遠くて近い国、トンガ
駐トンガ大使 沼田 行雄
トンガは、ミクロネシア、メラネシア、ポリネシアに大別される大洋州島嶼諸国の中で、ハワイやタヒチと同じくポリネシアに属し、日本からは南東へ約8000キロと遠く離れた南太平洋に浮かぶ人口約10万人の島国である。しかしながら、我が国皇室とトンガ王室の密接な関係、ラグビーや相撲、そろばんや日本語教育など様々に温かな人々の交流が続き、我が国と深い友情で結ばれた遠くて近い国である。
昨年は、着任直後の7月4日にトゥポウ6世国王、ナナシパウウ王妃両陛下の戴冠式と言う歴史的な国家行事があり、日本から皇太子同妃両殿下が同行事に出席するため当国を訪問され、国を挙げての大歓迎を受けられた。また、9~10月に英国で開催されたラグビーのワールドカップでは、予選で強豪・南アフリカを破るなど日本チームの大躍進とそれを支えた何人かのトンガ人選手の活躍があり、トンガの国民的スポーツ、ラグビーを通じ、両国関係が大いに盛り上がった一年となった。
トゥポウ6世国王は、2012年3月、前国王トゥポウ5世陛下崩御に伴い即位されておられたが、その戴冠式が、昨年7月4日(土)首都ヌクアロファのフリーウェズリアン・センテナリー教会で、国内外から多くの参列者をお迎えして厳かに執り行われた。戴冠式には、国王陛下の御招待に応え、我が国から皇太子同妃両殿下がお揃いで参列され、ピロレブ王姉とともに最前列に御着席になり、伝統に則った儀式に間近で立ち会われ、引き続き、王宮午餐会にも御出席され、両陛下のご即位を祝福された。両殿下お揃いでの外国訪問は、2013年のオランダ御訪問以来であったこともあり、日本のマスコミの関心が高い行事となった。
7月3日朝,お召し機がファアモツ国際空港に到着した際には,タラップ下でウルカララ皇太子殿下、ポヒヴァ首相始め政府要人の出迎えを受け、妃殿下は王族の少女から花束を贈られ、また、空港周辺ではトンガ在住邦人の皆さんが日の丸を振ってお迎えした。
翌4日午前,両殿下は,トンガ国王トゥポウ6世、ナナシパウウ王妃両陛下の戴冠式にお揃いで御出席された。約1時間にわたって執り行われた式典で、聖職者から国王陛下に聖杖と王冠が授けられると,教会の鐘と祝砲が町中に響き渡り,トンガ国民の祝福の声は教会の中にも届くほどだった。モーニング姿の皇太子殿下とロングドレスをまとった皇太子妃殿下は最前列に御着席になり、時折,隣のピロレブ王姉殿下とお言葉を交わされながら,荘厳な面持ちで式典を見守られ,御即位を祝福された。引き続き、王宮で行われた公式午餐会にもお揃いで御出席になり、両陛下へのご挨拶と記念撮影に続き、午餐会でも、両陛下のお近くに着席され、お隣のピロレブ王姉、ウルルカララ皇太子両殿下と終始和やかに御歓談された。
皇太子殿下は、6日までの御滞在中、公式晩餐会を始めとする一連の関連行事にも参加されたほか,当地で活躍する青年及びシニア海外協力隊員を御接見され、また、5日の最終日には再びお二人で、在留邦人,日系人代表,更には在日トンガコミュニティ代表のラグビー関係者ともお会いになり,一人一人にお声をかけ激励された。
両殿下の御訪問は、国王王妃両陛下を始めとするトンガ王室、ポヒヴァ首相を始めとするトンガ政府関係者より、温かい大歓迎をうけるとともに、トンガ国民も、両殿下がお出ましになられたことに一様に感激し、現地マスコミも、雅子妃殿下のお優しい微笑みや日本のマスコミの関心の高さを伝えるなど非常に好意的な反応があり、日本国内でも、戴冠式に臨まれた両殿下のトンガ御訪問の様子が、TV、新聞、雑誌等を通じ120回近くも報じられ、日本、トンガの双方でその知名度が大いに高まる機会にもなった。
こうした心のこもった接遇が行われる背景には、前述のように歴代のトンガ王室と我が国皇室との極めて親密な関係がある。現国王王妃両陛下は、皇太子同妃両殿下の御訪問決定を大変喜ばれ、万全の準備を指示されたと聞いている。その最たる証は、ウルカララ皇太子とシナイタカラ同妃両殿下が、お召し機のファアモツ空港到着時のお出迎えから御出発のお見送りまで、いつも皇太子殿下と雅子妃殿下のお側にいて、きめ細かい心遣いを示されことである。両陛下主催公式午餐会で、お二人の御席はピロレブ王姉とウルカララ皇太子の間に用意され、終始和やかに御歓談されたことや、アンジェリカ王女主催午餐会での両皇太子殿下の楽しそうなお姿が印象に残る。皇太子殿下のトンガ御訪問は3回目であり、その親密さを窺い知ることができるが、今回のこうした交流を通じて、トンガ王室と我が国皇室の関係が一層強固で親密なものになったことは明らかである。
加えて、両殿下が、トンガご訪問を終えてのご感想の中で言及されておられるように、両国間には、開発援助を始めとする政府間の関係のみならず、両国国民間の温かい交流の積み重ねがあったことが、今回のご訪問をより実りの多いものにしたことは間違いないと確信する。実際、大の親日家として有名なトゥポウ4世前々国王の意向もあり、トンガでは、日本語とそろばん教育が積極的に取り入れられており,日本語については、1993年に中等教育課程(日本の中学・高校に相当)で正規の外国語選択履修科目に認定され、国定日本語教科書も作成され、現在公立4校と私立2校の計6高校で日本語の授業が行われている。また,そろばんは、1970年代に導入され着実に全国に普及し、2011年からは,政府の新指導要領により,公立小学校での必修科目となり、毎日15分間の授業が義務づけられている。
