親日新興市場・スリランカ

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駐スリランカ大使 粗 信仁

 2009年に内戦が終了してからのスリランカの経済・社会の変貌の早さには驚かされます。 2010年、11年の経済成長率は8%以上、一人当たり所得は2,877ドルになりました。減速が見込まれている今年でも中銀は6.8%の成長を予想しています。コロンボの市街では、植民地時代の病院を改装し洒落たカフェやレストランの入った新観光スポットが登場し、インド洋を望む緑地帯を前にした一等地では新しい5つ星ホテルの建設が始まりました。

経済発展の原動力の一つが東部・北部の戦後復興需要です。我が国もODAの重点として積極的に支援していますが、各種インフラの整備が急ピッチで進み、これら地方の都市の景観もまた大きく変化しています。

これと同時に、スリランカが取り戻した「平和」に敏感に反応したのが観光です。もともと史跡や自然に恵まれたスリランカには世界遺産が8つあり、治安が改善したことで、世界各地から訪れる観光客が年率30%を超す勢いで伸びました。日本からの観光客はそれを上回る勢いで、昨年は43%も増えました。

途上国のなかでは医療・教育の水準が高く、スリランカは、もともと潜在力のある国です。長く続いた内戦のため、エアポケットのような注目度の低さに甘んじていましたが、それもどうやら終わりつつあるようです。7月に発売したドル建てのスリランカ国債(10年債)10億ドルに対しては、米など世界中から10.5倍の応募がありました。格付けは決して高くないのですが、経済の勢いが評価されての人気でした。また、出足が遅れていた産業分野への海外直接投資も観光分野から製造業へと広がりを見せつつあります。

このようなスリランカ経済への世界の認知度を調べてみると、ダウ・ジョーンズ他1社の新興市場リストにはスリランカが登場しています。まだ多数派の認知というわけにはいきませんが、目下の勢いを見ていると、スリランカへの注目度はますます高まると予想されます。ちなみに、成長力に着目したシティグループの分析(Global Growth Generators)ではスリランカは、途上国中10位とされています。

同時に、スリランカは、知る人ぞ知る大の親日国です。スリランカ人と日本人の心情が似ているという声を良く聞きますが、日本ブランドへの信頼も高く、街を走る車の7割以上は日本車です。驚くのが、日本が発祥の「5S運動」が根付いていることです。全国規模のコンテストが17年続いており、「5S運動」で成功した企業が多いのは、「欧米より日本の経営手法がスリランカの社会に合っているから」とのことです。こんなお国柄から、官民ともども「日本からの企業進出は大歓迎」です。平和を取り戻したスリランカの将来に向けて、日本が果たせる役割は大きいと期待されています。 (2012年10月1日寄稿)

※本寄稿は著者の個人的見解を表明したものです。