(中国特集)アフリカ連合(AU)から見た中国


アフリカ連合(AU)日本政府代表部大使 堀内俊彦

はじめに
 アフリカ統合の原動力たるアフリカ連合(African Union(AU))と中国との関係について述べたい。まず、 AUがアフリカ域外の国や地域とどのようなパートナーシップを築いているかについて、次に、数多いパートナー国・地域の中でも中国がどのように振る舞っているかを述べ、最後に、日本はどうするのがよいのか私見を述べたい。

1.AUから見たパートナー(何がベストミックスか?)
 まず、AUがアフリカ域外のパートナーをどう捉えているか、逆に、パートナー側がAUをどう見ているかを代表的ファクト、事例を通じて述べる。

(1)AU側から見たパートナーシップ
 AUは現在、以下の9つのアフリカ域外の国・地域との関係を正式に「パートナーシップ」と認めている(順不同):EU、中国、アラブ連盟、インド、韓国、トルコ、南米、アメリカ、そして日本(これら以外にも、フランスやロシア等独自にアフリカとの関係を築いている国もある)。
 AUは、アフリカのオーナーシップを強調し、「African solutions to African problems」を標榜し、日本を含むパートナー達に対しては、「アジェンダ2063」(注1)をはじめとするAU側のアスピレーションや、AUの策定する「大陸アジェンダ」に沿った支援、協力を求めている(この点、従来タイプの2国間ベースのODAは、必ずしもAU側には響かないこともあり得る。その一方で、個々のAU加盟国にとっては、あくまでも自分たちの国にどのくらいの果実がもたらされるかがより重要との側面もある)。
 実際には、AUは、AUの表看板の一つである平和安全保障分野を始め、活動を支える財源や知見を外部パートナーに大きく依存しており、オーナーシップとパートナーシップのベストミックスが大きな課題である。そのことを忸怩たる思いで見ているAU関係者は多い(なお、財政面での最大のパートナーはEUで、次がドイツ)。

(2)パートナー側から見たAU(「AU詣で」)
 日本が1993年にTICAD(アフリカ開発会議)を始めた頃、アフリカは「周縁化」されていて、アフリカへの国際的関心は決して高くなかった。しかしその後、続々と多くの国・地域がAUとの関係強化に乗り出し、現在は、上述のとおり多くの国・地域による「AU詣で」状態となっている(これは逆にAU側から見ると、アフリカがパートナーを選り取り見取りで選べる状況を意味する)。具体的には、パートナー諸国・地域は、AUに対し、財政面を含め恒常的、日常的に協力するとともに、TICADを後追いするかのように、アフリカ側首脳・閣僚との定例的な会合を核とするプラットフォームを創設して新たなイニシアティブの発動や協力のパッケージ化を行い、AUとの関係のテコ入れを図っている(ただし、パートナーシップ乱立とも言える状況を受け、AUや一部の加盟国からは、パートナーシップの合理化(見直し)の声も出てきている)。
 AU詣での背景としては、増大するアフリカの力・魅力(人口、経済権益、政治的重みなど)に多くの国が気付いてきたことや、AUがアフリカ統合を深化させ、55の国・地域(注2)からなる多様なアフリカを代表して一つの声で発言・行動するようになってきたことがある。その統合の一つの象徴が2021年1月から実施に移されたアフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)である。
 外交面では、AUとの関係強化のため、アフリカ域外では以下の国・地域が専属のAU担当大使を置いている(これ以外は駐エチオピア大使がAU大使も兼任)(順不同):中国、アメリカ、EU、イタリア、ノルウェー、スイス、キューバ、そして日本。更に現在いくつかの国がAU大使ポストの新設や独立したAU代表部の設置を考えている。(注3)

2.中国とAU
 多くのパートナーシップが乱立する中、中国は独自路線を行っている気がする。いくつか事実関係から記したい。

(1)アフリカにとって中国は「新興」パートナーではない
 AUの前身は植民地解放を掲げていたOAU(アフリカ統一機構(1963年設立、2002年にAUに発展改組))であり、植民地解放と表裏一体で進められたアフリカ統合の思潮はもともと中国と親和性が高いと言える。現在では、開発がAUの最大の課題であるが、中国のマッシブな支援・関与、南南協力とのナラティブは、AUの開発アジェンダとも親和性が高い。

