「G7(8)/20 ユース・サミット・ジャパン(YSJ)」について
元駐アゼルバイジャン大使、元アフガニスタン支援調整担当大使 安部 忠宏
平成20年秋、永年奉職した役所を退いて以来、八年余が経過。その間、国際社会でグローバリゼーションが進む中で、日本の大学・学生の国際化努力の緊要性が指摘される状況を背景に、慶應義塾大学と明治大学で教鞭をとる機会を得て今日に至っている。特に、慶應義塾大学では、その「国際センター」が、外国からの留学生、帰国子女、及び、留学に関心のある邦人学生等を対象とする授業を積極的に展開しており、その関連で、それら学生を対象として「国際関係論」、「日本外交論」を中心に、毎週、英語で講義を行ってきた訳であるが、授業の傍ら「G7(8)/G20 Youth Summit Japan」(GをYouth のY に読み替えて、Y7(8)/Y20 YSJと略称)と云う学生組織の活動に関わることになり、その各種プログラムの実施について、顧問として側面から助言・支援する活動も行ってきたところ、その概要、参考まで以下の通りである。(詳細は、http://www.y7japan.org 乞参照)。
1.本年「G7主要国首脳会議」日本開催(伊勢志摩サミット)の関連行事として
本年5月26~27日、政府間では「G7主要国首脳会議」が伊勢志摩に於いて成功裡に開催されたが、その関連で、同学生組織は、伊勢志摩サミット前に「Y7 Youth Summit会議」を東京で開催し、G7各国の学生達の議論を共同コミュニケとして取纏め、参考意見として首脳会議主催国である日本政府に提出する方針を決定。その旨を本省経済局政策課(大鶴課長他)はじめ関係部局に相談したところ、協力・支援に前向きな対応を頂き、同会議で「外務省後援」名儀を使用することに了解を得ることが出来た。また、会議運営所要資金については、主として民間企業・団体等に趣旨を説明し協力を仰ぎ、日本総研、サントリー、在京米大等からの資金提供で全経費を賄うことゝとし、4月30日~5月3日に亘るG7の学生版 Summit 会議(名称、Y7 Youth Summit Conference)開催に漕ぎつけた(会場;早稲田大学国際会議場)。同会議では、G7各国からの学生達代表団約70名を迎えて活発な討議が行われ、討議結果は共同コミュニケ(Joint Statements)として最終会議で取纏められた上で、当初想定通り、伊勢志摩サミット開催前に本省(山田政務官、経済局関係者)経由で日本政府に提出することが出来た。(内容詳細は、上記のHP乞参照)。
冒頭述べた通り、日本の国際化、そして、大学の国際化が注目を浴びている中、学生達の側にも彼らの主体的活動の下に、有意義な国際化努力がなされている一例として、この「G7(8)/20 Youth Summit Japan」につき、簡単にその関連概要をご紹介しておくことは意味があるかと考えた所以である。
2.Y7(8)/Y20 YSJの構成
平成17年(2006年)、G8諸国の主要大学生連携の下に「G8学生会議」(G8 Youth Summit Conference )の創設が試みられたことに呼応して、YSJは、同会議の日本開催(初回)を契機として、平成19年3月に慶應義塾大学を中心に、東京大学、横浜国立大学等からの学生参加の下に国内で設立されることゝなった非営利・学生有志団体で、国際問題に強い関心を持つ学生達が、若者の世代からの意見を発信していくことを主目的に、今日まで活動を続けている。
同組織への最近の参加大学生は、一部現在外国大学留学中の者を含む、東大、京大、一橋大、東医歯大、東工大、早・慶大、国際基督教大、上智大等からの学生等が中心であるが、前年度の代表団が主体になって次年度の代表団を選抜・構成することで引き継がれ、毎年度秋口から翌年初にかけて行われる筆記試験と討論、面接試験で、最終的に、日本代表5~10名が選考される仕組みになっている。試験は全て英語で行われ、毎年応募が多数に上るが、その内容・質のレベルは大変高く、選抜では論理性、スピーチ力などを中心に厳しい査定が行われ、困難を極める。そして、守備良く選ばれた学生が、日本のシェルパ、首相、外相、財務相、防衛相役等を各々与えられて、毎年持ち回りで開催される「G7(8)主要国首脳会議 / G20首脳会議」の開催国で並行して開催される「Y7(8)Youth Summit(YS)会議」、及び、「Y20(YS)会議」に日本代表団として派遣され、他のG7(8)/20関係各国の学生代表団と共に、G7(8)/20公式首脳会議の議題を参考としつゝ、諸々の国際問題につき討論し、コミュニケを纏め上げ、国際社会が直面する諸問題についての若い世代から意見として提言を行ってきている。
