福島と原子力エネルギー


原子力委員会委員、元軍縮会議日本政府代表部大使 佐野利男

1.福島のあの時と今、そしてこれから
1)東電福島原発事故
 2011年3月11日14時46分、貞観11年(869年)以来、国内最大級と言われる地震が東日本を襲い、これに続き大規模な津波が発生した。当時運転中の東電福島第一原発の1-3号機が自動停止し、非常用ディーゼル発電機により電源は確保されたが、押し寄せる津波による浸水で、1-5号機で全交流電源が喪失(SBO)。東京電力の通報を受けて、政府は「原子力緊急事態宣言」を発出し、総理を本部長とする原子力災害対策本部を設置した。
 冷却機能を失った1-3号機では圧力容器内の水位低下により炉心が露出し、炉心損傷及び燃料溶融(メルトダウン)が生じた。そして燃料を覆う金属が水蒸気と反応して大量の水素が発生し、建屋内に充満したと推定され、数日間の内に1、3、4号機の建屋で水素爆発が発生したと考えられている。大破した建屋からヨウ素131、セシウム134、同137などの放射性物質が大量に放出され、これらが風により北西方向に飛散し、降雨により地上に降下し、この地域を汚染した。以降、福島は被災地域の復興と福島第一原発への対応が優先課題となった。この事故は国際原子力事象評価尺度(INES)により、チェルノブイリ事故と同レベル7に相当する「深刻な事故」と暫定的に評価されている。
 福島第一原発は、同年12月に、「冷温停止状態」に達し、不測の事態が発生した場合でも敷地境界における線量が十分に低い状態を維持できることが確認された。そして、これをもって原発事故そのものは収束に至ったと判断された。
 この世界を驚愕させた事故から今年で10年が経った。

2)事故原因の究明
 福島事故以降、さまざまな形で事故原因の究明、原子力の安全性確保について議論され、提言がなされた。事故調査委員会だけでも、政府事故調、東電事故調、国会事故調、学会事故調、民間事故調(特に船橋洋一氏の秀作)などがある。何れも大部だが、事故究明に焦点を当てており、放射線の健康への影響や住民避難などについて触れている部分は多くない。
 事故の直接原因については、津波による全電源喪失(国会事故調と学会事故調は地震による重要機械損傷の可能性に言及あるいは示唆)を挙げているが、未だ原子炉建屋へのアクセスが制限されている現状では、究明は今後の課題として残されている。また、過酷事故に対する事前の対策に於いて政府と東電の双方に問題があったことも東電事故調以外の報告書に共通している。
 事故の根源的原因については、国会事故調は、規制当局と規制される東電の立場が逆転し、当局の安全監視・監督機能が崩壊していた(黒川清氏の「規制の虜」)として、「今回の事故は人災」と結論付けている。また、政府事故調は、国も事業者もわが国では炉心溶融の様な過酷事故は起き得ないとの「安全神話」に捕らわれていたと指摘し、一方、東電事故調は、津波想定に甘さがあり、津波に対する備えが不十分であったとしている。

3)安全性向上に向けた改革・改善
 総じて事故以前の状況として、a) 地震、津波、過酷事故への対策に問題があったこと、b) 諸外国で取り入れられている深層防護(Defense in Depth)の考え方が十分に考慮されていなかったこと、c) IAEAの安全基準等を踏まえた国内基準の見直しがほとんど行われていなかったこと等が指摘され、順次改革が行われた。
 先ず制度面では、規制当局を推進側である経産省から切り離し、環境省の外局として独立性の高い規制委員会(3条委員会)を設置し、その事務局として規制庁を置いた。原子力規制と推進の分離だ。この結果、従来経産省内にあった原子力安全・保安院と内閣府にあった原子力保安委員会を廃止した。そして2013年、安全基準として世界一厳しいとされる「新規制基準」が施行された。更に、2020年4月から、米国の「原子炉監視プロセス」を参考に、「原子力規制検査」が導入された。
 また、事業者側に於いても、米国等の制度に学び、自主的に安全性を向上しようとする努力が積み重ねられている。ピア・レヴュ-等により相互に安全性を高めようとする原子力安全推進協会(JANSI)の設立、規制当局と事業者との対話を促進し、効果的な安全対策を講じようとする原子力エネルギー協議会(ATENA)の設立、更に電力中央研究所に原子力リスク研究センター(NRRC)を設置し、確率論的リスクマネージメント等に関し研究を進めている。