(2)いくつかの代表的な事例
中国は、AU本部ビルの建設・供与(2012年落成式、総工費2億ドルと言われる)(なお、建設中に盗聴装置を設置したとの疑惑の報道もある)、アフリカ疾病予防管理センター(アフリカCDC)の新本部ビル建設・供与(予定)、コロナ禍のマスク外交としてのAUへの衛生物品・機材の供与、ワクチン外交としてのAUへのワクチン供与等々、箱物の建設や相手が弱り目の時のスピード感ある支援等の中国らしい協力をAUに対しても行っている。

(左)中国が建設・供与したAU本部ビル  (右)アフリカCDCの建設現場

 AUは様々な機会にアフリカ共通ポジションを形成するようになってきており、国際的選挙のアフリカ統一候補は顕著な例である。また、国際的な選挙におけるアフリカ票の重みを考えると、このことと中国人の国際機関トップへの選出とは無関係ではないと思われる。この他、AUで採択された国連改革に関するアフリカ共通ポジションを持つアフリカの国々に中国が圧力をかけて改革の進展を阻止しているとの報道もある。
 中国は、現在、台湾と国交のあるエスワティニ(旧スワジランド)以外の全てのアフリカの国に在外公館を有している。また、アフリカの国々には、アジア各国には在外公館を置けない国も多く、例えば在北京の大使館から日本を見ている国が10あまりある。私自身、AUというマルチを相手にしているが、マルチとは言っても、基盤となっているのはそれぞれの国と日本とのバイの関係であることを日々実感している。AUの重要事項は、まずは当地のAU加盟国の大使(AU常駐代表)からなる各種小委員会で討議される(TICADも、AUC(AU委員会)(AUの執行部門)が共催者の一員であることから、このAUの小委員会プロセスをクリアしないとTICADプロセスは前には進まない)。バイなくしてマルチはない。中国がバイとマルチを有機的に連携させていることは想像に固くない。
 中国は、中国のアフリカとのパートナーシップの象徴であるFOCAC(中国アフリカ協力フォーラム)を2000年以来3年毎に開催しており、次回FOCACは、2021年(予定)にセネガルで開催予定である。次回FOCACは「人材育成」をテーマの一つにするとの話も聞こえてきており、日本としても気になるところである。なお、FOCACのプロセスにおいて中国は、アフリカ側の声にあまり耳を貸さず、一方的なテーマ設定や成果文書の採択をしているとして、FOCACを否定的に見る意見もアフリカ内外にある。
 なお、FOCACは、中国とアフリカの個々の国とのバイの集合体との立て付けである(AU(AUC)も一参加者との扱い)。この整理により、AU側の定める規定(バイの国によるパートナーシップには全てのアフリカの国を招待することは出来ず、いくつかの国がアフリカを代表して参加するのみとのAUのルール)をかいくぐっている。この辺も中国のしたたかなところである。

(左)エチオピア・中国外交関係樹立50周年を祝う看板 (右)中国が建設中のスタジアム

(3)アフリカという文脈での中国の功罪
 中国によるインフラ整備や消費財の供給による民生の向上といった点については一定の評価が必要だと思うが、その一方、アフリカにいて強く感じるのは、遠藤乾北海道大学教授の表現を借りれば、中国による価値の「切り下げ帝国」の一面である。中国の独自の行動により、マルチラテラルの協調に綻びが出来てしまう。空白が生じれば中国がするすると占めてしまう事態への懸念は当地でも多くの大使から聞く。一部の西側の国などからのアフリカ側に対する批判の声が、批判される側にかえって頑なな態度を取らせることもある。そのような際には、中国が格好の避難所になるということかと思う。

3.これが日本の生きる道(アフリカ編)
 パートナーシップ乱立の状況下で、さらに中国が独自に構築しようとする国際秩序の中にアフリカを位置づけようとする中、日本はどうするのが良いのか私見を述べたい。

