第26回「女性の敬称―MissとMrs.とMs.」

元駐タイ大使 恩田 宗

少し前のことだが米国紙にMs. Warren has criticized Mrs. Clintonとあった。 女性は英語では結婚前がMiss 結婚後はMrs.だった。それが1970年代初頭の米国で未婚既婚に関わりなく一律にMs.と呼ぶ慣行が始まった。雑誌「Ms.」が発刊されMrs.は女の男への従属を示す差別語であり女性も男性同様に結婚しているか否かで区分されるべきではないと主張した。ボストン・グローブ紙はその趣旨にすぐ賛同しMs.の導入を応援した。商用書簡や一部政府刊行物も早期にMs.に切り替えたがこれは女性の婚歴を確認せずに済む便利さに惹かれたからだと思われる。何れにせよ1986年それまで躊躇していたニューヨーク・タイムズが遂に大勢に同調しMs.は米国で標準用語として受け入れられた形となった。そして1991年には英国のザ・タイムズの王室・社交欄での使用が許され英語の家元の認可が下りた。

 しかしまだ多くの人がMrs.を使っている。冒頭の新聞記事から察するとクリントン夫人もMrs.と呼ばれるのを望んでいるようである(多くの報道機関が敬称については本人の意向を尊重するとしている)。ウォーレン上院議員は娘時代の姓はHerring でWarren 姓の男性と結婚しその後離婚した。今はMann姓の男性と再婚しているが姓は政治活動上の便を考えてのことかWarrenのままでいる。ウォーレン女史はMs.としか呼ぶ他はなくMs.がなかったとしたらどう呼ぶべきか迷うところである。

 2014年の在京外交団リストでは米国大使館の館員夫人は七割近くがMrs.でありMs.は少数派である。ケネディー大使は夫君の姓が Schlossberg だがMs. Caroline Kennedyである。その他の国の館員夫人はほぼ全員がMs.の豪州カナダ両国を除き英国等欧州諸国を含め圧倒的にMrs.である。独身の女性外交官でMissを名乗るのはタイ大使館の六人だけである。

 イリノイ大学言語学部のD・バロン教授によるとMs.は意識が高く自立した現代女性をイメージさせるとして女子学生が好んで使っているが彼女達の多くは結婚したらMrs.と呼ばれたいと言っているという。立場のある職業人(プロフェッショナル)であれば別として或る程度の年になりMs.などと名乗ると離婚したか寡婦になったかと思われかねないということらしい。

 事態はMs.推進者達の意図した通りにはなっていない。Missは追放できたが敵とした本命のMrs.が居残っている。言葉は文化である。主義主張だけでは変えられない。それに誰が誰の連れ合いか判った方が便利だということもある。 なおドイツでもFrauleinは使われなくなり女性はすっきりFrauに一本化されたという。然しフランスではMademoiselleも Madameもその侭らしい。文化の違いである。

この投稿へのコメント

コメントはありません。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

CAPTCHA


この投稿へのトラックバック

トラックバックはありません。

トラックバック URL