4)放射線物質により汚染された地域の現状-今なお残る誤解と風評
 10年後の今、社会経済インフラの再建も進み、生活環境も大きく改善された。復興公営住宅の整備、店舗の開設、企業の進出、医療・介護・福祉施設や学校等教育施設の再開、高速道路やJR線の開通など交通インフラの整備が進み、筆者が今年3月11日に訪問した東松島市でも、これらハード面での復興は目に見えて進んでいることが伺えた。農林水産業や商工業など生業が再生しつつあるが、福島県では農業産出額は2010年比で9割まで戻したものの、被災12市町村では2019年度の営農再開率は32%にとどまっている。また、漁業については、2020年からすべての魚種で試験操業が実施されたが、2020年度の水揚げ量は震災前の17%程度に低迷している。操業日数・時間の増加による漁獲量の拡大、流通消費量の拡大が急務だ。
 放射線量を見てみると、福島県内の空間線量率は大きく下がり、福島第一原発の直近以外は、海外の主要都市とほぼ同じ水準になっている。また、2018年3月までに、帰還困難区域を除く8県100市町村のすべてに於いて面的除染が完了し、2020年3月までには帰還困難区域を除くすべての避難指示区域が解除された。この結果、避難指示が残っている区域は県面積の約2.4%になった。
 放射線の健康への影響については、福島県が2011年から実施してきた県民健康調査によれば、事故発生直後4か月間の外部被ばく累積線量は健康へ影響があるとは考えにくいと評価され、また18歳以下を対象にした甲状腺検査では、現時点での本格検査で発見された甲状腺がんと被ばくの間に関連性は認められないとされている。更に原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)は、被ばく線量の推計、健康リスク評価を行い、2021年3月に被ばくによる住民への健康影響が観察される可能性は低い旨の報告書を公表している。
 食品への影響については、2012年に厚労省が食品の摂取による放射線量を国際基準より厳しい1ミリシベルト未満に設け、市場にはこの厳しい基準値を下回る食品のみが出荷されている。米の全量全袋検査等により、2018年度以降は、農畜産物で厳しい基準値を超えたものは見られなくなった。
 また、福島第一原発の周辺海域のセシウム137濃度は世界的な飲料水の水質濃度基準を下回っている。
 このような事実を並べるのは、復興努力の「成果」を示す為ではない。それは、このような事実が国内外で十分認識されておらず、福島に関するイメージが依然事故当時のものから改善されていないことを憂慮するからだ。2020年民間企業が行った東京都民を対象にした調査では、「放射線が気になるから福島県産の食品や福島への旅行を家族や知人に勧めるのをためらう」とする割合が約25%、また、「福島県の現状を正しく理解していると思わない」人の割合が50%弱に達している。また、これまで40の国・地域で福島県産の農産物への輸入制限が撤廃されたが、依然14の国・地域が制限を続けている。このように、国内外に事故直後の風評が「固定化」されていることが懸念される。

