第5回アフリカ開発会議(TICADⅤ)の概要(報告)

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特命全権大使(第5回アフリカ開発会議(TICAD Ⅴ)担当)  伊藤 誠

 6月1日~3日、横浜で第5回アフリカ開発会議(TICADV)が開催された。TICADは、Tokyo International Conference on African Development の略だが、第4回から東京ではなく横浜で開催されている。
今回のTICADVには、アフリカから39名の国家元首・首脳級を含む51ヵ国の首席代表が、また共催者である国連、アフリカ連合委員会、世界銀行、国連開発計画(UNDP)からそれぞれの長が参加した他、ドナー諸国やアジア諸国、国際機関や地域機関の代表、それに民間セクターやNGO等市民社会の代表等も参加した。 日本からは、安倍総理が議長として、また岸田外相それに議長代理として森元総理が参加した。私は、昨年10月からTICADV担当大使として、内外プレスへの働きかけ等の対外発信、アフリカ各国首脳の参加招請、NGO等との対話等を中心に事前準備から携わり、本会議にも参加した。ここに簡単に今回の会議の概要を記すこととしたい。

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TICAD V 1/6/2013 開会式全体会合
今回のTICADVの基本テーマは、「躍動するアフリカと手を携えて(Hand in Hand with a More Dynamic Africa)」であった。 アフリカをめぐる状況は、日本主導で国連等に呼びかけ第1回TICADが開かれた1993年とは大きく変化している。特に開発が遅れていたサブサハラ・アフリカでも、2000年代を通じて年平均で6%近い着実な経済成長を遂げ、昨年のアフリカ全体での成長率は6.6%であった。今回の会議では、こうした経済成長をさらに力強く持続可能なものとするとともに、万人がその成長の恩恵を受けられるようにするというアフリカ開発の方向性を打ち出すことができた。会議の成果文書として採択された「横浜宣言2013」では、重点分野として次の6項目が挙げられた。

①民間セクター主導で成長を促進し、そのための投資環境の改善に努める。
②インフラ整備を促進する。ハードインフラだけでなく、産業人材を育成する。
③農業従事者を成長の主人公にする。特に小農の生活向上が不可欠であり生産
 ・保管・流通を一貫して整備する。
④気候変動等に適応した強靱な成長を実現する。
⑤教育、保健、水・衛生等で万人が成長の恩恵を受ける社会を構築する。
⑥平和と安定、グッドガバナンスを定着させる。同時に採択された
「横浜行動計画2013-2017」では、宣言に基づいて日本を含めてTICAD参加者
による今後5年間の具体的行動について合意した内容が記載された。

その中で日本は、引き続きアフリカを支援するとともに、アフリカが求める民間の貿易投資を促進することにより、アフリカの成長を後押しする姿勢を表明した。具体的には安倍総理がTICADVの開会式スピーチの中で、日本として今後5年間でODA140億ドルを含む最大320億ドルの官民の取組でアフリカの成長を支援すると発表した。すなわち、インフラ整備への公的資金65億ドルの投入、3万人の産業人材の育成、アフリカの若者1000人を日本の大学留学と日本企業でのインターン経験をするため日本に招聘する安倍イニシアティブの他、民間セクター支援策として、最大20億ドルのNEXI貿易保険枠の設定などの措置である。また、農業では、前回TICADで表明したコメ生産の倍増の取組を継続する他、儲かる農業への転換をはかることにより農家の所得増加を支援する取組を展開する。 教育では「みんなの学校」プロジェクトをさらに拡充し、保健では全ての人々が基礎的保健医療サービスを受けることが可能な状況を実現するユニバーサル・ヘルス・カバレッジを推進し、水・衛生では新たに1000万人への安全な水へのアクセスを実現することを目指す。さらに平和と安定では、テロ対処能力向上のための人材育成や、サヘル地域向け開発・人道支援として10億ドルの貢献が表明された。ここに記したのは日本の支援策の一部で、その詳細は「横浜行動計画2013-2017」の別表に全て記載されており、今後5年間にわたってフォローアップ閣僚会議で実施状況がモニターされることとなる。

実は、この行動計画の実施状況をモニターする仕組みは、2008年のTICADIVから採用されたものである。前回日本は、2012年までに対アフリカODAを18億ドルに倍増し、また対アフリカ投資が34億ドルに倍増するよう支援するとの支援策を発表した。2009年から毎年アフリカで開催することとなった閣僚級フォローアップ会合で、その実施状況がレビューされた。そして日本は2012年までにその約束を実現した。今回も同様なフォローアップメカニズムが取られることが予定されており、日本はその約束の実現に向けて努力していくこととなる。

 今回のTICADVは、前述の通りアフリカから多くの首脳が参加し、今後のアフリカ開発の方向性を示す横浜宣言2013と、アフリカと日本を含む国際社会の取組をまとめた横浜行動計画2013-2017が採択される等成功裏に行われた。

また、この機会に、天皇皇后両陛下のご臨席をいただいての第2回野口英世アフリカ賞授賞式と記念晩餐会の他、ソマリアの社会・経済問題を話し合うソマリア特別会合、「人間の安全保障シンポジウム」、それに国連安保理改革に関する会合も開かれた。さらに、安倍総理は会議に参加した全てのアフリカ各国首脳と、また岸田外務大臣、松山外務副大臣、それに阿部外務大臣政務官が各国閣僚や国際機関代表とそれぞれバイ会談を行う等、日本の対アフリカ外交を進める上でも極めて有意義なものであった。外務省は会議の事務局として共催者とともに会議の準備にあたってきたが、そうした観点から今回の会議の特徴や気づいた点について触れてみたい。

