東日本大震災、外国からの支援に感謝を忘れずに

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前駐モロッコ大使
元国連工業開発機関(UNIDO)事務局次長
広瀬晴子

未曾有の大震災、大津波、それに続く福島原発の事故から一月が過ぎ、東北の惨状は日々が経つにつれますますその悲惨さ、長引く避難所での不自由な生活、なかなか先の見えない福島原発の事故の収束と放射能汚染の影響等々、胸の塞がれる思いである。一方で、そのような中でも前向きに生きようとしている人たち、自衛隊、警察・消防そして東電関係者の第一線で日々懸命に働いている方達、多くのボランティア若者達等の奮闘振りには目覚しいものがある。敬服すると共に、この力で皆で頑張れば、日本は大丈夫と明るい気持ちにさせられる。

今回の大事故は現代の日本の経済発展に伴い物資に恵まれ、快適で豊かな暮らしをしてきた我々に様々な苦難を与え、色々と考えさせられることがあった。
1.自然の猛威の前に人間の万全を期したはずの対策はなすすべもなかったこと
  (防潮壁しかり、原発の安全装置しかり)
2.今後の日本のエネルギー政策をどうすべきなのか、原子力発電はどうすべきなのか?
3.多くの国から支援が来ると共に原発のニュースは世界を駆け巡り放射能の脅威を
  与えたこと
4.今後の復興はどうあるべきか、思い切った発想の転換が必要なのでは?
  どれも難題であるが、ここでは3に焦点をあてて考えたい。私にはどうも世界の中での
  日本という観点での報道が少ないように思えた。これは我々の意識にもよるもの
  だろうが…

外国からのお見舞い、支援は震災・津波の直後から続々と集まり、神戸の震災の時を遥かに上回り、我々の想像を遥かに超えた規模で140カ国を超える国からの支援、応援が集まっている。各国の支援は物資、義援金、救援チーム派遣の提供等様々で、国別リストと概略は外務省のホームページに出ているが、それを少し詳しく見てみると、先進国、近隣のアジアの国だけでなく、あまり目立たず報道もされていない国々、例えばアフリカの国、南アやボツワナ、ナミビアから、貧しいLDCのタンザニアやルワンダ等の国、スーダンのように紛争に苦しむ国からのものが沢山あるのに驚かされる。結構な額(8千万円とか8百万円)の義援金に、口々に日本にはいつもお世話になっているからこんなときには恩返ししたいという心のこもったメッセージをそえて。これらは、日本が今までに、やった、やったとあまり宣伝はしないものの地道な経済協力を続けていること、世界各地の大災害の折にはいち早く応援に駆けつけて支援してきていることへの感謝のあらわれともいえよう。世の中、世界規模でもちつもたれつ、友人たちのありがたさに感謝すると共に、このことを忘れないようにしなくてはと思う。

また、原発の事故の処理が中々収束しないと見てアメリカ、フランス等からの応援がサルコジ大統領やクリントン国務長官自ら來日し、日本政府に支援を申し出、専門家を送ってきている。彼らのフットワークの良さに感心すると共に、まさに日本の原発事故の行方が他の国、特に原発に頼る割合の強い国にとっては大変大きな影響を持っている現われといえよう。すでにドイツなどのように、グリーン・パーティーが躍進、原発をやめて自然エネルギーの開発に的を絞ることに決定した国もあり、大きな政治問題となる可能性もあるので関心が高いわけである。
それらの事柄に対して日本の報道振りはどうも分かりにくく、海外での心配をあおったり、風評被害の原因にもなっていると思われる。事実に基づいた偏らない論理的な説明と、今後の可能性をはっきり示すことで被災者にとっても他の人々(外国も含む)にも不安がなく理解できるようにする必要があろう。また、外国向けには地図も示して放射能の被害も限られた地域にとどまっており、なによりチェルノブイリとは違って地震発生時に原子炉は停止していることをはっきり分かってもらうことが大事であると思う。炉や建屋が損傷して放射能の汚染水が漏れていること、その封じ込めにまだしばらくかかること等から油断は出来ない状況ではあるものの日本全体が汚染されているかのような誤解はさけたいものである。

日本の食料の海外依存が高いことはかねがね言われていることでながら、改めて世界の国々との協力、協調の大切さを思い起こしたい。今回の日本の大惨事には我々日本人が総力を上げ努力すると共に、寄せられた支援はありがたく受けて復興の助けとさせてもらいたい。そして将来世界のどこかで災害が起きたときや、紛争や貧困で支援が必要と思われる国や地域に日本が支援を惜しまず、できる時がくることを信じたい。そしてそのためにも国内の様々な支援と復興をめざした活動と共に海外からの支援についても報道・発信をもっとして欲しいと思う。