5)福島第一原発の現状
 では、事故を起こした福島第一原発の現場は、どうなっているだろうか。現在、原子炉内の温度が15-35度に維持されているのに加え、敷地面積の96%で一般作業服等の軽装備による作業が可能だ。他方、溶融した燃料等が冷えて固まった「燃料デブリ」が存在するため、1-4号機の原子炉建屋やその周辺は依然高線量であり、放射線防護服の着用が欠かせない。これが原発事故の調査・分析を妨げている。政府と東京電力は30-40年後の廃止措置完了を目指して作業を進めているが、現在の主な課題は、a)汚染水・処理水対策、b)使用済み燃料プールからの燃料取り出し、c)燃料デブリの取り出しの3点だ。
 a) 汚染水・処理水問題については、多核種除去設備(ALPS)など高性能な浄化装置の導入、建屋に近づく地下水を遮水する凍土壁などを導入・運用してきた結果、一日の汚染水発生量は140m3まで大幅に減った。一方で汚染水の浄化処理により処理水が増え続け、貯蔵用タンクは2021年3月までに1,000基を超えた。処理水にはALPSで除去できない規制基準値を超えるトリチウムが含まれるため、その取扱いが議論されてきたが、2021年4月、政府はALPS 処理水の処分方針を決定し、今後2年程度後の海洋放出開始に向けて、設備等の準備や国内外の風評影響への対応などの取り組みを進めることにしている。
 b) 使用済燃料プールからの燃料取り出しは、3号機、4号機については完了し、2号機は2024年度から2026年度の、また1号機は2027年度から2028年度の取り出し開始に向けて工事が進められている。
 c) 燃料デブリ取り出しについては、2015年以降、透過性の強い宇宙線ミュオンを利用した透視調査や遠隔操作ロボットなどによる調査を実施し、燃料デブリの分布状況、アクセスルートの確認、工事の安全性を判断する情報などを収集してきた。これら内部調査に基づき、先ず2号機から試験的な取り出しに着手し、燃料デブリの性状分析を進め、段階的に作業を拡大する方針だ。2022年内の試験的取り出し開始を目指してロボットアームの開発などを進めている。

6)新たな動き―新産業創出に向けた国家プロジェクト
 また、復興を将来への展望へとつなぐ新たな構想も打ち出されている。東日本大震災で大きく傷ついた福島県の浜通り地域の新たな産業基盤構築を目指した「福島イノベーション・コースト構想」が打ち出された。これは6つの分野、即ち廃炉、ロボット・ドローン、エネルギー・環境・リサイクル、農林水産業、医療関連そして航空宇宙で技術開発を進め、新たな産業を創出しようとするものだ。また、福島の創造的な復興に必要な研究開発、人材育成を目指し、産業競争力強化やイノベーションを創出する拠点として「国際教育研究拠点」を整備することとなった。今後はこれらの構想が、実のある形で実現されることが期待される。

2.原子力エネルギーの有用性
 福島事故が国際社会に与えた影響は大きなものがあった。よく引用されるのはドイツが2022年までに脱原発を完了させ、スイスと韓国が原発の新設を認めずに、段階的脱原発へと政策変更し、イタリアが福島事故直後の国民投票によりチェルノブイリ事故以降停止していた原子力の再開政策に反対したことだ。他方、安全策を強化して引き続き原子力を活用しようとする国もある。米国規制庁(NRC)は、短期タスクフォースを組み、その提言に沿って、緊急時対応を含む対策を強化した。フランスは事故発生後24時間以内に介入できる「特別チーム」や原子力設備を統括する「緊急行動部隊」を全国に配置し、また英国は安全評価原則を全面改訂した。また、ロシア、中国、インド等主要原子力利用国も、原発を活用・拡大する政策を堅持している。更にポーランド等東欧諸国、サウジ等湾岸諸国やエジプトを初めとする中東諸国では福島後も新規導入計画が進められている。

 ここで、今更感があるものの、原子力エネルギーの有用性について、気候変動の観点、低コストエネルギーの必要性の観点から確認するとともに、わが国における軽水炉の長期的活用の重要性につき指摘したい。

