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カリブの国々と日本―交流と友好の絆を更に太く強く


中野 正則
駐ジャマイカ大使

2015年4月に前任地のインド・チェンナイよりカリブ海の島国にある在ジャマイカ大使館に着任して1年8ヶ月が過ぎた。当大使館はジャマイカのほかに、同じくカリブ海地域に属するバハマとベリーズを兼轄している。カリブ海の国々と言えば、日本でも人気となった米映画「パイーレーツ・オブ・カリビアン」でも有名であるが、ジャマイカとバハマは、かつてはこの映画に登場する海賊たちが活動拠点として利用した港があったといわれている。これらの地には、往時が偲ばれる要塞跡などが残っているが、現在、両国では常夏の気候ときれいなビーチを求めて欧米等からやってくる観光客で賑わっている。

 しばしば、カリブ諸国は中南米諸国と同様にスペイン語を話す国々と誤解されることがあるが、ジャマイカ、バハマ、及び中米のユカタン半島南部に位置するベリーズはいずれも英国から独立した国であり、英語を公用語とし、英連邦にも加盟している。またこれらの3ヶ国はカリブ諸国の14ヶ国1地域で構成されるカリブ共同体(通称カリコム、CARICOM)のメンバーでもある。このカリコムは1973年に正式に発足し、カリブ地域内の経済統合を目指すとともに、加盟国間の外交政策の調整等を行っている。これらの国々に共通するのは、15世紀末から始まるスペインや英国等の進出に直面し、その後の植民政策の中で、多くのアフリカ人がプランテーション労働者等として連れてこられたことから、現在もアフリカ系やアフリカ系との混血の人々が多くを占め、またその他インド系や中国系(特にジャマイカとベリーズ)等の民族も共存し、多数民族国家を形成していることである。

 続いて、ジャマイカ、バハマ、ベリーズのそれぞれの概要と我が国との関係について見ていきたい。

1.ジャマイカ

 まず、ジャマイカについては、面積は日本の秋田県とほぼ同じであるが、西インド諸島の島々の中では、キューバ、エスパニョーラ島(現在のハイチとドミニカ共和国)に次いで3番目に大きく、英語圏の島では最大である。また人口も国内では約273万人(カリコム諸国の中でハイチに次いで2位)であるが、同程度またはそれ以上の人口がアメリカ、英国、カナダを中心に住んでいるといわれている。これらの人々は「ディアスポラ(海外移民)」と呼ばれ、その存在は、国内への送金やジャマイカ文化の海外発信という観点からも重要な意味を持ち、外務貿易省がディアスポラとの連絡調整や様々な問題の処理に当たっている。このようにジャマイカは世界的にみれば小国であることに違いないが、カリブ地域の小島嶼国にとっては「カリブの大きな国」として影響力を有し、また国際的にもその国力をはるかに上回る存在感を有している。

 このような背景にあるのは、特にジャマイカで生まれたレゲー音楽等の文化や、ウサイン・ボルトに代表される陸上短距離競技の圧倒的な強さがあることは疑いない。レゲー音楽は、1960年代末にジャマイカの伝統的な音楽に米国の黒人音楽等の影響が加わってできた音楽であり、その後1970年代にボブ・マーリーによって世界的に広まったことはよく知られている。首都のキングストンにはボブ・マーリー博物館があり、観光名所の一つになっているほか、ボブ・マーリーの銅像が市内にも飾られており、彼の存在の大きさを物語っている。また陸上短距離競技については、いうまでもなくボルトの活躍等もあり、ジャマイカの名は世界の中で特別な存在となっている。昨年のリオ・オリンピックでは、ボルトの3冠達成を含め金6個(銀、銅を含め計11個)を獲得して金メダル獲得数では世界16位となり、対人口比からみたその獲得数は他国を圧倒している。

 我が国との関係においても、この二つの分野は大きな要素を占めている。レゲーについては我が国はアジアの中ではもちろんのこと、国際的にもレゲー・ファンの多い国として知られており、毎年少なからずのレゲーコンサートが東京を始め日本各地で開催されている。レゲーの魅力に惹かれ、当国を繰り返し訪れる日本人も珍しくなく、また、毎年キングストンで開催されるレゲーダンス大会には日本のグループも参加している。特に2012年と2013年の大会では日本人グループが続けて優勝し、当地で大きな話題となり、その2年後に着任した私も多くのジャマイカ人からその快挙について賛嘆の言葉を受けた。

