外を見まわそう

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元駐デンマーク大使 小川郷太郎

 最近の日本全体の内向き傾向は深刻だ。政治も、経済も、国民も、殆ど一億総視野狭窄状態に進んでいるかのように見える。
 国を主導すべき与党も野党も選挙配慮で動くばかりで、自ら描いた「国民の皆さま」の意向を念頭に互いに相手の足を引っ張り合う。社会保障制度が破綻しかけているのに消費税論議は先送りし、国の制度設計への行動はない。無駄排除を目指す「仕分け」の意図は良くても、政治家自身があまりにもミクロの予算費目に頭を突っ込みすぎて、大きな国の方向の構築はなおざりだ。経済力や軍事力を強大化させる中国への対応はそっちのけにして、尖閣ビデオ流出の犯人捜しや責任者糾弾に明け暮れる。かつて果敢に行動した日本企業はリスク回避の慎重姿勢を一層強め、海外の市場獲得競争で他国に後れをとっている。国内農業保護に固執するあまり、環太平洋の経済連携(TPP)などの世界の自由経済体制構築競争で置き去りにされつつある。国民も、ひたすら節約をし、過剰なほどにインフルエンザ予防のマスクをして、携帯電話の画面を見つめながら下を向いて歩く。中学生の国際学力比較で昨年少し盛り返したものの、日本の地位は傾向としては下がっている。世界大学ランキングでも日本の順位はどんどん下っている。しかし、若者の海外志向が弱まり留学生は激減している。世界がグローバル化でどんどん動いているのに、日本は内にこもって世界と逆の動きをしている。
日本の国力や勢いが継続的に下がっているが、気付いて焦る雰囲気もない。私は、その最大の責任は政治とマスコミにあると思う。政府は、「政治主導」「国家戦略」「有言実行」など、わざわざ口に出さなくても当たりまえのことを看板にしつつ、それ自体具体的内容のない言葉の中味を明らかにしないままでいる。マスコミは国内の個別の事件を過度に詳細に、かつ、連日繰り返し報道して国民の目をひたすら内向きにすることに貢献している。
世界の相互依存関係はますます深まるなかで、対外依存度のとくに大きい日本は世界大の視野で巨視的に物事を見る必要がある。政治指導者は選挙目当ての党利党略はやめて、与野党いっしょに随時世界の動きの現場を見に行ってはどうか。マスコミは、事件報道はほどほどにして、日本が直面する課題に参考になるような世界の流れや趨勢をもっと国民に知らせる努力をしてほしい。
(4月21日寄稿)