1)グリーン成長戦略への転換
 2020年10月、菅首相は所信表明演説において、経済と環境の好循環を成長戦略の柱とし、グリーン社会の実現のため、2050年にカーボンニュートラルを実現する旨を宣言した。そして2021年4月の気候サミットで、菅首相は2030年度に温室効果ガスを2013年比で26%削減するとの従来の方針を46%削減に引き上げることを発表した。
 2018年7月に閣議決定された「第5次エネルギー基本計画」では2030年に向けたエネルギー政策の基本として、「3E+S」、即ち安全性(safety)を前提に、エネルギーの安定供給(security)、経済性の向上(efficiency)による低コストエネルギー供給の実現、環境(environment)への適合を実現することを打ち出したが、その中で原子力については、「安全性の確保を大前提に、長期的なエネルギー需給構造の安定性に寄与する重要なベースロード電源」と位置付けている。また2021年6月に改訂された「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」では、14の成長分野を特定し、その中で原子力について「原子力規制委員会により世界で最も厳しい水準の規制基準に適合すると認められた場合には、再稼働を進める」とともに「安全性等に優れた炉の追求など将来に向けた研究開発・人材育成等を推進する」こととしている。

2)わが国の原子力発電の現状
 わが国における原子力発電は東電福島第一事故後、順次操業を停止して、2012年には稼働原子炉数が0基となった。そして安全性を大前提とする新たな規制基準の導入、これへの適合性審査をパスするために、再稼働に必要な時間がかかっている。2021年8月時点で10基が再稼働しているにすぎず、原子力の総発電量に占める比率は事故前の約25%から、2018年現在約6%に減少している。
 因みに、事故前の商業炉60基の内、既に24基の廃炉が決まっており、残りの内6基の設置変更が許可され、11基が審査中、9基が未申請の状況だ。従って、原子炉が停止している間、如何に現場の運転技術や人材を維持・確保するか、廃炉を如何に進めて行くか、そのための人材をいかに育成していくか、が事業者の大きな課題となっている。

 野心的な温室効果ガス削減目標を達成するためには、原子力エネルギーの活用が不可欠であることは論を待たない。現に、2018年の実績によると、先進国における低炭素電源による発電量の内、原子力は最大の約40%を占め、これは風力と太陽光発電の和の2倍に相当する。この現実を直視する必要がある。

 ここで、原子力エネルギーの活用について2つの国際機関の報告書を紹介したい。一つは今後のエネルギー・インフラへの投資、他はエネルギー・コスト計算に関するものだ。
 まず、2019年5月、国際エネルギー機関(IEA)は「クリーンエネルギーシステムにおける原子力(Nuclear Power in a Clean Energy System)」と題したレポートを公開し、原子力を、「持続可能なエネルギー目標達成とエネルギーの安定供給に大きく貢献できる」と位置づけた。 筆者が特に注目したのは、今後先進国における原子力への投資に経済性があるとしている点で、具体的には、今後原子力への投資が行われなくなることによる節約効果(約4,000億米ドル)より、それによって別途必要となる投資額(約2兆米ドル)の方がはるかに多く、結果的に2019年から2040年の累計で約1.6兆米ドルが追加的に必要(年間の電力供給コストは平均で約800億米ドル増加)になるというものだ。これはいわば先進国が原子力を失うことの痛手を、数値をもって明確化したと言える。
 次に、同年OECD/NEAは「原子力・再生可能エネルギーのシェア向上時におけるシステムコスト(The Cost of Decarbonisation)」を公表し、気象条件により変動する再生可能エネルギー電力を評価する際には、発電コストに加え、出力変動を調整するために他の調整用プラント(例えば火力発電容量)を確保するためのコストや分散型の発電に必要な送・配電コスト等4種類のコストを考慮する必要があるとしている。例えば、太陽光発電が地域の需要を超えた場合、逆潮流に対し、配電網設備への投資が必要になるわけだ。
 最近、再生可能エネルギーの価格が原子力を下回わるのか否かにつき議論があるが、この計算の際、まさにOECD/NEAが指摘するその他のコストを考慮する必要がある。ヨーロッパ諸国と異なり、近隣諸国とグリッドで結ばれていないわが国の場合、再生可能エネルギーの不確実性を他国からの電力輸入によって補うことはできない。従って、火力発電容量を確保しておく必要がある。そのコストを再エネコストに加えるべきだというのだ。
 これら二つの国際機関のレポートは、コスト面で原子力への投資が長期的合理性を有していること、再生可能エネルギーへの転換に際して考慮すべきコスト面での留意点を指摘している。わが国のエネルギー政策を誤らないために、何れも傾聴に値すると考える。
 そして、今年の7月30日に開催された総合エネルギー調査会の分科会では、バックアップコストなどを考慮すると太陽光が割高になる旨報告している。