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TICAD V 1/6/2013第2回野口英世アフリカ賞授賞式と記念晩餐会
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TICADⅤ31/5/2013 ソマリア特別会合
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TICADⅤ 2/6/2013人間の安全保障シンポジウム
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TICADV 2/6/2013 テーマ別会合  テーマ別会議


(1)近年アフリカ側は日本企業のアフリカ進出を歓迎し、また日本の民間企業もアフリカの潜在性に注目して進出意欲を示している。今回のTICADVでは第一日目の議題に「民間との対話」を加えるとともに、経団連が主催し、昼食をとりながら民間企業と交流する場を設けた。これはアフリカ各国首脳と日本の民間企業代表者が一同に会して意見交換をするとともに、個別に交流を深める機会となり双方から高く評価された。

(2)今回からアフリカ連合委員会(AUC)が新たにTICADの共催者に加わった。これはアフリカのオーナーシップを高めるという意味で歓迎すべきことである。他方、AUCは2000年以降、EU、中国、韓国、インド等と個別にアフリカ開発フォーラムを開始している。TICADはこれら各国別のフォーラムとは異なり、国連等を共催者として他の国際機関、民間セクターやNGO等も参加するマルチの政策フォーラムであり、次回以降会議の運営等についてAUCとの調整が出てくるものと思われる。

(3)今回AUCの要望で、会議で共同議長制を取ることとなり、日本の安倍総理とAU議長国のエチオピアのハイレマリアム首相が共同議長となった。これはうまく機能して、例えば5分間のスピーチ時間を守らないアフリカ首脳に対し、議長代理のアフリカ首脳がストップをかけ、スピーチを途中で終わらせていたが、このような荒技は議長席のアフリカ首脳だからこそできたのではないかと思われた。

(4)日本側議長代理を務めた森元総理の提案で、議題ごとに2名の基調講演者以外は自由討論としてフロアの自席から発言するように事前に参加者に知らせていた。もっともどの議題で発言したいか事前に希望を聴取したが、当日も必ず手を挙げて登録して発言することとした。これも結果的にうまくいき、お互いの議論がかみ合う場面が多くなり生き生きとした議論が行われた。

(5)TICADはこれまで5回とも日本で行われてきたが、今回初めて行動計画の中で開催場所についてローテーションが適用される可能性に言及された。今後共催者間で議論されることになるが、次回TICADが日本ではなくアフリカのどこかの国で開催される可能性が出てきたといえよう。

(6)会議と平行して、横浜の国際会議場に隣接する展示ホールやアネックスホールを中心に、アフリカに関連するテーマでセミナーやシンポジウム等多くのTICAD関連イベントが行われたことも今回の特徴の一つであった。JETRO主催のアフリカン・フェアでは各国の産品が展示・販売された他、政府機関、国際機関やNGO等が主催する公式サイドイベントとして46のセミナー・シンポジウムが開催され、127の展示ブースが設けられた。この他JICAも19のシンポジウムを開催した。等が行われこれらのいくつかには安倍総理や各国代表者等も出席してスピーチを行った。週末をはさんだこともあり、これらのイベントには約6万人以上の人々が集まり、参加者のアフリカに対する理解や関心を高める上で大きな成果をあげた。

今回のTICADVには、アフリカを中心に世界各国から過去最大となる4500名以上が参加し、日本で開催された最大規模の国際会議となった。これだけ大規模な国際会議ともなるとロジ的には大変なオペレーションであった。しかしホスト市となった横浜市の他、万全の警備体制を取っていただいた神奈川県の全面的な協力で大きなトラブルもなく終えることができたのは幸いであった。私がたまたま遭遇したことであるが、あるアフリカ首脳を成田空港に出迎えたとき、翌日到着予定の別のアフリカ首脳が同じ飛行機に搭乗していることがわかった。急遽、空港ロジ担当者の機転で、車を用意し警察にも連絡して車列を組み東京にホテルを1泊分用意したが、関係者が一瞬青ざめたことは言うまでもなかった。もちろん在京大使も来ておらず、私は空港貴賓室でその首脳に待っていただく間、急遽話の相手をすることとなった。また、会議2日目に安倍総理主催TICAD公式晩餐会があった。参加各国代表者に厳選された日本料理を味わっていただく機会でその席次作りは非常に気を遣うものであった。
しかし、中には急に日程を変更してその日の夜に出発する首脳が出て、プロトコール順が変わりなかなか席次が決まらないこととなった。外務省の経験豊富な職員が直前まで頭を悩まして席次を確定することができ、何とか事なきを得たのであった。

 TICADは、これまで20年の歴史を有し、国際社会のアフリカ開発フォーラムの先駆的役割を果たしてきた。今回もアフリカ側から、こうしたTICADプロセスへの日本の貢献と新たな取組を評価する声が多く寄せられた。安倍総理は開会式スピーチや記者会見の場で、アフリカへの早期訪問の意向を表明された。日本としては、今回TICADVで約束したアフリカ支援策を確実に実施していくとともに、アフリカ側のさらなる関係緊密化への期待に応えていくことが必要である。TICADが5年に1度開催されることについて、アフリカをめぐる状況の変化が激しいこともあり、もっと短い間隔で開催すべきとの意見も出た。次回のTICADをいつどこで開催するかは、今後共催者間で協議して決められていくことになると思われるが、TICADプロセスの有用性は多くの関係者が認めており、今後ともさらにより良いものをめざして実施していくことが期待される。 (2013年6月22日寄稿)