日本にとって重要なパプアニューギニアの魅力と課題

松本 盛雄
在パプアニューギニア特命全権大使 松本 盛雄

パプアニューギニアは南太平洋の赤道近く、オーストラリアの北側にある島嶼国で日本ではラバウルなどの地名がややなじみのある程度でその実態を知る人は少ない。人口は762万人(2015年)、国土面積は日本の1.25倍と、南太平洋の島嶼国の中では最も大きな国である。この国には600もの異なる民族と800にも及ぶ異なる言語があるといわれ、民俗学や文化人類学の研究者にとって世界的に重要な国でもある。また、4000メートルを超える高山地域から小さな無人島まで手つかずの自然が残っていることもこの国の魅力のひとつである。以下ではこの国の魅力と課題、日本との関係について紹介する。

多様な文化と豊かな自然

成田空港からニューギニア航空の直行便で南の方向へまっすぐに向かうと、6時間30分でパプアニューギニアの首都ポートモレスビーに到着する。現在日本との直行便は週2便運航されている。シンガポールやハワイとほとんど同じか、やや近いくらいの距離ではあるが、毎年この国を訪れる日本人は3000人あまりと大変少ない。それはこの国の魅力がまだ多くの人に知られていないためかもしれない。 パプアニューギニアの魅力のひとつはその文化の多様性にあるといわれている。600を超える島からなるこの国は、最大のニューギニア島(その西半分はインドネシア領)の中央を東西に走るオーウェン・スタンレー山脈の3000メートルから4000メートル以上の急峻な高山によって寸断されたニューギニア高地、そこに点在しお互いに往来の少ない民族群、急流が海にそそいでできた沖積平野、そして沿岸の諸民族。またマングローブの森に囲まれ、サンゴ礁が取り巻く島々にはそれぞれ異なる原住民が暮らしている。これら600にものぼる異なる民族の織り成す文化的風習・伝統文化がいわば手つかずの状態で残っている。

私自身も最初は全く区別がつかなかったが、多くの地域を訪問する中で、それぞれ特徴をもった民族について、どれがどこの地域の人々なのかおぼろげではあるが徐々に見分けがつくようになってきた。それが最もよくわかるのは民族舞踊大会などで、各民族がそれぞれ民族衣装をまとい、独自の舞踊を披露する場である。パプアニューギニアの人々はこういった文化的多様性を大変誇りにしていて、毎年、多くの場所でそのような大会が催される。有名なのは東ハイランド州ゴロカ市のゴロカ・ショーや東ニューブリテン州ココポ市(ラバウル)のマスク・フェスティバルなどである。

私が毎年楽しみにしているのは、かつて日本政府が無償資金協力で施設を建設したポートモレスビーにあるカリタス技術訓練学校で行われる学生たちによる民族ダンスショーである。ここでは各地からやってきた学生たちがそれぞれの民族衣装をまとってその特徴を説明しながら舞踊や音楽を披露し、出来栄えを競うのであるが、これだけ多くの民族舞踊が一堂に会するのは全国でも珍しいことである(写真)。また、若者たちがこうやって自分たちの固有の文化に誇りを持ってそれを後世に伝えていくことはとても大切だと感じる。

もう一つの魅力はその大自然と珍しい動植物などである。道路事情がわるいため、各地へ出張する際には基本的には飛行機での移動となるが、その眼下に見える景色はほとんどが熱帯雨林か槍のように切り立った連山で、その間に蛇行する茶色がかった河川が見える。高い山の間では頂上から河まで一気に下る断崖絶壁が進路を拒んでいる。このような地形のために、奥地ではいまだに人の入ったことがないような場所が多く、こういうところでは動植物の新種が見つかることも少なくないという。

私自身が着任後まもなく出張で訪れたマダン市は海辺のリゾート地でもあるが、このホテルの庭を歩いているときに木彫りの鳥が庭の真ん中に置いてあるのを見かけた。ところが、この鳥がしばらくすると突然動き出したのにはびっくりした。それは本物の鳥であった。ホーンビルという名の体長50センチほどのくちばしの大きな極彩色の鳥で庭の中をピョンピョンと跳ね回って家屋の裏に姿を消した(写真)。

ホーンビルもさることながら、この国に生息する鳥のうち最も有名なのはやはり極楽鳥で、その長い尾羽と目を引くような色彩が見事である。極楽鳥は国章ともなっており、国旗にもその姿が写されている。また、この鳥の様子をまねたダンスや羽を使った民族衣装の飾りは、お祭りでよく使われる。動物ではワニが東セピック州などの民族にとって神聖な動物であり、自分たちの祖先を象徴していると考えられている。このため同地の有名な木彫りの工芸品にはいたるところでこのワニの象形が使われている。珍しいのは木登りカンガルー(クスクス)であろう。小型の有袋類で基本的に木の上で生活している。地方のローカル市場では生きたクスクスが売られている。クリクリした目はとても愛くるしい。初めはペット用に売られているかと思ったが、実は食用であることがわかった。実際、市場ではすでに調理済みのクスクスも売られていた。