(そろばんの授業風景)
こうしたトンガ側の要請に応え、JICAは1973年からこれまで延べ500名弱の青年海外協力隊員を派遣しており、89年から日本語教育、1989年からそろばん隊員を継続的に派遣している。そろばん普及については、NPO法人「国際珠算普及基金連盟」が長年に渡り支援をしており、地方自治体レベルでも、兵庫県小野市が中古そろばんの寄贈事業を続けている。最近では、ラグビーを通じる交流も活発で毎年、多くのトンガ人青年が日本の高校や大学にスポーツ留学し、第一線のプロ選手に成長、活躍している。昨年のラグビー・ワールドカップでは、アマナキ・マフィ、リュウ・ホラニのトンガ出身選手が、日本チームの快進撃を支えたことは、皆さんの記憶にも新しいのではないだろうか。また、かつて、ハワイ出身の外国人力士として横綱になった武蔵丸の父上はトンガ人で、当地ではトンガの力士として知られている。
今年に入ってからも、3月には、全国そろばん大会が、4月には、日本語スピーチコンテストが、トンガ教育省との共同事業として開催され、ポヒヴァ首相兼教育大臣ご自身が出席され、多くの児童生徒が元気いっぱい日頃の修練の成果を競いあったところで、その後も、7-9月にかけて来年春の全国大会に向けて、そろばんの地区大会が開催されている。 青少年の交流としては、独立行政法人・科学技術振興機構の交流事業「さくらサイエンスプラン」で、本年度は初めて太平洋地域よりも参加し、トンガからも5名の高校生と1名の引率者が訪日し、ノーベル賞受賞の日本人科学者による講義や先端技術施設の訪問など感銘を受けたとの報告があった。また、30年近く地域との交流事業をしているNPO法人「アジア太平洋こども会議・イン福岡」は、今年も7月にトンガ人の小学生5名を受け入れ、8月には日本人中高生13人が3人の引率者とともにトンガを訪れ、一週間の滞在中、ホームステイなどを通じてトンガの人々と交流した。
文化面でも、6月末、メルボルンで活動中の「和太鼓りんどう」のメンバーが4日間にわたり訪問し、トゥポウ6世陛下誕生日を祝う「ヘイララ祭り」に参加し、会場を埋め尽くした1,000人以上の人々を魅了した。 9月には、日本写真家協会と国際交流基金の共催事業として、「日本の海岸線をいく」の写真展が、トンガ観光局ビジターセンターの庭園で約2週間に亘り開催された。1950年代~現在の日本の海岸線にまつわる写真約100点を展示した本展の開会式には、ウルカララ皇太子殿下及びシナイタカラ同妃殿下が御臨席され、セミシ・シカ観光大臣,トネ外務次官を始め要人も多く盛大に挙行された。王宮に近く市中心部の海岸道路にある絶好の立地条件もあり、会期中も、授業の一環として訪れた学生や一般の観光客など、多くの参観者に恵まれて大成功を収めた。
(「日本の海岸線をいく」の写真展の様子:写真中央がウルカララ皇太子殿下及びシナイタカラ同妃殿下)
経済協力についても、4月21日に、国王王妃両陛下のご臨席を得て、首都トンガタプの「国内輸送船用埠頭改善計画」の起工式が盛大に挙行され、私も、ポヒヴァ首相始めトンガ側要人、多数の招待者とともに参列し、国王陛下に続き、工事の安全を祈願する鍬入れの儀式をさせて頂いた。本事業は、日本政府の無償資金協力事業として、約33億円(66百万パアンガ)をかけて、我が国と同じく生存の多くを海に依存するトンガの人々が、より安全で快適な生活を送れるよう2本の専用バースや乗客ターミナルなど港内港湾施設を整備するものである。そして、それは、トンガと日本の友情の証であり、同時に、両国の緊密な関係がより強固なものになるための大きな契機となることを確信している。工事は、2018年年初の引き渡しを念頭に順調に進んでおり、9月には、ポアシ・テイ公共事業担当大臣の参加得て、当地メディアを対象とするプレスツアーを行い、進捗状況を広くトンガの人々に披露することができた。
(平成27年度無償資金協力「国内船用埠頭改善計画」鍬入れ式の様子:写真中央がトゥポウ6世国王陛下)
(平成27年度無償資金協力「国内船用埠頭改善計画」プレスツアーの様子:写真中央がテイ公共事業担当大臣)
この他、草の根・人間の安全保障無償資金協力も活発に展開しており、トンガタプ本島のみならず、最北端のニウアトプタプから、ババウ、ハーパイ、エウアなどの離島部でも、学校施設の建設・整備など教育分野を中心に、給水施設、病院整備、製氷機や小型船舶の供与など、人々の生活に密着した様々な分野で、地元コミュニティと一体となった協力を行っている。
(平成24年度草の根・人間の安全保障無償資金協力「ファレハウ村給水施設整備計画」竣工式典の様子)
(平成27年度草の根・人間の安全保障無償資金協力「ベイトンゴ小学校整備計画」竣工式典の様子:写真右はファカハウ農業・食料・林業・漁業大臣)
(平成27年度草の根・人間の安全保障無償資金協力「マアマロア幼稚園バオロロア分園整備計画」竣工式典の様子:写真中央はテイ公営企業大臣)
以上、着任1年半を迎える任国大使として、このような様々な協力や交流を通じて培われてきた、遠くて近い国との素晴らしい関係を、トンガの人々と一緒に、更に前進、深化させようとの決意を、新たにしたところである。