大震災からの復興―国際社会にも目配りを

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元外務審議官 株式会社日本総合研究所 国際戦略研究所理事長 田中 均

 東日本大震災で失ったものはあまりに大きく、それを言葉に出すことすら躊躇してしまう。しかし、いつまでも頭をたれているわけにはいかない。大震災によって私たちが見えてきたものも多くある。これから何をしなければならないか、冷静に考えるべきだ。日本が取り組まなければならないのは、単なる「復興」ではなく、日本の「新生」である。
 大震災で最も目に付いたのは、危機に対する備えの貧弱さだ。地震大国日本は、津波や原子力発電所の安全確保に十分な投資をしていたとは言い難かった。企業も、製造拠点や経営拠点の分散に十分意を払ってこなかった。他の地域からの融通を含め、電力供給の危機管理計画は不十分だった。

 今後の日本に必要なのは、復興会議や復興庁より、従来の縦割り行政を廃し、新しい計画で国土と産業を再構築する「日本新生院」とでも言うべき機能の創設である。東北地方の復興は、都市や産業の再配置を含めた国土保全の観点を持つ計画に基づく必要がある。
 企業も含めて危機管理計画を策定し、実行することが求められるだろう。安全への投資は、危機がなければ無駄になり、非効率と考えられるかもしれない。だが、先進国は国民の安心のために必要な投資を怠るべきではない。
 原子力安全行政の不十分さも露呈した。日本に原子力安全技術や関連の研究者、学者が不足しているわけではない。電力会社や経済産業省、学者ら原子力推進者から全く独立し、安全の基準を定めて履行する規制当局の存在が欠けているのだ。国際的な安全基準の見直しと独立した規制当局の設置が、原発建設再開の前提である。
 大震災は、私たちと国際社会の関係を見直す貴重な機会でもある。150を超える国、国際機関の支援や多くの国と個人からの義援金の拠出は、大変心温まる動きだった。これらの支援は、大津波被害の大きさに加えて、日本が国際社会で高く評価されている国であることとも無縁ではない。

 とりわけ米国は、被災者の支援、行方不明者の捜索、福島原発事故の処理など、あらゆる面で大きな援助を提供した。在日米軍も多くの兵力を割き、常に自衛隊との共同オペレーションという原則を守りながら支援をしている。私も長い間、米国との関係に携わってきたが、今回ほど同盟国のありがたさを感じたことはない。
 当面の最大課題が震災からの立ち直りであることは論をまたない。だが対外関係は二の次といった考えに陥るべきではない。例えば、国内の資金需要が大きくなるので当面は政府開発援助を減らすとか、自由貿易拡大のためのTPP(環太平洋パートナーシップ協定)参加を先へ延ばすといった安易な考えに走ってはならない。
 復興財源は、財政基盤を再構築するという待ったなしの課題と矛盾しないよう、結果的には増税で賄っていく必要がある。その際、国際協力も重要な経費に位置づけて、援助が大きく減っている現状から反転してほしい。TPPの前提となる農業の自由化も、東北地方の農業再生と両立しうるはず。東アジアでの大きな変動を踏まえて日米同盟の進化を実現させる、日米戦略協議と首脳間の会合をいたずらに遅らせるべきではない。

 待ち受ける数々の国家的大事業を前に、与野党がねじれ国会で政局的やり取りを繰り返す余裕はない。必要なのは、与野党の完全な協力体制を構築し、あらゆる人材を活用して事に当たることだ。次期総選挙まで、例えば2年と時限を区切った民主党と自民党の大連立こそが、日本を救う道である。

         (2011年4月13日付毎日新聞コラム「世界の鼓動」より転載)