 また、昨年3月に、鳥取県とジャマイカ西部のウェストモアランド県との間で、カリブ地域で初めての姉妹関係が正式に署名されたが、これは鳥取県が2007年の大阪世界陸上と2015年の北京陸上の際に、ジャマイカ陸上チームに事前キャンプを提供したことが契機となって実現したものである。まさに陸上競技が取り持つ縁であった。昨年4月には鳥取より同県の陸上競技連盟の代表が当地を訪問し、日本大使公邸でジャマイカ陸上競技連盟との間で今後の交流促進を目的とする覚書が署名された。更に、スポーツ分野では、東京大田区の中小企業関係者が国産のそりを製作して、ジャマイカのボブスレー・チームに無償提供するという、いわゆる「下町ボブスレー」プロジェクトも現在進んでいる。同プロジェクトは2018年の平昌での冬期オリンピックを目指し、両国関係者の間で緊密な協力が続けられているが、かつて米国映画「クールランニング」で話題となったジャマイカ・ボブスレーチームが、日本の技術の粋を集めた日本製そりで再び一大旋風を起こすことを期待している。

 この他にも我が国とジャマイカとの間で欠かすことができないのが、ジャマイカの名産、ブルーマウンテン・コーヒーを通じた関係である。ブルーマウンテン・コーヒーは生産量も少なく世界のコーヒー市場では大きな存在とはいえないが、その繊細な味わいと香りから最高級コーヒーとして名高く、日本でも根強いファンが多いといわれている。事実、このコーヒー豆の60%以上は日本に輸出されており、またキングストンから1時間足らずのブルーマウンテン山岳地域にはUCC上島珈琲が農園を直接経営している。1981年に開設された同農園は当地の観光名所にもなり、コーヒーを通じた日ジャマイカ間の友好親善にも大きな役割を果たしている。

 このように日本とジャマイカとの間では民間分野も含め様々な分野で交流が続いてきており、ジャマイカの人々の対日感情も伝統的に非常に良好である。このような両国関係を踏まえ、2014年には外交関係樹立50周年を祝い、各種の記念行事が両国で行われたが、更にその翌年の2015年9月には、総理としては初となる安倍総理の歴史的なジャマイカ訪問が実現した。同訪問では、首脳間での会談のほか、ボブ・マーリー博物館訪問や、当国の代表的な短距離ランナー、アサファ・パウエル氏との面談等もあり、両国の文化・スポーツ交流を深める機会ともなった。首脳会談では、2014年の第1回日カリコム首脳会議(於トリニダード・トバゴ)で安倍総理から表明された我が国の対カリコム基本政策、すなわち、小島嶼国特有の脆弱性克服を含む持続的発展に向けた協力、交流と友好の絆の深化・拡大、国際社会の諸問題の解決に向けた協力を内容とする三本柱に沿って、J-Jパートナーシップと命名された両国関係を更に強化していくことが確認された。また、両首脳の見守る中、カリブ地域を代表する高等教育機関、西インド諸島大学と上智大学との間で覚書が両学長間で署名され、今後双方で研究協力や人材交流を推進していくこととなった。当館としては、JーJパートナーシップを更に発展させていくために、上記三本柱の政策に沿って、重点分野である防災、環境や教育分野等を中心とした各種経済協力事業やJETプログラム等の各種事業の着実な実施を通じて両国関係の一層の強化に努めている。なお、ジャマイカでは昨年2月の総選挙でジャマイカ労働党が勝利し、ホルネス首相率いる政権が誕生したが、12月にジョンソン=スミス外務貿易大臣が初訪日し(世界女性会議出席のため)、岸田外相との会談が行われ、改めて上記基本政策の推進が確認された。

2.バハマ

 バハマは、スペイン語の「バハマール Baja mar」に由来するといわれ、どこまでも続く浅瀬の所々が干上がって島になった光景を、スペイン人は「バハマール」と呼んだそうである。バハマ諸島は全部で700を超える島と2500近い岩礁からなるが、そのうち95%は無人島であり、人が居住する島は30ほどしかない。バハマの面積は全ての島等を合わせると福島県とほぼ同じであるが、人口は約36.5万人であり、その約80%近くが首都ナッソー(約27万人)に集中している。  

 バハマ経済は、ジャマイカ同様、観光が中心的な産業であるが、その他にオフショア金融サービス業も経済を支える重要な産業となっている。バハマの一人あたりのGDPは24,394米ドル(2015年IMF推計)でカリコムの中では第一位であり、米州全体の中でも米国、カナダに次いで豊かな国である。他方、一部富裕層と一般国民の格差が大きいといわれており、また、小島嶼国としての脆弱性も抱えている。被雇用者の約半数が直接、間接に観光業に携わっている同国では、対外的な経済状況に影響されやすく、米国の金融危機の際には観光客が大きく落ち込んだほか、ハリケーン等の自然災害による被害も同国にとっては大きな脅威となっている。

 上記の小島嶼国特有の脆弱性の問題に関しては、前述の日カリコム首脳会談の際に、安倍総理が、所得水準のみによらないODAの実施の意図を表明した結果、2015年度よりDACリスト卒業国である当国に対し技術協力(環境・防災分野の研修生受け入れ)が再開された。また昨年4月には、バハマ訪問中の坂井財務副大臣(当時)の立ち会いの下、ミッチェル外務移民大臣と私との間でバハマに対する無償資金協力実施のための交換公文(E/N)に署名した。これはバハマ側に防災及び自然災害対策に寄与するための無償資金(2億円)を供与するものであるが、折しも前年にハリケーン・ホアキンによって大きな被害が生じた同国にとっては時宜を得た支援となった。

