米中間選挙と主要メディアの視点


外務省参与、和歌山大学客員教授
元駐グアテマラ大使 川原英一

はじめに
 過去の米中間選挙では、現職大統領が属する与党が中間選挙で大敗する傾向がみられる。また、今回の選挙では、ウクライナへのロシア侵攻の影響でエネルギー・食料価格の高騰などを背景に米国経済は8%台の高いインフレに見舞われ、世論調査でバイデン政権への支持率より不支持率が上回る状況から、今回の中間選挙で野党共和党が大いに優勢との前評判であった。しかし、これまでの結果は、上院では、引き続き民主党が指導権を握り、下院では野党共和党が過半数は占めたものの、民主党との議席数の差が意外に少ないものとなった。

 なぜ、このような意外な結果となったのかについての米・英主要メディアの分析には、興味深いものが多い。また、中間選挙では外交分野は争点になっていないが、下院で野党共和党が過半数を占めたことから、来年1月以降、ねじれ議会となり、今後のバイデン外交への影響、さらには、トランプ前大統領が2024年大統領選に向けて共和党候補として出馬表明したことを主要メディアがどうみたのか等につき、印象深く感じた注目点を御紹介する。

想定外の選挙結果
 11月8日行われた今回の中間選挙では、上院100議席のうち35議席と、下院の435議席の全てが改選され、同時に州知事選挙なども行われて、同18日現在、一部州での集計作業がいまだ続いている。
 今回選挙の事前予想は、共和党が大勝するのではないかと見るメディアが多かったものの、結果は、民主党が健闘して、ジョージア州連邦上院一議席の決選投票を待たずして議席数50を既に確保した民主党による上院支配が確実となり、下院では共和党が過半数(218議席)を漸く確保したものの大差の勝利ではなかった(注①)。

(注① 連邦議会下院435議席中、共和党は過半数の218議席を、民主党は211議席が確実な状況(11月17日、米東部時間)。https://www.bbc.com/news/election/2022/us/results

民主党が健闘
 最終結果は、激戦区での得票数の確認、一部州の郵便投票の集計に投票日から数週間を要し、また、ジョージア州の場合は規定により同州上院議員の決戦選挙のある12月6日の結果を待つ必要があるが、中間選挙で政権与党がこれほど健闘した例は、過去、数えるほどしかない。1934年から2018年迄の中間選挙の平均値は、政権与党が上院で4議席、下院で28議席を各々減らしている。

 12月のジョージア州の上院1議席の決戦投票を待たずして、現状と同じく上院の半数の議席50を維持した民主党は、今回の議席増減はゼロであり、同党支配(注②)は今後も続く。また同党の下院議席数の減少は過去平均より遥かに少ない。

(注② 連邦上院で民主党と共和党が議席を50対50でも、法案等議決に際して投票結果が拮抗する場合、上院議長の副大統領がキャスティング投票の権利があり、民主党が上院を支配する。また、現在の下院議席数は、民主党220,共和党212、欠員一人となっている。 )

何故、この結果?
 逆に言えば、民主党が予想を覆して健闘した理由はなぜかについて、 「経済がすべてではなかった(It wasn’t all about the economy)」(注③)との小見出しで11月9日BBC米国電子版記事が取り上げている。有権者の関心事項の筆頭は、インフレだが、懸念されていたほどダメージがないとわかった、選挙アナリストによれば、景気の減速はあるものの、比較的健全な状態を保っていることを反映しており、生活費は上がっているが、成長は続き、失業率は低い(3%台)。人々は経済が良いとは思ってはいないが、解雇されるわけではない。そのため、中絶や移民、共和党右派の「大嘘(Big Lie)」といった論点が、選挙の後半戦を左右する結果となったと解説している。

(注③ US midterms: Why a Republican ‘wave’ never happened – BBC News

中絶の権利と選挙結果の否定への危機感
 6月下旬、連邦最高裁が半世紀前の最高裁判決を覆し、憲法は中絶の権利を保証していないと裁定したことが、リベラルな民主党支持層を活気づけた(「An energised Democratic base」)との選挙アナリストとの見方を、同じBBC(注③)が報じている。もし同判決がなければ、民主党は、インフレ、犯罪、移民といった争点を抱えて活気づけることはなかった、この中絶権利を否定した裁定により、政治が抑圧的(repressive)と肌で感じた若者世代が、今回より多く投票したと見ている。

トランプ氏への国民投票と化した
 11月9日付BBC記事(注④)は、「トランプに対する国民投票(A referendum on Donald Trump)」との見出し入りで、中間選挙はトランプ前大統領の遺産と共和党への影響力の評価テストとして受け止められる、迷った多くの有権者が、共和党内でのトランプ氏の影響力を弱めるために投票を決断したとの政治学者の見解を報じている。

 これまで共和党内ではトランプ前大統領の影響力が大きく、2020年の大統領選が盗まれたと主張するトランプ氏の支持を得た共和党の上・下両院議員候補及び知事候補者数は数多い。しかし、今回、トランプを支持した立候補補者の多くが激戦区で敗北している。BBCの分析によると、トランプ前大統領が主張する20年大統領選の否定派(election deniers)の立場をとった上下両院議員・州知事候補者が少なくとも176人おり、そのうち48名が落選した。

