最近の日本・ドミニカ共和国関係

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駐ドミニカ共和国大使 佐藤 宗一

ドミニカ共和国勤務約2年半が経過、これまでに見聞したことを中心に、最近の日本とドミニカ共和国の関係について御紹介したい。

1.移住記念碑の建立
 当国の邦人移住者が「移住者としての尊厳を形にし、後生のために残したい」として切望してきた邦人移住記念碑の建立が実現し、本年1月17日、邦人移住者、地区住民代表、両国政府要人(若林外務大臣政務官及びトゥルジョールス当国外務次官等)などの出席の下、その落成式が盛大に執り行われた。この移住記念碑は、移住当時(1956年~59年)の邦人農業移住者の姿をブロンズ像にしたものであり、移住船が接岸した港が見渡せるサントドミンゴ市内の海岸通り(通称マレコン通り)に面した小公園内に建立された。ユネスコ世界遺産に登録されている旧市街の縁にあるので、当国を訪問される方は是非お立ち寄りいただきたい。因みに、この移住記念碑は富山県高岡市所在の彫刻会社が製作したものである。また、外務省とJICA(国際協力機構)が移住記念碑建立計画を全面的に支援した。

 当国の邦人移住者は、移住事業を巡る当時の日本政府の対応により、筆舌に尽くせぬ苦労をされ、2000年には日本政府を相手取り訴訟を提起するまでに至った。その後、邦人移住50周年に当たる2006年7月、当時の小泉内閣は総理談話により邦人移住者に正式に謝罪するとともに、日系社会に対する各種支援を実施して行くことを表明したという経緯がある。前述の邦人移住記念碑落成式において、嶽釜移住記念碑建立委員会委員長(ドミニカ日系人協会会長)が挨拶の中で「ドミニカ共和国及び日本両国の友好親善と発展のための架け橋となり活躍し続けなければならない」と述べたのが印象的であった。

 当国日系社会の人口は2世・3世等を含め推定1千人弱であり、当国の人口約1千万人の0.01%に過ぎないが、邦人移住者の当国農業発展への貢献はよく知られており、その存在感は大きい。ドミニカ日系人協会は、日系社会の発展と日本文化の継承のため、日本語学校の運営のほか、運動会・盆踊り・ソフトボール大会など様々な行事を開催している。近年、多くの非日系人も参加するようになった盆踊りは、現地社会との交流の場にもなっている。   

2.経済関係
 近年、日ド両国の経済関係は盛況とは言い難い。どちらかと言えば低調である。当国の2012年貿易統計によれば、両国間の貿易総額は約2億ドルに過ぎず、日本はドミニカ共和国の輸出相手国としては25位、輸入相手国としては10位である。両国貿易はドミニカ側の大幅赤字であり、当国政府の関心は果物など農産物の対日輸出拡大である。因みに、主な対日輸出品はフェロニッケル(対日輸出額の約35%)、コーヒー、カカオなどであるが、最近はフリーゾーンで生産している医療品や靴などの工業製品も日本に輸出されている。
 日本からの輸入品の大部分は自動車であり、ほとんどの日本メーカーの自動車が輸入されている。最近発表された車両登録統計によれば、登録車両の約75%は日本車である。一方、近年、当国でも韓国車の躍進が著しく、2012年型新車の登録台数では、とうとう韓国車が日本車を抜いて第一位となった。メーカー別でも第一位が現代、第二位が起亜と韓国車が占め、トヨタは第三位に後退した。最近の円安傾向の下、今後の日本車の巻き返しが期待される。

 当国では日本製品の評判が良い。特筆されるのは、サタケの精米器のシェアが80%を占めることである。また、当国では縫製業が盛んであるが、これらの工場で使用されている工業用ミシンの大部分は日本製(JUKI)である。事務所ビルやショッピングモールに設置されているエレベーターやエスカレーターも日本製が目立つ。一方、直接投資は少なく、主な進出企業はワコール1社である。フリーゾーンで米国向けの女性用下着を製造しているが、業績は順調である。

3.文化交流
(1)野球と剣道
 最も人気のあるスポーツは野球である。当国が2013ワールド・ベースボール・クラシックで優勝したのは記憶に新しい。日本で大活躍中のトニー・ブランコ(DeNA)とエクトル・ルナ(中日)はドミニカ人である。また、広島東洋カープは当国で野球選手養成所を運営し、選手の育成を行っている。近年、同養成所の選手育成は投手中心であったが、近く野手の育成も再開する由。現在、身長2メートルの有望な投手がおり、同投手を今年中に日本に送り込む計画とのこと。乞う御期待。

 この野球王国には剣道愛好家もおり、JICA派遣の師範(シニアボランティア)の指導の下、熱心に稽古に励んでいる。邦人移住者の笠原氏(故人)が自宅に剣道場を開いたのが始まりであるが、現在ではサントドミンゴ自治大学でも授業の一環として剣道が実施されており、2012年には草の根文化無償資金協力により「体育教員養成施設整備計画」として同大学に本格的な剣道場が建設された。師範によれば、これほど立派な剣道場は中南米には見当たらないとのこと。

(2)音楽
 ジャマイカはレゲー、キューバはサルサであるが、ドミニカ共和国はメレンゲである。2010年に国際交流基金の招待で訪日したメレンゲの大御所チチ・ペラルタは、当地在住日本女性とのデュエット曲「アモール・サムライ」を制作した。2011年12月には、訪日経験をまとめたビデオ・ドキュメン「インサイド・ジャパン」の発表式が、モラレス外相主催により当国外務省で実施されたが、その際、チチ・ペラルタは「アモール・サムライ」も披露した。リズミカルで綺麗なメロディーのメレンゲであり、是非一度聞いていただきたい。(蛇足:メレンゲを聞きながら仕事をすると、能率が上がるらしい。以前、JUKIミシンを使っているGAPの縫製工場を視察した際、「工場でメレンゲを流すようになってから、生産性が2~3割向上した」との話を聞いた。)

4.経済技術協力
 当国経済において観光産業は重要な地位を占めているが(当国を訪れる観光客は年間四百数十万人)、JICAは観光分野でユニークな技術協力を実施中である。大西洋に面した当国北部のプエルト・プラータ県で実施している「官民協力による豊かな観光地域づくりプロジェクト」というものであり、施設内完結型で観光客がホテルの外に出ることがほとんどないという当国観光を改善するため、地元に裨益する観光の仕組み作りに取り組んでいる。日本の一村一品運動のように、同県内の9つの市ごとに、自慢の一品の開発を行っている。「マナティ」、「琥珀」、「良質のコーヒー」、「地元の海鮮料理」、「伝統音楽メレンゲ」、「ヨーロッパ人が築いた中南米最初の町」など、興味深い観光商品があるので、当国訪問の際は是非足を伸ばしていただきたい。
(本稿に記載している内容は個人的見解に基づくものです。)(2013年6月27日寄稿)