3.Youth Summitのこれまでの経緯
Y7(8)YSは、第一回会議が2006年にロシア・サンクトペテルブルクで開催された後、第2 回会議はドイツ・ベルリン(2007年)、第三回会議は日本・横浜(2008年3月)、第四回会議はイタリア・ミラノ(2009年)、第五回会議は、カナダ・バンクーバー(2010年)、第六回会議はフランス・パリ(2011年)、第七回会議は米国・ワシントン D.C.(2012年)、第八回会議はイギリス・ロンドン(2013年)、で各々開催。しかし、2014年には、一転して、折からのクリミア、ウクライナ情勢悪化を受け、政府レベルでのG8(ロシア(ソチ)開催予定)首脳会議がキャンセルされたのを受け、学生のY8YS も不開催となり、豪主催のY20 YSのみ開催。引続く2015年も、欧州が、ユーロ問題、難民等の問題に直面していたことから、ドイツがG7首脳会議(ロシアは除外)と共にY7 YSの開催をキャンセルし、トルコ(イスタンブール)でY20 YSのみが開催された。かような流れの中で、冒頭述べた通り、今年(2016年)は、G7 主要国首脳会議を日本政府が主催(於;伊勢志摩)するのに伴い、学生達のY7 Youth Summit 会議も再興させようとの考えから、東京会議開催方針を決定。本省の協力も得て、全日程行事を成功裡に執り行うことが出来た次第である。
具体的な討議内容、共同コミュニケの内容は、YSJ・HPの報告書に譲るが、(1)安全保障(2 ) 経済・雇用問題(3)持続的開発を主要議題として討議。G7各国の学生等代表者は、国際社会が、国際テロ、難民、経済低迷、雇用、高齢化社会等、直面する具体的な課題につき共通の認識を持ちつつも、その対応策については、それぞれ国情・事情を異にし、特に、安保・経済政策関連で、比較的楽観的な米国代表団と、EU、更には、ユーロ経済圏の先行きに確信の持てない欧州代表団には、難民・避難民問題等を含め各所で微妙な相違が見られ、コミュニケ文面に表れない所でも、種々の困難な意見調整が行われていたことは、例年にない程であった。政府間の公式のG7(8)/ G20サミット・共同コミュニケ取り纏め作業さながらで、それを彷彿とさせる今回の会議であったと云うことが出来る。纏められた共同コミュニケ文書は、5月9日に、日本代表団が山田政務官に面談の上、直接提出させて頂き、同政務官から「次世代を担う若者達の大変有意義な活動だと思います」との言葉を賜ると共に記念写真を撮影。この模様が、後刻、山田政務官のブログに掲載されているのを代表団一同が知って、大変感激させられていたのを見て、種々困難を乗り越え、今次東京会議を開催して本当に良かったと思った次第である。
なお、会議最中、「参加者の皆様が…国際社会の課題解決に向けた強い気持ちを持ち続け、大いに活躍されることを心より希望し…」との安倍首相からの温かいメッセージを頂戴した他、日程には、各界有識者の講演、日本伝統芸能・日本文化紹介行事等も組み込まれ、プログラム全体が極めて有意義なものとなった。
4.終わり
最近の国際社会では、国際テロ、主要国一部の露骨な領域拡大、核・ミサイル開発等、従来の国際ルール・枠組みに挑戦する出来事が生起しているが、我が国として、官民でこれら直面する諸問題を正しく認識し、望ましい解決策を見出していく努力を行う必要性は益々高まっている。「G7(8)/20 Youth Summit Japan」(Y7(8)/20 YSJ)は、正に、この様な要請に対応すべく、優秀な学生達の参加の下に、積極的に活動していることを知って頂けたら幸甚と考える次第である。