習近平とはどんな人物か(書評をかねて)
元駐中国大使 国広道彦
明年秋の第18回中国共産党大会で中国の指導部が交替する。トップの胡錦濤主席の後任には、党序列6位昨年秋の三中全会で党軍事委員会副主席に選任された習近平国家副主席が選ばれるであろうと言うことがほぼ確実視されている。しかし、彼の人物については、美人歌手彭麗媛の夫であると言うことは別として、余り知られていない。
私は昨秋以来習近平氏についての情報を集めようとしたが、得られなかった。彼が福建省長をしていたとき、谷野大使が全人代の期間中公邸で昼食に招いたら、大変気さくに話をし、同省に進出している日本企業のことなどメモも見ずに流暢に語ったということを聞いたことはあった。また新聞報道などからみて、鷹揚な人柄で調整型の方タイプかな、また長老などのとりなしも上手いだろうという印象を受けていた。
ところが、2009年2月メキシコ訪問の際、在留華人を前に「腹いっぱいになって、やることのない外国人がわれわれの欠点をあれこれあげつらっている。中国は革命も輸出していないし、飢餓も貧困も輸出していない。トラブルを起こすようなことは何もしていない。これ以上いいことがあるだろうか。」としゃべったと言う報道が伝わった。このような反国際協調的な考えの持ち主が次の中国の指導者になったらどうなるのだろうかと言う懸念を感じた。
他方、半年くらい前のthe International Herald Tribuneに、彼は父仲勲が文革で14年間糾弾投獄されていたために多難な少年時代を過ごし、7年間の下放時代を過ごしたが、その間農民と親しく交流し、農民生活の苦しさを身を持って体験した。彼は太子党ではあるが並のプリンスではないと言う記事を読んだことがある。
胡錦濤も副主席時代に余り多くを語らなかった。しかし、胡耀邦の下で日本重視の考えを固めていたであろうことは察しられた。これに比べて習金平氏を知る材料は誠に少ない。
ところが、中国、台湾、香港を駆け回って、習近平氏について調査し、雑誌「サピオ」に一年間書き続けたジャーナリスト茅沢勤(ペンネーム)がいた。それをまとめて、「習近平の正体」と言う本が小学館から出版されていたのを発見した。暴露もののような表題だが内容はまじめなもので、興味深い。
内容を余り詳細に紹介すると著作権違反になるから、著者の結論的な部分をいくつか説明する。
第一に,彼は「心底からの共産主義者である」。典型的な「共産党人」である。「われわれ共産党人とって、民衆は衣食を与えてくれる父母であり、全身全霊で人民に仕えることを忘れてはなりません。党と政府の一切の方針と政策は、人民大衆の利益に符合するかどうかを最高の基準として決めねばなりません」と言っている。
第二に、集団主義精神が中華民族の結集力であると言う信念を持ち、「集団主義が彼の政治手法でもある。他方、鷹揚な性格が彼の抱擁力になっている」。
第三に、彼は北京にいてブルジョア腐敗分子として糾弾されるより下放の道を選んだのだが、そこでの雑穀をすすった極貧生活が彼の政治信条を作った。8回も申請書を提出してようやく「青年共産党」に入党を認められたのだが、地方の上司の推薦で精華大学に入学。
第四に、現場、社会の底辺重視である。「何事も現場や民衆の中にこそ真実がある」と言う持論である。大卒後党中央軍事委員会弁公庁に配属され、軍事委秘書長をかねていた耿颷副総理の秘書に任命されたが、3年後に自ら希望して下放先の陝西省に戻った。これから24年間地方政治で過ごすことになるが、それが彼の政治的運命を大きく変えた。
第五に、習近平氏にとって幸運だったことは少年時代や地方勤務から人脈に恵まれたことである。上海党書記になるに当たって裏で働いた曾慶紅は子供時代からの友人である。父仲勲の中央人脈も勿論ある。
第六に、政治とカネの問題については慎重にやっている。彼が福建省長になる前の年「遠華事件」という大腐敗事件が起きたが彼に累が及ぶことはなかった。兄弟にはとかくの噂があるが彼は「政治の道に入ったら、財をなすことを考えてはなりません」と言っている。
