最近の援助に一言

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元科学技術協力担当大使、援助政策ウオッチャー 松井靖夫

外務省が去る6月に発表した今後の国際協力の在り方では、効果的な援助を進めるため、技術協力や資金協力を一体として進めるほか、NGOの重要性と開発コンサルタントの育 成を強調している。これらはよいと思うが、具体策は徐々にしか見えない。ここ一、二年、援助論議が、政府関係者、アカデミックス、NGO、民間企業の間で行われたが、政府機関と開発コンサルタント、NGOとアカデミックスの間でのそれぞれの役割について理解と認識がいまだ収斂しておらず、オールジャパンの援助体制として強化されたとの印象は受けない。これからは、対立点の強調よりも協力の実績による信頼関係の構築が大切である。一例であるが、日本から遠く、地震で大きな技官を受け、いまだ立ち直れないハイチの復興現場では、自衛隊PKO部隊、援助事業を受注する開発コンサルタントのほか、JEN、赤十字を含めた日本のNGO数団体が活躍する。道路、建造物、水道管、電力など の復旧から、生活支援を行う援助事業に対し、住民を励まし、飲料水の確保、衛生教育、住宅修理を手伝うNGOのアプロー干は、相互補完性があり、協力の余地は、大きいとハイチの現場経験をした開発コンサルタントは語る。政府援助関係者がこうした日本の援助コミュニティの信頼と協力強化の実績づくりをエンカレジしていくのが、いま求められていると思う。

もうひとつの援助論議は、援助の効率化である。財政赤字の累積の中、援助する側からも、無駄をなくすべしとの意見は強い。長年やってきたが、プライオリティが下がってきてい る事業や、ややもすると惰性で続いている手法を見直し、整理するいい機会であろう。しかし効率化を軸とする議論をこのまま続けていくデメリットも大きいと思う。二国間援助予算の継続的な削減は、集中と選択の余地を狭め、新しいチャレンジを難しくする。日本だけがドーナーではないので、相手国から頼りに成らないと思われ、アジア、アフリカ諸国は、新興国からの援助に魅力を感じているのではなかろうか。 日本の技術に基づくインフラ輸出と建設、大学間協力を含む科学技術協力、アフリカでの安全な水の確保から人口急増する途上国での上下水道、防災対策の強化など本問題への多面的な協力は国民にも理解しやすく、日本の利益にも結び付く。もっと推し進めてほしい。それと同時に、中国の経済協力とそれを使った政治的影響力の増大がみられる中で、援助と知恵を上手に活用し、日本の影響力を回復する戦略を具体化する時期にきていると思う。たとえば、中国が破格の経済協力を提示し、日本の企業が劣位に立つ状況では、OECDやDACの現在の資金競争の規制ルールにとらわれず、対等の条件をだすことが、不可欠である。想定されていなかった状況での新しい、ルールの策定は、1980年代、90年代に日本の台頭を前に欧米諸国が行ってきたことである。