地球環境保全の重要性

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               明治大学特任教授 堀江正彦
               IUCN (国際自然保護連合)理事
               元駐マレーシア大使

絶滅が危惧されるウナギくん

 昨年6月12日、世界の科学者を擁して自然保護に努力する国際自然保護連合(IUCN)が、ニホンウナギをレッドリストに掲載した。レッドリストとは、ご存知のとおり、世界で絶滅またはその恐れのある野生動植物を載せたリストであり、世界で最も権威のある絶滅危惧種の評価資料とされている。

 我々日本人がこよなく愛するウナギが絶滅危惧種として指定されることは、夏バテを乗り越える土用の蒲焼に言及するまでもなく、我々日本人の食卓を直撃する強烈なパンチであり、IUCNの名前もニホンの津々浦々にまで結構知れ渡ったのではなかろうか?

 ウナギが、この半世紀にわたって、親ウナギのみならず稚魚も大きく激減しているのは、IUCNが悪いのではなく、ウナギの生態が把握しにくいこともあって、卵からの完全養殖に成功していないにも拘らず、日本人をはじめとするグルメにウナギがコヨナク愛され続けているからに他ならない。

 我が国の環境省は、一昨年すでにニホンウナギを日本のレッドリストで絶滅危惧種に掲載している。IUCNは世界に対して科学的にこれを裏付けるとともに、絶滅しないよう手を施すべきことを警告しているに過ぎない。この警告を真剣に受け止め、持続可能なかたちでの種の保全を確保することこそが、将来にわたって土用の丑の日を楽しむために必要になる。

 更に言えば、このレッドリストには、既にミナミマグロやクロマグロ、そしてトキやパンダも入っているわけで、ウナギに限らず多くの野生動植物を保護していかなければならない。そうした努力は、IUCNをはじめとして世界で行われている。

IUCNとは一体何か?

 IUCNの話から入ったのは、実は、一昨年4月にこの国際自然保護連合の理事に選出されたからである。対抗馬は、その道10年以上も自然保全に携わってきた韓国人候補1名と、同じく経験の長い中国人候補2名の計4名の戦いであったので、一時はどうなることかと心配はしたが、結果的には多数の理事の支持を得て無事当選した。

 過去には、千葉県知事や参議院議員を歴任された堂本暁子氏、駐タイ大使であった赤尾信敏氏、駐オランダ大使であった小池寛治氏、そしてジュネーブ代表部大使であった北島信一氏が、このIUCN理事として歴代活躍されてきている。

 ところがである。「IUCNの理事に当選しました」と話しても、自然環境保護の関係者を除いて、IUCNが何なのか知っている人は少ない。極めて少ない。ご近所で知っている人などは誰もいないのが現実である。

 IUCNは、「野生生物の国際取引を規制するワシントン条約」や「生物の多様性の保全やその構成要素の持続可能な利用に関するCBD条約」さらには「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地の保全に関するラムサール条約」などの国際約束の科学的根拠を提供している世界最大の自然保護組織であるにもかかわらず、IUCNが人口に膾炙されていないことは、実に残念なことである。

 更に言えば、ユネスコの「世界遺産条約」に基づく世界遺産委員会の諮問機関として、自然遺産としての記載の可否について勧告するのもIUCNなのである。一昨年6月に富士山が「信仰の対象と芸術の源泉」として、世界遺産一覧表に文化遺産として記載されたことは快挙であったが、それは20年にも及ぶ関係者の努力の賜でもあった。初期の時点では、果たして富士山を「自然遺産」として評価すべきか、「文化遺産」として評価すべきかの議論が行なわれた。

 その詳細はここでは省略するとして、「文化遺産」の評価はICOMOS(国際記念物遺跡会議)が行い、「自然遺産」はIUCNがそれぞれ担当することになっており、仮に富士山について「自然遺産」として申請していたならば、日本においてIUCNの名はもっと知られたかも知れない。