習近平政権とはどのような性格の政権になるだろうか。私は胡錦濤の親民政策は引き継がれるだろうが、民主化への前進は期待できず、共産党体制の引き締めが強化されるのではないかと言う気がしていたが、この本を読んだ印象も同じである。
私は昨秋以来習近平氏についての情報を集めようとしたが、得られなかった。彼が福建省長をしていたとき、谷野大使が全人代の期間中公邸で昼食に招いたら、大変気さくに話をし、同省に進出している日本企業のことなどメモも見ずに流暢に語ったということを聞いたことはあった。また新聞報道などからみて、鷹揚な人柄で調整型の方タイプかな、また長老などのとりなしも上手いだろうという印象を受けていた。
ところが、2009年2月メキシコ訪問の際、在留華人を前に「腹いっぱいになって、やることのない外国人がわれわれの欠点をあれこれあげつらっている。中国は革命も輸出していないし、飢餓も貧困も輸出していない。トラブルを起こすようなことは何もしていない。これ以上いいことがあるだろうか。」としゃべったと言う報道が伝わった。このような反国際協調的な考えの持ち主が次の中国の指導者になったらどうなるのだろうかと言う懸念を感じた。
他方、半年くらい前のthe International Herald Tribuneに、彼は父仲勲が文革で14年間糾弾投獄されていたために多難な少年時代を過ごし、7年間の下放時代を過ごしたが、その間農民と親しく交流し、農民生活の苦しさを身を持って体験した。彼は太子党ではあるが並のプリンスではないと言う記事を読んだことがある。
胡錦濤も副主席時代に余り多くを語らなかった。しかし、胡耀邦の下で日本重視の考えを固めていたであろうことは察しられた。これに比べて習金平氏を知る材料は誠に少ない。
ところが、中国、台湾、香港を駆け回って、習近平氏について調査し、雑誌「サピオ」に一年間書き続けたジャーナリスト茅沢勤(ペンネーム)がいた。それをまとめて、「習近平の正体」と言う本が小学館から出版されていたのを発見した。暴露もののような表題だが内容はまじめなもので、興味深い。
内容を余り詳細に紹介すると著作権違反になるから、著者の結論的な部分をいくつか説明する。
第一に,彼は「心底からの共産主義者である」。典型的な「共産党人」である。「われわれ共産党人とって、民衆は衣食を与えてくれる父母であり、全身全霊で人民に仕えることを忘れてはなりません。党と政府の一切の方針と政策は、人民大衆の利益に符合するかどうかを最高の基準として決めねばなりません」と言っている。
第二に、集団主義精神が中華民族の結集力であると言う信念を持ち、「集団主義が彼の政治手法でもある。他方、鷹揚な性格が彼の抱擁力になっている」。
第三に、彼は北京にいてブルジョア腐敗分子として糾弾されるより下放の道を選んだのだが、そこでの雑穀をすすった極貧生活が彼の政治信条を作った。8回も申請書を提出してようやく「青年共産党」に入党を認められたのだが、地方の上司の推薦で精華大学に入学。
第四に、現場、社会の底辺重視である。「何事も現場や民衆の中にこそ真実がある」と言う持論である。大卒後党中央軍事委員会弁公庁に配属され、軍事委秘書長をかねていた耿颷副総理の秘書に任命されたが、3年後に自ら希望して下放先の陝西省に戻った。これから24年間地方政治で過ごすことになるが、それが彼の政治的運命を大きく変えた。
第五に、習近平氏にとって幸運だったことは少年時代や地方勤務から人脈に恵まれたことである。上海党書記になるに当たって裏で働いた曾慶紅は子供時代からの友人である。父仲勲の中央人脈も勿論ある。
第六に、政治とカネの問題については慎重にやっている。彼が福建省長になる前の年「遠華事件」という大腐敗事件が起きたが彼に累が及ぶことはなかった。兄弟にはとかくの噂があるが彼は「政治の道に入ったら、財をなすことを考えてはなりません」と言っている。
習近平政権とはどのような性格の政権になるだろうか。私は胡錦濤の親民政策は引き継がれるだろうが、民主化への前進は期待できず、共産党体制の引き締めが強化されるのではないかと言う気がしていたが、この本を読んだ印象も同じである。