西アフリカの援助の現場から

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ダカール中心街にて
駐セネガル大使 深田 博史

その1. JICAの青年協力隊

先般、同じ西アフリカのニジェール、ブルキナ・ファソで活動していた海外青年協力隊員が、治安悪化の理由からセネガルに配置換えとなり、これで当地で活動する海外青年協力隊員の数は現時点で103名を数え、遂に世界で一番多く隊員が派遣されている国となりました。これはセネガルが日本の対アフリカ経済協力の最重点国のひとつであるという事情の他に、セネガルの国民が温厚・親日的で、また、国が安定していて、治安も良好であるといったことが背景にあると思いますが、セネガルの日本大使としては嬉しい限りです!

彼らとは、着任直後や離任の前に大使館に挨拶に来てもらったり、年に4回に分けてのダカールでの中間報告会の際、大使公邸に招いて夕食を振る舞うなど直接接する機会が何度となくありますが、私が彼らから最も感銘を受けたのは、離任前に挨拶に来てくれた隊員諸君の目が皆生き生きと輝いていることでした!

ダカールのような大都市で活動する隊員もいますが、殆どの隊員は地方の都市や農村部で、生活面でも気候面でも非常に厳しい環境のもとで活動しています。それにも拘らず、彼らの目が生き生きとしているのは、厳しい環境も厭わない彼らの持ち前のバイタリティに加え、やはり2年間の活動をやり遂げた充実感がその目に表れているのだと思います。そして、皆着任時よりも一段とたくましく成長したように感じます。

彼らの活動をすべて紹介することは出来ませんが、少しだけ例を挙げると、サラリーマンを辞めて協力隊員に志願したある男性隊員は、野菜作りなどしたこともない僻地の村で、現地語を覚えながら住民とコミュニケーションを図り、徐々に野菜作りに関心を持たせて覚えさせ、そしてそれが定着すると、今度は違う村に行って同じ事を繰り返す、という活動を2年間続けました。また、ある女性隊員は、ダカールで行われた青年協力隊員(セネガル)派遣30周年の記念式典で、現地語のひとつであるウォロフ語で原稿も見ないで堂々たるスピーチを行い、出席したセネガル人を驚かせました。 決して生半可ではなく、途上国のコミュニティーに溶け込み、一生懸命努力している彼らの姿がそこにあります!

正直なところ、私自身、外務本省で経済協力の仕事に携わっていた時は、海外青年協力隊の意義について「本当に途上国の役に立っているのだろうか」と懐疑的に見ているところがありました。しかし、今や自分の不明を恥じています! 隊員の活動もさることながら、私が嬉しかったのは、日本の若者がますます内向き傾向を強めている昨今にあって、このような逞しくも魅力的な日本の青年達がいるということを直に確認することが出来たことでした。このような若者を育ててくれる、それだけでも、JICAの海外青年協力隊事業は存在意義がある今では本当にそう思います。

問題なのは、彼らの多くが帰国後、職探しに苦労していることです。職が見つからず、JICAや外務省、地方自治体の所謂「短期契約職員」として何とか「食いつないでいる」諸君もかなりいます。私は彼らこそ社会の様々な方面で活躍できる潜在能力を秘めていると思います。それにも拘らず、そんな彼らを積極的に評価して、採用しようとする企業があまりにも少ない!私は日本の企業こそ内向きなのではないか-そう思わずにはいられません・・・。


その2. マラリア予防として

こちらは雨季も終わりに近づき、海風も吹き寄せるようになって、これからは夕方、庭ですごすのが心地よい時期を迎えられると期待しています。
ただ、気をつけないといけないのは、雨季の間に水溜りで繁殖した蚊によってマラリアにかかる危険性が高まるのがこの9月から12月の間で、特に11月は一気に患者数が増えます。もっともダカール地域を例に取ると、これら患者の多くはダカール近郊の治水が行き届いていない、衛生環境が悪い(雨季に水が溜まり易い)地域に住む住民で、ダカール中心部でのマラリア罹患率はここ数年著しく改善されており、少なくとも過去3年の間に館員・家族でマラリアに罹った者はいません。しかし油断は禁物です。
実は、こちらに赴任する際、ベープマットや蚊を寄せ付けないスプレーなどを大量に持ってきたのですが、どういう訳かこちらの蚊には殆どきき目が無いことが判明し(!)、現在では専ら蚊用の殺虫スプレーを常に手元に置き、蚊と見れば、「プシューッ」と吹きかけています。これは効果てき面です。ただ、虫を見るとやたらとスプレーで殺したくなるのはちょっと危ない兆候かもしれません(笑)。

洪水対策を含めたダカール近郊の衛生環境の改善は喫緊の課題であると私も認識しており、日本の経済協力においてもこの分野での協力を強化していきたいと思っているところですが、その一環として、日本の無償資金協力による洪水対策用の機材(ポンプ、発動機、輸送用トラックなど)が8月に到着し、これらの機材は既にダカール近郊で活用されており、大いに効果を上げています。


ダカール中心街001.jpgダカール中心街007.jpgダカール中心街008.jpgダカール市内

また、同じ協力プロジェクトによる機材の第2弾が先般到着し、その引渡し式が大統領官邸で、ワッド大統領及び(たまたま閣議が官邸で開かれていたこともあり)全閣僚参加のもとで行われました。その際の大統領のスピーチの一端を紹介しておきます。

このような強力なポンプをかってセネガルは手に入れたことはない。
(大使が述べられた通り)日本からいただいたポンプは既に稼動しており、そのお陰で滞留していた水を排水することができた。
絶え間なくセネガルに対して寄せられる日本の支援に対し、自分の深い感謝の念を上手く表現する言葉が見つからないほど感謝している。
先般の災害によって日本は甚大な被害を受け、経済的にも大きな打撃を受けている。それにも拘わらず、こうしてセネガル及びセネガル人のことを考えていただいていることに対し、自分が感謝の極みにいることをすべての日本の人々にお伝えいただきたい。こうした(日本の)人々の意思、支えがなければ、このような支援は実現されなかったと思う。だからこそ、私の感謝の念を日本の政府を超えて、すべての日本国民にお伝えしたい。
一国の援助のために、大統領がその国の大使を脇においてこのようなスピーチをするというのは極めて異例のことであり、また、この引渡し式の様子は、当日夜の国営TVのニュース番組でトップ・ニュースとして7分間に渡り伝えられました。

このTV報道のお陰で、翌日は土曜の休みだったのですが、買い物に出かけた市場の店員、路上を歩く人々、ゴルフ場のキャディ、カフェのマスターなどあらゆる人々から握手を求められ、日本への感謝の言葉が伝えられました。

日本の援助について日本の新聞はあまり取り上げてくれませんが、当地で日本の援助がどれだけ国民の間に浸透し、どれだけ感謝されているか、その一端をお伝えできれば幸いです。

※本文に記載している内容は個人的見解に基づくものです。

(2011年11月11日寄稿)