(1)TICAD自由市場説
 日本はアフリカとのお付き合いを多様化、多重化してきているが、TICADがその核になっているのは間違いない。中国だけでなく、他の国々のパートナーシップと比較してもTICADの特長として言えるのが、開放性、包括性である。確かにTICADは日本が前面に立って進めていて、日本の民間セクターとのマッチングをはじめ日本にとってのwinも追求している。しかし、TICADは同時に、アフリカに関する世界中の多種多様な関係者が広く参画する、アフリカに関するアイディアやイニシアティブが自由に流通するプラットフォーム、自由市場となっている。特に、2022年にチュニジアで開催予定のTICAD8は、開発やビジネスといった従来の柱に加え、コロナ禍を受け、いかにアフリカを、世界をBuild back betterしていくかとの節目のTICADとなる。TICADプロセスは、1993年の発足当初から「日本良し、アフリカ良し、世界良し」の三方良しでやってきていると信じているが(私はこれに持続性の時間軸を入れ「将来世代良し」を加えた「四方良し」が更に良いと思っている)、TICADに結集されるこれら日本の比較優位、強みや特長(相手の話を良く聞く、地道に行う、透明性があるなど)をさらに磨き、引き続きAU始めアフリカ側から「選ばれる国・パートナー」であり続けることが日本にとり非常に重要だと思う。
 日本は物量では勝負が難しい現状である。TICADを始めた時のアバンギャルドさを思い起こし、他のパートナーより一歩先んじて、とりあえず、とにかく土俵に上がり続けることも、選ばれ続けるためには有効な差別化だと思う。

(2)「隙間」の活用
 欧米流の価値観を頭ごなしに適用することへの反発がアフリカ側にない訳ではない。その一方で、中国の融資による債務の罠への疑念をはじめ中国に対する警戒心があるのも事実である。また、米中の争いに巻き込まれたくないとの本音もアフリカ側にあると思われる(アフリカに限った話ではないが)。その「隙間」の部分に、日本が何かできる余地がある気もする。

4.終わりに
 中国には体制故に自己修正能力がないこと、中国の人々が必ずしもそのことに否定的ではないこと、アフリカを含め世界では必ずしも中国的価値観が否定的には捉えられていないことを考えると、明るい展望も描きにくい。しかし(だからこそ)粘り強く付き合っていかなければならないとも思っている。関係が厳しい時こそ、一緒に汗を流す共働作業が有効なことも多いが、その観点からは、アフリカは、日本と中国が対話、協働できるフィールドになりえるかもしれない。ただし、それがwin-winならぬwe win(中国(だけ)が勝つ)や、中国が2回勝つの意のwin-winだと困るが。
 中国が長期的なビジョンを掲げて(その中身の適否はともかく)、そこからバックキャストしてやることを決めるというフューチャーデザイン的手法は参考にすべき点であると思う。コロナ禍を受けて、パンデミックの再来を含めあり得べき様々な危機について議論されている(かつ、想定外のUnknown unknownsも起こるであろう)。これらの危機への対応は、今後の人口動態だけを見ても、アフリカと中国、そしてその両者の絡み合いとの文脈抜きでは語れない。AUが今後、統合で先行するEUのように、より一層のルール作りに乗り出すとすると(その可能性は十分にあると考える)、そのルール作りに反映される価値観がどのようなものであるかは、アフリカの増大する重みを考えると死活的に重要である。であればこそ、アフリカを含む世界が共有できる将来についてのナラティブを創出し、それをナラティブから実際のストーリーにするのが課題先進国の日本の出来ること、すべきことであると思う。

(注1)アジェンダ2063は、1963年のOAU(アフリカ統一機構)創設からの100年後を見据え、その中間点である2013年に策定されたAUの長期開発計画。基本的にはSDGsにも整合的である。
(注2)日本が国として承認していない西サハラもAUに加盟しているので55になる。
(注3)AUは、エチオピアのアディスアベバに本部を有し、アフリカ域外では、米ワシントンD.C.、ニューヨーク(国連を担当)、北京、ブリュッセル(EUを担当)、ジュネーブ(在ジュネーブの国際機関を担当)、アフリカ域内では、カイロ(エジプト)、リロングゥエ(マラウイ)に常駐の事務所を設置している。

【参考文献】
川島真ほか編『中国の外交戦略と世界秩序』昭和堂、2020年

(以上は、筆者の個人的な見解をまとめたものであり、筆者が属する組織の見解を示すものではない。)