 我が国とバハマとの間では、両国外交関係40周年を迎えた2015年6月に宇都外務大臣政務官(当時)がバハマを訪問し、デイビス副首相兼事業・都市開発大臣(以下、副首相)と歓談したほか、2016年2月には、デイビス副首相が我が国の招待で訪日し、武藤外務副大臣(当時)等との会談や、造船や再生可能エネルギー施設等の視察を行った。このように、我が国とバハマとの間では政府ハイレベルでの交流を含め良好な関係が維持されているが、民間ベースでも、近年、高齢者を中心にクルーズ船で訪問する観光客が増加する傾向にあるといわれており、今後文化面等でも更なる交流に努めていきたい。

3.ベリーズ

 ベリーズは、ジャマイカ、バハマと比べてもまだ若い国家であり(ジャマイカは1964年、バハマは1973年に独立)、36年前の1981年に「英国ホンジュラス」と称する英国植民地から独立した。同国は中米の大陸部にありながら旧宗主国を同じくする英語圏のカリブ諸国との歴史的、文化的な繋がりから、自らをカリブ諸国の一員と位置づけ、カリコムの加盟国となっている。また中米統合機構(SICA)にも正式参加しており、最近は中米の一員としての意識も高まっている。同国の面積は3ヶ国の中では一番大きく四国とほぼ同程度であるが、人口は一番少なく約36万人である。

 ベリーズの人口構成をみると、他の2ヶ国に比べるとアフリカ系が少なく(約25%)、最も多いのがメスティーソと呼ばれるスペイン系とマヤ系先住民の混血であり、全人口の約49%を占めている。その他にはマヤ系先住民やガリフナと呼ばれるアフリカ系黒人とカリブ系先住民の混血の人々等も存在している。また同国の主産業は砂糖、バナナ、柑橘類等の農業であるが、最近は観光分野が伸びつつあり、ベリーズ政府は観光促進に力を入れている。同国の内陸部には熱帯・亜熱帯雨林が広がり多様な野生動物が生息しているほか、大小50以上といわれるマヤ遺跡が点在し、更に美しい海と珊瑚礁に恵まれ、「カリブ海の宝石」とも呼ばれている。特にベリーズ近海にある世界で2番目に大きいとされる珊瑚礁や珊瑚礁の中にひときわ青く見える大きなブルーホールは有名である。

 我が国との関係は非常に順調に進んでおり、2014年には石原外務大臣政務官(当時)が、また、2017年1月には武井政務官がそれぞれベリーズを訪問したほか、同国からは2014年11月にエルリントン外務大臣が第4回日カリコム外相会談に出席のため訪日している。また経済協力面では草の根人間の安全保障無償資金協力を中心に、教育分野に重点をおき着実に支援を実施しベリーズ側より高く評価されているほか、文化面でも毎年、当館と現地日本人社会が協力し、同国の経済商業の中心であるベリーズシティーでジャパン・デーを開催し好評を博している。昨年10月に開催した同イベントでは、日本より「ジャパンよさこい連」(よさこいダンス)が参加し、ベリーズシティーに加え地方でも住民参加の公演を行い大きな反響があった。

 ベリーズは日本ではあまりまだ知られておらず、日本人の観光客数も年間300名~400名と推定されているが、最近徐々にネット等を通じべリーズの豊かな自然や遺跡等の存在が知られ、日本人観光客も増加しつつある。またベリーズではカリブ地域にしかできない最高級品質の海島綿栽培を在住日本人が行っており、今後の日本との貿易面での有力な産品となる可能性を秘めている。

 ジャマイカ、バハマやベリーズは地理的にも離れており、日本ではまだまだ十分に知られているとはいえないが、いずれの国も親日的であり、空手や合気道、生け花等の伝統文化を通じて、また車やハイテク製品を通じて日本に愛着と尊敬の念を有する人々も多い。また、特に若い世代の間では、日本をアニメの本場として憧憬の念を持っている人達も少なくなく、アニメを通じて日本や日本語に関心をもったという話もよく耳にする。このように、日本とこれらの国々との間では、今後更に幅広い交流や協力関係を発展させていく下地は十分にあり、当館としては対カリコム基本政策である三本柱に沿って、これからも着実に関係強化に努めていきたいと考えている。

在ジャマイカ大使館

面積:10,990平方キロメートル(秋田県とほぼ同じ大きさ)
人口:272.6万人 (2015年 世銀)
首都: キングストン
民族: アフリカ系 91%、混血 6.2%、その他 2.6%
言語:英語(公用語)、ジャマイカ・クレオール語(いわゆる「パトワ語」を含む)
宗教:キリスト教(プロテスタント、英国国教会等)