日本との強いきずな

パプアニューギニアは1526年に西側諸国としてポルトガル人が初めて上陸したが、その後オランダ、ドイツ、イギリスなどにより植民地化され、第二次世界大戦時には日本がニューブリテン島ラバウルやニューアイルランド、ブーゲンビルなどの島々を占領した。戦後はオーストラリアの委任統治下に入り、1975年に独立する。

独立に大きく貢献した「建国の父」と呼ばれるマイケル・ソマレ元首相と私が最初に言葉を交わしたのは2014年12月、着任後初めて実施した天皇陛下誕生記念レセプションの席であった。それまでも種々イベントで見かけることはあったが、話をしてみるとまったく威圧的なところのない気さくな方である。翌2015年5月に同元首相は対日関係における貢献により外国人に与えられる最高位の勲章である旭日大綬章を受賞された(写真)。その祝賀会を大使公邸で行った際、親しい友人たちに囲まれて談笑する氏の姿はまさに「慈父」といった様子であった。ソマレ氏もラバウルの出身である。当時、戦争の進展とともに父親に連れられて東セピック州に移転したが、そこで日本人との歴史的遭遇を経験する。柴田中尉は当時この地域に展開した日本軍の一員として東セピック州のカウプという村に駐屯していた。彼は地元住民のために小学校を建設する。当時9歳のソマレ氏はここで学び、日本語もある程度習得する。今回、叙勲のために訪日したソマレ氏は柴田中尉の夫人と再会を果たしたが、同席した私に「いち、に、さん」と日本語で言ったのには驚いた。柴田夫人はソマレ氏が知事を務める東セピック州の学校に私財を投じて図書室を作ったという。

2014年7月に安倍総理が日本の総理大臣として29年ぶりにパプアニューギニアを公式訪問された。この歴史的な訪問を機に両国関係は新たな局面に入ったといえる。この年からパプアニューギニアは天然ガス輸出国の一つとなった。現在、年間生産量は600万トンから800万トンとまだそれほど大きな規模ではないが、その半分程度を日本に輸出している。パプアニューギニアから輸入される天然ガスの量は日本の全輸入量の5%程度に過ぎないが、今後、その生産量と輸出量は新たなガス田の開発・生産開始によって、ますます増大していくものと予想される。液化天然ガス(LNG)の対日輸出第一船が2014年6月に日本の港に到着した際には、オニール首相が訪日してこれを出迎えた。LNGの輸出開始はそれほどまでにパプアニューギニアにとって重要な出来事であった。オニール首相はその後、2年間に日本を3回訪問している。

(写真提供:内閣広報室)

日本とパプアニューギニアとの外交関係は1975年の独立と同時に始まった。日本は最も早くパプアニューギニアを承認した国の一つである。両国は2015年に国交40周年を迎えた。国交樹立以来40年にわたり、日本の政府開発援助(ODA)を中心とする対パプアニューギニア支援はこの国の経済開発に大いに貢献してきた。この間のODA総額は約15億ドルに上る。これはオーストラリア、ニュージーランドといった旧宗主国等からの援助に次いで大きな規模である。日本の援助で建設された橋梁は特にその品質の高さが評価されている。私は着任早々ブーゲンビル州を訪問したが、この島を縦断する国道には2012年に15の橋が日本の無償資金協力で建設された。実際にこれらの橋を渡ってみるとその質の良さが実感できる。あたかもつい最近できたかのように堅牢でいささかの傷もない。品質に加えて日本企業の技術とそれを現地人に教えようとする態度は他の国の援助との比較で高く評価されている。私が訪れた橋の一つは洪水により護岸の一部が壊れてしまったのだが、この橋の建設に参加した地元企業が建設中に覚えたやり方で見事に修復していた。こういった技術移転が経済協力を通じて実現し、地元企業の技術力が上がっていくのは理想的なことである。

自信を強めるパプアニューギニアとこれからの課題

近年、パプアニューギニアは政治的な自信を強めつつある。多くの国際会議やイベントの招致にも力を入れている。2015年にはこの地域のオリンピックともいえるパシフィックゲームが成功裏に行われた。また同年、太平洋島嶼国会合(PIF)首脳会議もパプアニューギニアの首都ポートモレスビーで開催された。2016年に入ってからは、アフリカ・カリブ・太平洋諸国首脳会議(ACP)を開催し、79メンバー国中50か国以上の首脳らが出席した。今年11月から12月にはサッカーFIFAU20女子ワールドカップの試合が予定されている。さらに2018年にはAPEC議長国として首脳・閣僚会合などを開催する予定である。これらの国際的イベントを通じ、パプアニューギニアの島嶼国のリーダーとしての実力と存在感がますます増大していくものと期待される。

