日本の近隣国との関係

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元国際情報局長、元駐イスラエル大使、元国際テロ対策担当大使 茂田 宏

国際情勢に関するをブログ「国際情報センター」を主宰。

日本の近隣国の国際法を含むルールへの姿勢〔領土問題を中心として〕

領土問題は国家の基本に関する問題であり、法と歴史に基づき正当な主張はこれを堅持していくべきである。安易な妥協は我々の前の世代、後の世代に対する責任を考えれば出来ない。 その上、わが国と領土問題を抱えている国々のしている主張は、歴史や国際法を含むルールに照らし、根拠薄弱といわざるを得ない。わが国の主張とこれらの国の主張は国際法を含むルールに照らして、等価値のものではない。そのことを認識することが必要であると考えているので、近隣諸国の国際法を含むルールへの姿勢についての私の感想を述べておきたい。

  • 1.  ロシア外務省は9月8日、玄葉外務大臣がロシアには北方領土を領有する『法的根拠』がないと述べたのに対し、遺憾の意を表明するとともに、「南クリル諸島は第2次大戦の結果としてわが国の一部になった。国際法的には、ヤルタ協定、ポツダム宣言、サンフランシスコ条約及び国連憲章第107条がある」と述べた。
  • このロシア外務省声明は、ロシアが北方領土問題について解決済みというブレジネフ時代の最強硬姿勢に立ち戻ったことを示している。 そもそも戦争の結果と言うものは平和条約により最終的に確定されるものである。そんなことは常識中の常識である。ヴェルサイユ条約の締結がないのに、第1次大戦の結果が決まるというようなことはない。第2次大戦についても同様である。日ロ間には、1945年から65年以上経つのに平和条約が結ばれていない。そしてその理由が両国間に領土についての係争があるからに他ならないことは、厳然たる事実である。 そういうことを無視して、第2次大戦の結果が出ているかのような言説は常識に反する主張である。
  • ソ連、ロシアもこの主張があまりに常識外れであるとの意識があるので、日ロ国境には未確定な部分があると述べたことがあるし、日ロ平和条約交渉の必要性を認めてきた。
  • ヤルタ協定について言うと、これは米英ソの首脳が、ソ連が対日参戦をする条件として秘密裏に、戦後処理の中で千島のソ連への引渡しと南樺太のソ連への返還を行うことを約束したものである。これは領土不拡大の宣言をしておきながら、日本の領土をソ連に併合させることを約束したものである。ある国の領土をその国の同意なしに処分する行為は、国際法に反する行為である。たとえば日米中が、ロシアの沿海州は1860年の北京条約と言う不平等条約でロシアに割譲されたものであるから、中国に返還すると約束した場合、ロシアはそれを認めるであろうか。不法な取り決めとして断罪するに決まっている。ヤルタ協定について、日本は当事国ではないから拘束されないという議論を日本側はして来たが、この協定の問題は上記のようにより根本的なところにある。 その上、戦後、冷戦が始まる中で、米国はヤルタ協定を実施することを拒否した。サンフランシスコ条約批准の際に、ダレス国務長官は上院で、米国はヤルタ協定を正式に拒否すると述べている。ソ連からすると、これは米国の裏切り行為に他ならない。しかしその結果として、ヤルタ協定ガ実施されなかったのは事実である。 ポツダム宣言について言うと、日本の領土は本州、北海道、九州、四国と「われら〔注:連合国〕の決定する諸小島」とするとされているが、主として冷戦が始まったがゆえに、連合国のここに言う決定は明確な形でなされなかったし、今なおなされていない。それがないから、領土問題があるのである。
  • サンフランシスコ条約について言うと、グロムイコはこの条約を採択した会議で、南樺太・千島を日本に放棄させるだけで、日本に南樺太、千島へのソ連の主権を認める義務を課していないと論難し、署名をせずに帰国した。南樺太、千島の問題が未解決であることをグロムイコは自身認めている。これら領土の帰属は未定である。ロシアは自分ガ署名していない条約を援用する権利はないし、更にサンフランシスコ条約は、署名しない国には条約から出てくる利益を与えないと明記している。日本の領土放棄に伴う利益も、ソ連・ロシアは主張できない。ロシアの南樺太、千島領有も国際法上の根拠を欠いている。
  • 国連憲章107条はいわゆる旧敵国条項であるが、その文言からして、ソ連の北方領土併合を合法化する効果などもちえない。 戦前、ロシア革命後、日ソは1925年に日ソ関係の基本法則に関する条約を締結し、国交正常化を行った。このとき、ソ連は南樺太を日本に割譲した日露戦争後のポーツマス条約について、否認はしないとしつつ、それについての政治的責任を負わないとの声明を出した。その後、スターリン、モロトフはポーツマス条約を否認する主張を行い、日本に南樺太を返還するように要求した。
  • さらに、平和裏の交渉で出来た千島・樺太交換条約で合法的に日本に帰属していた千島の返還を主張し続けた。これがヤルタ協定につながり、現在の北方領土問題につながっている。
  •  要するに条約を無視した要求を行い、なんら恥じなかった。それで終戦後、ドサクサにまぎれて千島を占領して、今に至っている。 ソ連崩壊後ロシアが成立し、国際法を尊重する国になったかと思ったが、このロシアもスターリン外交の戦果を保持することを対日外交の眼目としている。日本は北方領土について、国際法上日本に属することを主張して来たが、それを馬耳東風と聞き流し、今日に至っている。