 わが国の電力コストは諸外国と比べて大変高く、例えば米国の約2倍、OECD平均の約1.5倍と言われている。今後、わが国にとって賢明な原子力政策とは、安全対策を大前提に、技術的に確立した軽水炉による発電を継続し、低コストの電力を長期的かつ安定的に供給することだと考える。それが、今後の日本経済と野心的な温室効果ガス削減目標の実現を力強く下支えすることだろう。

3.原子力安全をめぐる思想の転換
 福島事故以降、原子力安全を確固なものとするため、官民により様々な制度改革がなされてきたことは前述した。それでは、そのような制度の枠内で、どのような「安全思想の転換」が行われているのか、また、そもそも日本の組織文化に根ざす課題はどうなったのかについて触れたい。
 a) 先ず、原子力安全に「これで良し」とするゴールポストは無いと考えることが重要で、今や、安全技術の発展に伴い、安全対策は日々改革を求められる「動的(dynamic)」なものとして捉えられている。基準さえ遵守すれば安全だとする「静的(static)」な思考では、事故前と変わるところはなく、思考はそこで停止し、「新たな安全神話」に陥る危険がある。
 b)次に、リスクをどうとらえるかにつき、確率論的リスク評価(PRA: Probabilistic Risk Assessment)が本格的に導入されている。事故前からこの重要性について認識はあったが、事故後、この手法の活用が本格的に検討された。PRAは想定しうるすべての事故シナリオをもとにし、それぞれのシナリオにつき重大事故に至る確率を定量的に計算し、それに基づき各原発のどの部分のリスクが確率的に高いか、そして原子炉全体としての安全性を評価するものだ。2020年4月から導入された「原子力規制検査」はこの考えに基づいている。
 c)また、深層防護(Defense in Depth) の考え方がより鮮明に認識されてきたとみられる。これは事故以前も認識されていたものだが、何層にも多重的な安全対策を設け、過酷事故に至る前に事故を収束しようとするものだ。ここで重要なことは、結果的に例えば5層の安全構造になったとしても、各層の対策を取る際、「これが最後の砦だ」との意識をもって、徹底的な対策であるべきこと、にもかかわらず、次の層は、それでも前層が崩れることを想定して、再度「最後の砦」として徹底的なものであるべきだということだ。
 d)また、新たに導入された制度として、前述のように安全性を「動的」なものとして捉え、一旦許可した施設でも新たな知見や情報により安全基準が変更された場合、その新たな基準への適合を事業者に義務付けている。そのためには追加的な投資が必要となる。しかし安全性を追求するためにこの「あと追い」の措置(backfit)も認められるようになった。

 このように、この10年、制度・政策面のみならず、安全思想の面でも改革・改善がなされていると評価される。しかし、これらを運用するのは組織人としての人間だ。国会事故調等は、わが国の原子力関連組織に内在する本質的な課題を抽出している。それは例えば、日本人に特有なマインドセット(思い込みなど)や集団思考(浅慮)、多数意見でまとめようとする同調圧力(少数意見を主張しにくい文化)、現状維持指向(例えば決定の先送り)、部分最適に陥り組織全体での最適化が図られない結果として必要な情報共有がなされない、などだ。福島事故以降、これら組織が抱える文化的制約や思考傾向が果たして改善さてきたかについては必ずしも十分な評価がなされていないように思われる。最近の東電柏崎刈羽原発における核セキュリティー上の不祥事を挙げるまでもなく、このような問題を事業者がどの程度深刻に捉えているのか、ことが組織文化上の問題であるだけに難しい課題であると思われる。関係省庁・事業者に再度自らの組織文化に潜む諸問題に目を向けてほしいものだ。

(本稿は個人の意見を述べたものであり、いかなる組織の見解を示したものではない。)