一方、パプアニューギニアは現在いくつかの課題を抱えている。一つはその政治的な安定性と政府の統治能力に関する問題である。独立から現在に至るまで、パプアニューギニア政府は国家建設のために多大な努力を払ってきた。オニール首相率いる現政府も2012年以来4年余りにわたり、経済開発の推進、教育・医療の無償化による国民の生活環境改善、インフラの整備などの重点政策を実施し、大きな成果を挙げてきた。しかし、ここにきて財政事情が悪化し、地方レベルでの財源不足が顕在化しつつある。いかにして地方への財政支出を確保するかは政治の安定とも関連する。今後はLNG輸出による収入の財政収入における比率が徐々に高まっていくと期待されているが、それをどのように分配していくかも政府の重要な役割といえる。

また、今後の政治的な安定性を占うひとつの重要な問題がブーゲンビルの独立をめぐる動きである。かつて同島のトロキナ地区における豪州企業による銅鉱山開発により自然破壊が生じ、これに端を発した民族独立の動きが高まり、武力衝突にまで発展した。この武力衝突は長期化したが、2001年の平和条約によってようやく沈静化し、危機は一応収拾した。その平和条約によれば、今後2020年までにブーゲンビルの独立の是非について住民投票を実施することになっている。これにはブーゲンビルの民族問題、経済的自立や鉱山開発権をめぐる問題などが複雑に絡み合っているだけに、中央政府としてのかじ取りが注目されている。

第二は経済面での課題である。パプアニューギニア経済は基本的に資源輸出型の産業構造であり、従来から農林水産・鉱業資源の輸出により発展を図ってきた。伝統的な輸出品目としては金、銅、ニッケル、木材、マグロ、パームオイル、コーヒー、ココアなどがあげられる。これに加えて近年は上述の通りLNG輸出が加わった。資源輸出に依存してきた結果、国内の産業はあまり発展しておらず、特に製造業はほぼ皆無といってよい。このため消費財を含むほとんどの物資を輸入に依存している。こういった対外依存度の極めて高い経済構造を改め持続可能な成長を図るため、国内産業の育成が急務とされている。現在、政府は観光業をその一つの重点として育成を図る方針である。確かに多様な文化と自然は魅力的であり、現在でもダイビングやサーフィンそれに民族舞踊イベントなどに多くの外国人観光客が訪れているが、これらの観光資源を十分に活用するためのインフラは未だ整備されていない。また政府は農業を強化し、国内需要を満たすと同時に付加価値の高い製品を輸出することも推奨している。農産物の中ではパームオイル、コーヒーやカカオなどが有名であるが、いずれも原料輸出が主流であり、付加価値はそれほど高くない。このような製造業における技術的課題を克服するためにも海外からの投資促進が重要である。そして海外から投資を誘致するためにはポートモレスビーなど大都市における治安の改善が喫緊の課題である。貧富の格差や民族問題等様々な要因により、大都市の治安は近年ますます悪化しており、いたるところで強盗、カージャックなどが頻発している。また、この国でビジネスを行う上でのもう一つの課題はコスト高である。ほとんどの物資を輸入に頼っているうえ、国内インフラが未整備なため輸送コストなどが高く、さらに上記の治安状況に対処するためのコストも必要なため、全体としての投資コストは他の島嶼国と比べても格段に高くなる。

地域の安定と繁栄に向けた二国間協力

 日本政府はこのように日本とパプアニューギニアとの歴史的関係や政治・経済的重要性に鑑み、引き続き両国関係の進展のために協力していくとの方針を明確にしている。たとえば2015年10月のオニール首相公式訪問の際に行われた日・パプアニューギニア首脳会談における共同プレス発表には今後の協力の重点として次のような諸点を挙げている。

(1)太平洋・島サミット(PALM)プロセスを通じて地域協力を促進すべく共に取り組む。

(2)パプアニューギニアにおけるLNGプロジェクト並びに投資の促進及び保護に関する両国間の協定の円滑かつ効率的な実施等を通じて経済的なつながりを一層深化させる。

(3)防災、気候変動、環境、人的交流、持続可能な開発、海洋、海事・漁、そして貿易、投資、観光等の多様な分野において協力を強化していく。

ODAを通じた経済開発を継続しつつ、日本からの投資誘致促進のために協力し、パプアニューギニアの自律的発展を支援していくことがますます重要となってきている。

(本稿に表明された見解は、筆者個人のものである。)

この投稿へのコメント

コメントはありません。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

CAPTCHA


この投稿へのトラックバック

トラックバックはありません。

トラックバック URL