  • ソ連は1946年2月に、樺太、千島、北方領土を併合する最高会議幹部会令を発出して、日本の領土を自国に併合した。戦争中に敵国の領土を占領することはあるし、そういう軍事占領は合法である。しかしそれを平和条約を待たずに併合するのは明らかに国際法違反である。赤軍は戦時中ベルリンを占領したが、併合などしていない。併合はあるとすれば、平和条約を通じてでしかありえない。
  •  私はこういう国に対しては、サンフランシスコ条約2条C(樺太・千島放棄条項)を度外視する主張を、日本としても展開していくことが最も適切である気さえする。
  • 日ロ間の領土問題は、よく言われるように4島か2島かの問題などではない。北方領土だけの問題でもない。4島の日本帰属を決めると共に、ロシアが法的な根拠なく占拠している千島、南樺太の帰属を決める問題である。
  • ロシアは国際法違反行為をすること、又はその違法行為の結果を保持することに、何のためらいも持たない国である。
  • 2.  中国政府は2011年版外交白書「中国外交 2011」に「釣魚島(注、:尖閣列島)は中国固有の領土であり、中国は争いのない主権を有している。日本側による中国の漁民と漁船に対する拘束や調査、司法措置は違法で無効であり、謝罪と賠償が必要である」と記述していると報じられている。
  • 9月22日、程永華駐日中国大使は、尖閣諸島付近で海洋活動を活発化している中国の動きについて、「釣魚島は中国の領土なので、中国の関係機関が色々と活動している。海洋進出の問題ではない」と述べたとされている。
  •  中国は過去において、尖閣諸島が日本領土であることを何度も認めている。1960年代の中国の公式地図にも日本領と記している。
  • 中国の尖閣諸島への領有権主張は、いわゆるエストッペル(禁反言:既に言ったことに矛盾する主張は認められないとの法の一般原則)だけでさえ認められないことである。然るに、そういうことは全く無視して、尖閣に対する領有権主張を、何の恥じらいもなく主張し続けている。
  •  北方領土問題については、1964年、毛沢東が佐々木更三社会党委員長〔当時〕に、ソ連は千島を日本に返すべしと述べた。その後、何度もソ連帝国主義批判のなかで、ソ連の千島占領はソ連の拡張主義の表れであると主張してきた。
  • 然るに昨年のメドヴェージェフ訪中の際には、核心的利益の相互支持は中露戦略的パートーナー関係の重要な一部であるとして、これまでの立場を変え、ロシアの北方領土に対する主張を支持する姿勢を明らかにした。
  •  中国は前言を尊重しない国であると断じざるを得ない。
  • 日中関係を「戦略的互恵」にするとの共同声明での文言や、日中平和友好条約にある「覇権反対条項」を、中国が尊重すると考えるのは間違っているだろうし、それを対中政策の基本におくことは間違いにつながるだろう。
  •  要するに、その時々の都合で中国は前言や条約の規定をいつでも平気で反故にする、あるいは反故にするに等しい主張をする国である。
  • 3. 中露の今の政権は、国内でも法の支配からは程遠い政治をしている。国際的な場で、同じ傾向を示すのはある意味で当然であろうかとも思われる。
  • 韓国は民主化された国で、法の支配もそれなりに確立している。
  • しかるに竹島については、日本が国際司法裁判所への提訴を求めても応じず、竹島は日本の朝鮮侵略の第1歩であったとの事実に裏付けられない議論を振り回している。
  • 韓国はサンフランシスコ講和条約で、日本の領域から外される地域に竹島を入れるように米に要求した。しかし米は調査後、竹島は日本領土であるとした。このような経緯、歴史を全く無視している。
  • 当時、米は朝鮮戦争中であったこともあり、李承晩政権に極めて好意的であった。韓国はサンフランシスコ条約に戦勝国として署名したいという要望を米にした。ダレスはそれに好意的な配慮をしようとまでした。英がいくらなんでもそれはないだろうと主張してそうはならなかった。そのときに韓国は、波浪島という島も自国領にすることを要求したが、米が調べて見たら、そんな島はどこにもなかった。
  • 韓国との関係では、朴大統領時代に金大中拉致事件があった。主権侵害ではないかと抗議したら、35年間主権を侵害しておきながら、何をいうのかと反論してきた。
  • 歴史問題を理由に、自分の国際法違反を正当化しようとする行為であった。竹島についても、おなじ傾向がある。
  • 4.  北朝鮮の国際法無視については、もう論じる必要もない。
  • 5.  日本は、国際的なルールや法を尊重しない諸国に囲まれている。そのことを今一度、認識することが必要である。
  • 憲法前文にいう『諸国民の公正と信義』は、ここでは存在しないのではないかと考えざるを得ない。
  •  私はもちろん近隣諸国との関係の改善を切望している。しかし前に言ったことを翻して恥じないことや、国際法やルールを無視してくることに対しては、厳しく対応していくことが必要であり、それが東アジアの情勢の健全化に役立つと信じている。
  • また、こういうルールを尊重しない国に対しては、力のバランスをわが方に不利なように変えさせてはならないし、変えさせないことが平和を維持することになると考えている。
  • 東アジア共同体を共通の価値観ではなくとも、ルールに基づくものとして構築しうるのではないかとの議論があるが、日本の近隣諸国には未だルール尊重の気持ちに欠けるところがある。

(9月24日寄稿)

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