イルカさんのご登場

 世界には多くの国際機関が存在するが、IUCNの知名度が低い理由として、一つ考えられることは、UNESCOは「ユネスコ」、UNICEFは「ユニセフ」と片仮名でも表記することができるのに対して、IUCNは「アイ・ユー・シー・エヌ」と4つの頭文字を発音するしかないことにある。これは自分でも「アイ」のあとが「ユー」だったのか「シー」なのか分からなくなることもある。問題ではあるまいか。

 そこで思いついたことは、その名前を変更することは無理なので、IUCNを捩って、最後は「自然を見守る」ことを強調し、「アイ・ユー・シー・ネイチャー」“I, You See Nature” とする、それをイルカさんに ♫ 私と、貴方とで、自然を見守ろう ♫ と歌って貰うことだった。

 イルカさんは、勿論「なごり雪」で有名なあのイルカさん。実は、今から丁度11年前に赤尾大使がIUCN理事であったとき、イルカさんに依頼してIUCNの親善大使になって頂いた。IUCNの親善大使は、今日でこそ世界で6人も任命されているが、イルカさんは初めてのIUCN親善大使として任命された。それはイルカさんの名前故ではなく、イルカさん自身が自然保護に関心が深く、そのための活動も大いにされて来られたからに他ならない。

 一昨年7月、イルカさんに、IUCNの世界における知名度を上げるために「IUCNの歌」を創作して欲しいとお願いしたところ、快く受け入れて下さり、住友生命保険相互会社に資金協力を依頼されて、僅か半年ばかりで「We Love You Planet!~ひびけ!惑星に。」 と題した素晴らしい作品を創作された。ぜひ読者の皆さんにも一度聞いて頂きたい。イルカさんの描く自然の素晴らしさとその保全の必要性がひしひしと伝わって来て、感動されることを保証します。(http://www.iucn.org/about/union/iucn_ambassadors/iruka/)

 昨年5月のIUCN理事会において、この「IUCNの歌」を披露したところ、会場にいたIUCN関係者全員が喝采。委員長や理事から「自分たちのホームページに掲示したい」「子供たちを対象にしたイベントで披露したい」「素晴らしい作品で感激した、IUCNとしても大いに広報して行きたい」などの反響があった。

 実は、これに先だつ4月に明治大学のアカデミーコモンの7階にオープンした、小生のアンバサダーズ・ラウンジでは、学生たちに自然保護の重要性を知って貰おうと、イルカさんのこの歌をBGMとして、いつも流している。また、イオンが店舗で環境映像を流すときに、この歌も活用してくれているが、日本のみならず、世界中で、多くの人たちにこの歌を口ずさんで貰えるようになって欲しいと考える。

イルカさんの歌声とともに、ウナギくんの保護や、富士山の環境保全も含め、世界で自然保護の運動が身近なものになり、盛り上がりを見せてくれることを期待している。 

                               

後日談

 昨年、イルカさんが親善大使就任10周年を迎えたのを契機に、岸田大臣にお願いして、外務大臣表彰をして頂いた。その後の園遊会では、イルカさんはご自分のデザインで創作された着物姿で臨まれた。丁度、春頃から取りかかっていた狸のデザイン「秋のさとやま」という着物が出来上がった矢先であったので、それを召されて出席したところ、天皇陛下が狸の研究をされていたこともあって、両陛下のお目に止まり、しばし狸と自然保護の談義に及んだ由で、新聞やTVニュースでも報道されてちょっとした話題になったのは、偶然とは言え、嬉しいことであった。

 また、これと平行して、昨年の文藝春秋11月号の巻頭随筆に「イルカさんとウナギくん」の題名で、イルカさんにIUCNの歌を創作して頂いた際の顛末記が掲載された。これをご覧になった先輩方からも反響が有り、「あれは、なかなか良かった。霞関会会報に、もう少し長いものを寄稿してはどうか」との有り難いお話があった。そこで、巻頭随筆では割愛せざるを得なかったところや、書けなかったこと等を含め、少しばかり違った角度から、今回書き下してみた。ご笑読頂けると幸いに存じる次第である。     2015年元旦

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