日本はウクライナ危機収束の仲介役となれ

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初代駐カザフスタン大使  松井 啓

 3月24日ハーグでのG7サミットでロシアの追放を宣言したことは拙速であったが、恒久的な追放でないことはせめてもの幸いであった。もともと自由、民主主義、人権、法の支配、市場経済が整っていなかったロシアを先進国サミットに参加させることには日本は消極的であったが、表だって反対できず米欧に押し切られた。しかし今回はロシアをG8内に止めてピア・レヴュー(グループ内評価)の対象とすべきであった。

 クリミヤ半島を廻る動きは帝国主義時代のパワーポリティックを髣髴とさせたが、米欧もロシアも軍事力を行使せずに制裁合戦を開始している。冷戦崩壊後は経済の相互依存関係が深化しているので、首の絞め合いを続ければ世界経済全体が台無しになり、リーマン・ショックの二の舞いの「クリミヤ・ショック」を招くことは目に見えている。ロシア人は窮乏に耐える国民性があるが、西側民主主義諸国では市民の制裁支持は続かないであろう。世界規模の経済危機に陥るならばまたしても中国の一人勝ちになる可能性は大きい。 

 「懲罰し孤立化」させるためにロシアを共産独裁の中国と同列に追いやることは止めるべきであろう。既に米は軍事力は行使しないと声明しているので、ロシア人の大多数が「強くなったロシア」の高揚感に浸っている時にクリミヤ半島のウクライナ返還に応ずることはプーチンにとっては自殺行為であるので決して応ずることはないであろう。とことん追い詰めると暴発する可能性があることは国際政治の常識である。他方、自由も民主主義も人権も無視し、チベットやウイグルの自由化運動を圧殺している中国は、今のところ旗色を鮮明にせずに米欧・露の仲介の機会をうかがっているが、中国に漁夫の利を与えることだけは是非とも避けるべきである。

 米欧とロシアの双方の面子を救い「引き分け」に持ち込ませる役割は、G7メンバー中では特異な存在である日本のみができることである。日本は既にウクライナ暫定政権に対して15億ドル(1500億円)の金融支援を表明したが、これまで遠方のアフガニスタン支援のために東京で支援会合を何回か開いたように、東京でウクライナ支援の国際会議を主催することは、安倍首相の地球儀外交(アベプロマシー:Abeplomacy)の一層の展開を示す良い機会となろう。

 ロシアは外国監視団のクリミヤ派遣やOSCE(欧州安保協力機構)監視団ウクライナ派遣交渉で時間稼ぎをする傍ら、クリミアの水道や電気等のライフライン整備、クリミヤ市民に対するロシア旅券の発給、ルーブルやモスクワ時間の導入、クリミヤ兵士の露軍編入等の既成事実を着々と積み上げてきている。ウクライナ危機終息の最終的な落ちは、歴史的経緯、住民の意思等を勘案し、クリミヤ半島のロシア合併、ウクライナへの経済的支援、一体性の保障(ウクライナのシリア化防止)であろう。プーチン大統領の信任厚い老獪なラブロフ外相は、G8の枠組み無しでも国連安保理事会やG20等での活動の場があるとうそぶいているが、このような合意に至ればロシアもG8復帰は望むところとなろう。

 因みに、戦後これまでも北キプロスの独立、ユーゴスラビアの崩壊とコソボを含む7カ国の独立、南オセチア、アブハジア、南スーダンの独立等は夫々同列には論じられないように、北方領土返還問題も新しい方法と論理が必要であることは論をまたない。

(2014年4月1日寄稿)