ユニークな中規模高品質国家を目指すコスタリカ

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駐コスタリカ大使 並木 芳治

コスタリカは多種多彩な分野で世界や日本の模範となるべき優れた資質を有する国である。
コスタリカ憲政史上、女性初のチンチージャ大統領から着任時の表敬訪問で、「コスタリカは小さな国ですが、世界でもユニークな国ですので在任中は旺盛な好奇心を持たれて全国津々浦々を視察されてください。そして二国間の関係強化に向けてお互いに努めていきましょう」と激励された。確かに大統領が言われるようにコスタリカほど世界の斬新さを先取りしている国も少ない。国のイメージ作りやそのアピールに長け、中規模高品質国家を目指すコスタリカのプレゼンスを象徴する言葉や形容辞句は数尽きない。

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Photo by ROBERTO RAMOS – COSTA RICA022

平和、環境、ハイテク産業が三位一体となって見事な調和を醸し出している。既に1949年に軍隊の廃止を明記した平和憲法を制定し、平和愛好と人権尊重の先進国として非武装中立を堅持しながら国際社会において確たる地位を築いてきた。不要の軍事予算は教育、社会福祉、自然環境保護に充当し、近年ではハイテク産業の育成振興、はたまたロボット技術や宇宙開発に至るまで浸透する勢いを示している。こうした独自の国家発展パターンを遂げる姿は、あたかも21世紀の理想国家像を垣間見る思いがする。

 コスタリカの人口は僅か430万人、九州と四国を合わせた程度の国土(世界の面積の0.03%)に地球上の全動植物種の約5%が生息し、世界の蝶類の約10%、鳥類に至っては米国とカナダを合わせた種よりも多い850種が原生林で息づいている。生物多様性という言葉はコスタリカの代名詞のようなもので真に「生物の宝庫」を思わせる。

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Photo by ROBERTO RAMOS – COSTA RICA031

 コスタリカは平和愛好国家であると同時に民主主義が早くから定着した法治法制国家といってもよい。主要な分野で数値を設定して国民共通の努力目標にしているのも特異である。例えば、女性の社会進出も画期的で次回の国政選挙からは各政党の立候補者拘束名簿で男女を交互に並べながらその比率が完全に同等となるよう義務づけられている。教育費のGDP比6%論も典型で97年の憲法改正で定めている。内戦の歴史もなく他の中米諸国に比べ各分野で高評価を得ているのは、この「教育」最優先の考え方であろう。

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Photo by ROBERTO RAMOS – COSTA RICA019

98年成立の生物多様性法では自然環境保護のために森林の伐採や乱開発を禁止し、併せて国土の25%以上を国立公園や自然保護区に指定して環境破壊を防ぐ方策を採用している。他方で、自然を観光資源に活用しながらエコツーリズムを世界に先駆けて取り入れ、今日では年間200万人を超す外国人観光客で風光明媚な各地は賑わう。ビーチ優先型やグリーンエコー観察型の伝統的なツーリズムに加え、近年では高水準・低コストで付加価値の高い医療観光が脚光を浴び始め、口腔外科や肥満治療、美容整形を求めて米欧から年間5万人の治療客が訪れる。他の中南米ではあまり見られないコスタリカならではの経済効果の高い将来有望な成長産業だ。

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Photo by ROBERTO RAMOS – COSTA RICA035


 コスタリカは、「自然との共存」をスローガンに独立200周年となる2021年までに温室効果ガスの排出量を森林のCO2吸収量と相殺する「カーボン・ニュートラル」という崇高な目標に向かって国家計画を推進中だ。水力、地熱、風力による発電を重視し、再生可能エネルギーの発電比率は世界随一の93%を占める。水力や地熱発電では日本が資金や技術を提供し、太陽光パネルを利用した発電施設の竣工も間近で日本の貢献はトップクラスにある。環境に優しいエネルギーといえば国民生活に欠かせないのが自動車産業だ。日本の大手メーカー2社が中米で初となるエコカーや電気自動車を発表し大統領にも試乗して喜んでもらった。親友のカストロ環境エネルギー通信大臣によれば、今後はタクシーやバスなど公共交通手段として環境対応車を順次導入していきたい考えという。市場は小さいが日本車参入の一大商機でもある。

 コスタリカは中米諸国の中でいち早く地上デジタルテレビ放送の日本方式採用を決定し、2017年末の地デジ完全移行を目指している。大雨大洪水や地震の自然災害が発生する国では緊急警報をテレビや携帯電話で受信できる日本方式は人命救助にも役立ち経済性のみならず技術面でも優位性が高い。コスタリカ人の「新しいモノ好き」は枚挙にいとまがないが、次世代送電網の効率的な電力需要を実現するスマートグリッドやスマートシティ構想にも関心があると聞く。日本のこうしたハイテク技術がコスタリカ国民の生活向上に資することを期待したい。

 2010年は日本とコスタリカの修好75周年の佳節を迎え、昨年には秋篠宮同妃両殿下が皇族として初めてコスタリカを公式に訪問され、続いてチンチージャ大統領がアジアで最初の訪問国に日本を選ばれ公式実務訪問するなど両国間の友好協力関係を象徴するような画期的で歴史的な年となった。東日本大震災に際しては、チャリティ・イベント「アリガトウ・デー」に1万人を超す市民が集まり、被災者や日本国民への連帯の念を示して暖かい支援を頂いた。改めて感謝したい。日本のこれまでの協力に対する当然の恩返しであるという。

 中米の重要なパートナーであるコスタリカは、小国ながら平和愛好、環境保護と経済発展の両立によるグリーン成長、ハイテク産業推進など世界の模範となるべき多くの要素を具備した国で、ニューヨーク・タイムズ紙が報じたように幸福指数や環境指数が世界第1位と評価するのもあながち誇張ではないであろう。
(了)
(2012年6月25日寄稿)