ノーベル平和賞を受賞した西アフリカの女性リベリア大統領、再選との今後の課題

nikaitaishi.jpg
駐ガーナ大使 二階 尚人

今年のノーベル平和賞を3人の女性が受賞することとなりました。そのうち2名が西アフリカのリベリアのエレン・ジョンソン・サーリーフ大統領と女性平和運動活動家のリーマ・ボウイーさんであります。リベリアは14年にわたる内戦が2003年に終結し、ようやく平和が訪れた国です。内戦を通じ、人口約400万人のうち23万人あまりの国民が亡くなり、大量の難民が生じ、経済社会が疲弊し、一人当たり国民所得も200ドル以下に減りました。内戦が終了後2005年に大統領選挙が実施され、アフリカ最初の女性民選大統領としてジョンソン・サーリーフ大統領が選出されました。


首都モンロビアの風景
首都モンロビアの風景


同大統領のもとでリベリアは国際社会の強力な支援を受けて平和構築、民主化、国家再建の道に努力してきました。私兵化していた軍、警察その他の組織が解散され、治安維持の任を担う当初15,000人規模の国連のリベリア・ミッション(UNMIL)の支援を受けて基本的人権、民主主義にのっとった新たな軍、警察の組織化、治安改革が行われました。経済社会の復興も国際社会の協力を得て、インフラ、学校、病院等の建て直し、資源分野等の産業の復興、開発が進められました。わが国も同国に対して、内戦中の人道支援、緊急支援、そしてその後、保健、インフラを中心に国家再建への支援を行ってきました。


選挙期間中警戒中のUNMIIL部隊隊員(写真UNMILより)
選挙期間中警戒中のUNMIIL部隊隊員
(写真UNMILより)

 


 その中で今年10月に大統領選挙、上下両院議会選挙が行われました。大統領の任期は6年で、国民の直接選挙制です。再選を図るジョンソン・サーリーフ大統領を含め16の候補者が選挙戦に臨みました。前回2005年の選挙は国連のリベリア・ミッションが中心となって準備したものでしたが、今回の選挙はリベリア人が内戦後自ら実施する初の選挙でした。現在8000人規模の国連リベリア・ミッションも黒子に徹しました。そして国際社会は選挙が民主的、平和裏に行われ、またその結果が同様に受け入れられるかを注目しました。選挙運動は与党の「統一党」(UP)、第一野党の「民主変革会議」(CDC)をはじめ活発に行われ、大きな混乱もみられませんでした。選挙はリベリア選挙管理委員会が準備を進めましたが、リベリアの将来にとっての今回の選挙の重要性にかんがみ国際社会も積極的に協力を行いました。わが国も投票箱供与をはじめ民主的な選挙が実施されるよう国連を通じ500万ドルの協力を行っております。


 8日の選挙当日首都モンロビアは、雨季のためもあり、雨の中でしたが、多くの人々が各投票所に向き、なかには4時間も並んで投票を行った人もあったそうです。リベリア全国で多くの有権者が平和裏に投票を行いました。多くの国、国連、アフリカ連合(AU)、西アフリカ経済共同体(ECOWAS)など国際機関、NGOの人が選挙が民主的に行われるかを見守りました。リベリアを兼轄している在ガーナの日本大使館館員も出張し、監視団に加わり、4WDで投票所を回りました。選挙および選挙開票はいずれも基本的に平和裏、民主的に行われました。その結果、ジョンソン・サーリーフが44%、次にCDCのタブマン候補が33%等それぞれ票を獲得しました。

いずれの候補者も半数以上の票を確保できなかったため、リベリアの憲法に従い、11月8日に上位2者間で決選投票が実施することが決定されました。しかしその後CDCのタブマン候補が選挙開票過程での不正を訴え、決選投票に参加しないことを表明し、急遽雲行きが怪しくなってきたのです。これに対し、アフリカ諸国などより、第一回選挙は基本的に公正に行われたとの認識からタブマン候補に態度を翻意するよう働きかけがなされましたが、タブマン候補は決戦投票をボイコットするよう支持者に呼びかけを続けました。その過程で与党、野党CDC支持者との間で緊張が高まり、野党支持の放送局のいくつかが警察、司法当局により閉鎖され、また決選投票前日には野党支持者のデモと警察との間で衝突がおき、警察側が発砲し死傷者がでるという事態に至りました。

与党の選挙運動の看板
与党の選挙運動の看板

 

選挙期間中の集会の模様)(写真UNMILより
選挙期間中の集会の模様)(写真UNMILより

 


 幸い決戦投票当日は平穏かつ民主的に投票が実施されました。タブマン候補がボイコットを呼びかけたため、投票率は38.6%と比較的低調なものとなりましたが、投票の結果ジョンソン・サーリーフ大統領の再選が決定されました。
 明年1月中旬大統領就任式が行われます。ジョンソン・サーリーフ大統領が引き続き民主主義に則りリベリアの復興、開発過程を前進させることが期待されます。同時に彼女は大きなチャレンジに応えていく必要があります。それは今回の選挙の過程で改めて明らかになった国民相互間に存在する強い不信感、そしてその背景にある内戦の傷の深さにこれまで以上に対応していく必要性です。大統領にとりリベリア国民間の和解を進め、国民の統一を図っていくことが今後一層重要な課題となるでしょう。またそれを進める上でもリベリアの経済社会の復興、貧困削減、発展を確保していくことが必要です。

決戦投票をボイコットしたCDCを多くの若年層が支持しているといわれています。これまでの復興過程は、資源分野などでの投資の増大がみられたものの、若年層に対する具体的な仕事の機会につながるものではなかったといわれています。このためジョンソン・サーリーフ大統領としては今後これまで以上に雇用機会増大に向けて努力していくことになると思います。国連開発計画の2011年版「人間開発報告」によれば、リベリアの人間開発指数は世界187カ国中182位に留まっています。このような中で、わが国を含め国際社会はこのようなリベリアの努力を今後とも支援していく必要があると思われます。11月わが国の同国に対する食糧援助交換公文署名のためモンロビアを訪問し、お目にかかった際も、ジョンソン・サーリーフ大統領は、リベリアの国づくり、和解、対話の進展に向けた力強い決意を表明するとともに、わが国の協力に対する強い期待を述べていました。

 なお、本稿は筆者の個人的見解であることを付け加えます。
(2011年12月5日寄稿)