安倍総理のモンゴル訪問を終えて
駐モンゴル大使 清水武則
3月最後の週末を利用し、安倍総理がモンゴルを電撃訪問されました。 エルベグドルジ大統領、アルタンホヤグ首相、エンフボルド国家大会議議長等指導者と精力的な会談を行い、両国が、自由・民主、平和、助け合い、と言った3つの精神を共有する友邦であることを確認する一方で、戦略的パートナーシップ構築に向けた具体的な取り組みについて合意しました。特に経済面では、安倍総理は、「エルチ・イニシアティブ」という、モンゴル語のエルチ(活力)という言葉からとった、「活力ある経済のための日・モンゴル協力イニシアティブ」を発表し、モンゴル側から高い評価を得ました。
モンゴルでは、英豪系メジャーのリオ・ティント社が投資した世界でも屈指の銅・金鉱山のオユー・トルゴイ鉱山が昨年末に操業を始めたり、65億トンの埋蔵量を有するタバントルゴイ炭田(コークス炭田)の開発が検討されているなど鉱山を中心に経済が急速に発展しています。経済成長率は、一昨年は17%、昨年は12%の増でした。国家予算も今年は一昨年の倍です。一人当たりGDPも4000ドルになり、2016年には1万ドルを越えるという国際機関の予測もあります。しかし、昨年の5月に外国投資規制法が採択されて以降、急速な資源ナショナリズムが台頭し、外国投資の撤退、停止が相次ぎ、本年は投資が40%減という深刻な状況にあります。きっかけはChalcoという中国の国営企業が、ある戦略鉱床炭田の過半の支配権を握ったことでした。しかし、投資を締め付けた結果として、中国以外の外国投資も大幅に減ったわけです。今年の経済は相当の落ち込みが予想されます。皮肉にも中国以外の第三国諸国からの投資が大幅に減少し、モンゴル経済は、更なる中国経済への依存度を高めることになります。こうした紆余曲折を経ながらも、中期的にはモンゴルは世界でも有数の資源大国に成長すると考えています。
日本は1990年のモンゴルの民主化以来、モンゴルの最大ドナー国としてこの国の発展を支えてきました。そのことをモンゴル人は忘れてはいません。 東日本大震災の時には何十万人という国民から300万ドルの寄付をいただきました。280万人の人口ですから一人当たり1ドル以上の義援金をいただいたことになります。日本のODAは鉄道、発電所、通信、食料、医療等あらゆる分野に及んでいます。しかし、私が最も誇りに思っているのは日本の教育分野の支援です。 日本が建設した55校の学校で6万人の子供が学んでいます。加えて、草の根無償で実施した地方の学校の修復は200件を超えます。モンゴルの首都では人口増加に学校建設がついて行けず、未だに二部制が当たり前です。 ですから、日本の支援は高く評価されています。
私は、1977年に初めてモンゴル勤務をして以来今回が4回目のモンゴル勤務です。1989年の第2回目の時に、夢見ていたことがようやく具体化しつつあることをうれしく思っています。それは、日本の留学組の中から、この国を背負う人材が出てほしいという夢でした。最後のモンゴル勤務をすることになった今回、昨年の新政権発足で、2人の大臣が誕生しました。その内の1人は、教育大臣です。
また、次官は2人、副大臣も1人でました。モンゴルの最高学府のモンゴル国立大学の学長代行も日本留学組です。今、大学の学長選挙が行われていますが、この他に、健康医科大学、農牧業大学の学長に日本留学組が立候補しています。また、経済分野でもトップ10の企業の中に2人も留学組がいます。このように、日本がモンゴル国の人材育成を通じて、この国の発展に大きな貢献をしていることを知ってもらえれば幸甚です。 モンゴルは7月末から8月初めは、少し郊外に出ると高山植物の宝庫です。 読者の皆さん、是非モンゴルにお越しください。
(2013年4月10日寄稿)