諸国は長年にわたって緊密な友好関係にあることに加え、ともに島国として気候変動や自然災害の影響を受けやすいという共通点があり、当地域では日本が有する防災・環境分野、省エネルギー・再生可能エネルギー分野等の優れた技術への期待を抱いていることが挙げられる。

 

3 トリニダード・トバゴ

 トリニダード・トバゴは、カリブ海の南東縁に位置し、トリニダード島とトバゴ島の2つの島からなる共和国である。人口は約130万人、面積約5000㎢と日本の県に相当する規模を有している。石油、天然ガスを産出する資源国で、石油精製所や天然ガスの液化プラントもあり、エネルギー産業が国家経済の大宗を占めている。 一人当たりGDPが約1.6万ドル(2016年)と高いODAの卒業国であるが、2014年の日・カリコム首脳会合を経て、日本は卒業国に対しても防災・環境分野、省エネルギー・再生可能エネルギー等の分野での援助を行うこととし、トリニダード・トバゴでは2016年3月に防災分野の草の根・人間の安全保障無償資金協力に関する署名式を行った。

トリニダード・トバゴには、日本から年間千人強の観光客が訪れる。観光の魅力として大きいのは、リオに次ぐ規模といわれるカーニバルである。国内外からの数万人の参加者が、華麗なコスチュームを着て大音量のソカ(語源はソウルとカリプソを組み合わせたもの)に合わせて練り歩くという参加型のイベントで、例年日本からも参加者がある(写真:トリニダード・トバゴのカーニバル)。また、最初はドラム缶を輪切りにして作られたというトリニダード・トバゴ発祥の楽器、スティールパンの大規模な競技会も行われる。小さな島国であるが自然との触れ合いを楽しむこともでき、10種類以上のハミング・バードを観察できる野鳥園や、夕方に数千羽の赤い鳥(スカーレット・アイビス。トリニダード・トバゴの国鳥)の帰巣を観察できる湖があり、野鳥愛好家の間で人気が高い。また、北部の海岸では、大型のウミガメ(オサガメ)の産卵・孵化を観察することができ、これは世界有数の規模である。

 

4 カリブ海東部の島国(セントクリストファー・ネーヴィス、アンティグア・バーブーダ、ドミニカ国、セントルシア、セントビンセント及びグレナディーン諸島、グレナダ)  

 これらの島国は、それぞれ面積数百㎢、人口十万人内外の規模を有している。「カリブ海」という言葉からイメージされるとおりの青い海と白い砂浜があり、ビーチでは心地よい貿易風に身を委ねることができるため、欧米人の間で人気の高いリゾートである(写真:グレナダのビーチ)。乾季には、フロリダ等を起点とする多くの大型クルーズ船が多くの乗客を乗せて来港している。また、各国とも自然に恵まれており、ハイキング、野鳥観察、ダイビング、ホエール・ウォッチング等のエコ・ツーリズムが盛んである。

 各国とも漁業が盛んであるが、インフラの整備が不十分であること、伝統漁法に頼っていること等の理由により、従来は十分にポテンシャルを活用できていなかった。このため、日本は水産分野をこの地域での重点支援分野と位置付けて、漁港、魚市場、冷蔵施設等のインフラ整備を支援するとともに、漁法の技術移転を進めており、着実な成果を上げている。日本の援助により整備された魚市場を訪れると、さまざまな魚が衛生的な環境の中で販売されており、多くの買い物客が訪れて活況を呈している様子を見ることができる(写真:日本の無償資金協力により整備したセントビンセントの魚市場)。

当地域はハリケーン・ベルトに位置しており、大きなハリケーンの直撃を受けると国のGDPを上回るほどの被害を受けてしまう。2015年8月、ドミニカ国を襲ったトロピカールストーム・エリカによる豪雨災害は甚大で、各地に洪水、土砂災害など多くの被害をもたらした。これに対して日本は迅速に緊急援助物資の提供を行うことを決定し、筆者は現地で物資の引き渡しを行った(写真:ドミニカ国での緊急援助物資引き渡し式)。このように、当地域の島国は自然災害に脆弱で気候変動の影響を受けやすいため、我が国は防災・環境分野の援助を重点的に行うこととしており、防災作業車、トラック、小型発電機等の防災資機材の供与を進めている。また、気候変動に伴う干ばつの影響を強く受けているアンティグア・バーブーダには、海水淡水化プラントの供与を行うことし、2017年1月署名式を行った。

 

5 南米の管轄国(ガイアナ、スリナム)

 ガイアナ、スリナムは南米大陸に位置し、20万㎢前後の面積を有するため、当館が管轄する島国とは大きく性格が異なっている。人口はどちらも100万人に達しないので、人口密度が大変低い国ということができ、内陸部には豊富な自然が残されていてエコ・ツーリズム振興への期待が高い。沖合には油田、ガス田があり資源国であるが、まだ十分な開発は行われていない。これら両国に対しても、我が国は草の根・人間の安全保障無償資金協力により、保健や教育分野の支援を行っているほか、ガイアナに対しては気候変動対策として貯水池の改良に関する無償資金協力を行った。なお、ガイアナにはカリブ共同体(カリコム)の事務局が置かれているが、日本は事務局建設費の一部を支援した。

 

6 結び

 当館管轄地域は日本から遠く、トリニダード・トバゴを除けば日本からの観光客はいずれも年間100-200人と少ないので、現在のところ日本人の間での認識は薄いものと思われる。しかし、ここまで紹介してきたように、当地域には様々な魅力があり、今後多くの方の来訪を期待したい。

(本稿は筆者の個人的見解である。)

在トリニダード・トバゴ大使館

1 面積

5,130平方キロメートル(千葉県よりやや大きい)(2015年 世銀)

2 人口

136.0万人(2015年 世銀)

3 首都

ポート・オブ・スペイン

4 民族

インド系(40.0%)、アフリカ系(37.5%)、混血(20.5%)、その他(2.0%)

5 言語

英語(公用語)、ヒンディー語、フランス語、スペイン語、トリニダード・クレオール語等

6 宗教

キリスト教(カトリック、英国国教会等)、ヒンドゥー教、イスラム教等
詳細は、こちらをご覧ください。

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