欧州債務危機の中で

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欧州連合日本政府代表部大使 塩尻 孝二郎

(EUにおける議論)

EU(欧州連合)は、ギリシャの債務問題に端を発した深刻な債務危機に直面している。この危機を乗り越えるための対応策とともに、EUの進むべき方向、統合を進めるのか、どのような形で統合を進めていくのかについて、真剣な議論が、ブリュッセルを中心にEU各国で盛んに行われている。「欧州財政連合」、「欧州財政安定連合」、「欧州財政移転連合」、「複数のスピードの欧州連合」、「欧州政治連合」、「欧州連邦」、「欧州合衆国」等々の言葉が、議論の中で行き交っている。

EUの萌芽は、14世紀に遡るとされる。第二次世界大戦後、ECSC(欧州石炭鉄鋼共同体)発足(1952年)、EEC(欧州経済共同体)発足(1958年)、EC(欧州共同体)発足(1967年)、そして1993年にEUが発足した。通貨については、EMS(経済通貨制度)導入(1979年)を経て、単一通貨ユーロ導入(1999年)へと、深化してきた。加盟国数は、ECSC当時6ヵ国であったが、その後徐々に増え、東西冷戦終焉後は旧ソ連圏の12ヵ国が加盟し、今や27ヵ国と拡大した。来年にはクロアチアが加わり、28ヵ国になることが予定されている。

こうしたこれまでの深化、拡大の道のりも平坦なものではなく、EUは、歳月をかけ幾多の試練、困難を乗り越えてきた。その中で、これまでも統合のあり方について幾度となく議論がなされているが、今回は特に切迫感をもって議論されている。EU統合の「深化」の議論に拍車がかかっている。


(EUの原動力)

欧州委員会、欧州議会が所在しているブリュッセルには、米国ワシントンと並んで有力シンクタンクが多くあり、また、多数のロビイストが活動している。欧州委員会には、3万4千人の所謂ユーロクラット、欧州議会には、754人の議員、その議員をサポートする6千人のスタッフがいる。EU加盟27カ国は、それぞれ、大きな陣容を擁する常駐代表部をブリュッセルに置いている。また、EUの首脳会議、閣僚会議が頻繁に開催され、さらにいろいろなレベルで、様々な分野にわたり多数の会議が行われている。

そうした中で、凌ぎを削って議論し、答えを探し求め、一緒に何とか前に進もうとしている。それが、これまでのEUの発信力、影響力、付加価値をつける力に繋がっていると痛感する。今回も、深刻な危機に直面し、これを乗り越え、さらに前に進んでいくために、懸命に凌ぎを削り、知恵を出し合っている。
「危機が大きな分だけ統合の危機を克服した後の統合の度合いも大きいものになる」というEU関係者の言葉が印象に残る。



(日本とEU)

日本は、現在、EUと経済連携協定(EPA)および政治協定を結ぶための交渉に入る準備を行っている。日本とEUは、民主主義、基本的人権の尊重、法の支配等の基本的価値を共有し、「豊かな、競争力のある、持続可能な、活力のある社会の構築」をそれぞれが共通して目指している。経済面では、財政の健全化、経済の活性化、少子高齢化、産業競争力の強化、新興国の台頭、資源エネルギーの安全保障といった課題に、政治面では、地域の平和・安定、民主化の推進・定着、核・大量破壊兵器の不拡散、テロの根絶といった共通の課題に取り組んでいる。

日本とEUは、世界におけるその重み、影響力、果たすべき責任にかんがみて、その関係をさらに強化することの必要性が訴えられてから久しい。日本とEUそれぞれが、立ち向かっている課題を懸命に乗り越え、前に進もうとしているこの時期こそ、日本とEUの関係をさらに強い関係にする好機である。日本とEUがEPAおよび政治協定を結び、さらに高い次元に関係を昇華する好機を逃してはならない。
※本稿は筆者の個人的見解です。 (2012年3月5日寄稿)

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