(注④ https://www.bbc.com/news/world-us-canada-63568003

 なお、バイデン支持率についての最近(10/26~11/17)世論調査の平均値(注⑤)は、42.1%であり、対する不支持率が54.4%あり、12.3ポイント不支持率が上回っている。バイデン大統領の政権運営手腕を米国民が評価していたわけではない。

(注⑤:RealClearPolitics https://www.realclearpolitics.com/epolls/other/president-biden-job-approval-7320.html#polls

候補者の資質
 米主要紙WSJ(ウォールストリートジャーナル)の11月10日付電子版ニュース解説(Potomac Watch注⑥)は、従来からの激戦区で勝利したフロリダ州共和党知事や上院議員がいる例を挙げて、トランプの支援がなくても、大差で勝利しており、逆に、選挙を否定するトランプの主張に同調して過激な発言を繰り返し、有能さには欠ける共和党候補が何人も落選していることから、勝利するのは、候補者のリーダーシップや有能さであり、仕事で成果を挙げるかどうかだと指摘している。

(注⑥ This Week’s Red ‘Waves’ – WSJ

投票率、郵便投票・期日前投票の増大
 最終的数字は未だ出ていないが、速報データによると、今年の中間選挙には有権者の約47%にあたる1億1,234万人以上が投票に参加した。全体数字は2018年の中間選挙に参加した有権者数を下回るものの、いくつかの州で投票率が歴史的な高さに達した(注⑦)。

 また、今回の選挙で、期日前投票と郵便投票により4200万人が投票し、2018年の中間選挙の場合の3910万人を上回った。他方で、郵便投票を含む集計規定が州毎に異なり、最終的な得票集計の遅れにつながる重要な要因の一つになっている。このため、中間選挙の前から、全米選挙管理委員会は、米国の選挙での遅延は予想されると国民に注意を促していた。またバイデン米大統領も11月2日の演説で、投票数がカウントされる間、市民が忍耐強くあることが重要だと警告している。

(注⑦ https://www.bbc.com/news/world-us-canada-63545194

各州が規定する集計作業
 2020年11月の米大統領選がコロナ禍の中で行われ、事前投票と併せて郵便投票が認められことから、投票総数が過去最大となった。しかし、その集計作業に遅れがあったことから、トランプ陣営が選挙に不正があるとの主張を繰り返した事情がある。

 地方分権が強い米国では、郵便投票を含む集計作業の規定を各州が決めており、日本のように一律ではない。開票作業が投票終了後すぐというのもあれば、投票翌日から集計開始という州もある。19州では、選挙日までに郵便で送られた(消印のある)投票用紙であれば、後から集計することができる猶予期間を設けている。例えば、大票田のカリフォルニア州では、投票用紙の受け取りは、投票日の後、丸1週間可能である。

 勝率が極めて低い場合に再集計が行われる。多くの州では、候補者の一方が要請した場合にも行われる。41州と首都ワシントンで、再集計を要請できる。22州には、自動再集計の規定がある。今回、一部州で、集計機器に不具合があったことも報じられている。さらには、ジョージア州の連邦上院議員選挙の場合、3人の候補者がおり、いずれの候補者も得票率が50%に達しなかったため、州規定により12月6日に決選投票を予定しており、同実施後に100人目の連邦上院議員が判明する。

トランプ前大統領が次期共和党大統領候補に名乗り
 中間選挙で多数の共和党候補を支援し、選挙終盤戦で姿を見せたトランプ前大統領は、11月15日の早い段階で24年の大統領選への共和党候補として名乗りを上げた。メディア報道によれば、トランプ前大統領は、中間選挙で自ら支援した候補が多数当選したと主張している。

 しかし、重要州の連邦議会と州知事の選挙でトランプ氏が支持した共和党候補者が敗れ、連邦議会と州議会の支配権を取り戻そうとする共和党に打撃を与えたため、共和党内部から、前大統領の影響力を党が乗り越えようとの呼びかけ(call for the party to move past the former president)が公然となされており、次期大統領候補としてデサントティス・フロリダ州知事などが有力視されているとの党内事情を11月11日付WSJ紙が報じている(注⑧)。

(注⑧ https://www.wsj.com/articles/trump-desantis-rivalry-takes-off-as-florida-governor-builds-2024-buzz-11668171621

 11月14日付 WSJ紙社説(注⑨)は「トランプの大統領選再登板 共和党は、民主党が倒せると分かっている人物を指名するのか?(Donald Trump’s Presidential Rerun Will the GOP nominate the man Democrats know they can beat?)」との見出し記事では、トランプ氏の出馬表明には2つの理由があり、(1)共和党内の他の有力候補とみられるデサンティス州知事などを共和党予備選から排除したい、(2)司法省によるトランプ氏起訴の動きに先手を打ち、トランプ氏が大統領の座を狙う候補として発表すれば、同起訴を政治的なものとして描け、共和党員を自分(トランプ氏)側に引寄せられると考えていると指摘する。なお、トランプ氏には連邦議会議事堂の襲撃事件への関与と自宅に政府秘密文書を保管していた容疑などで起訴される可能性が報じられている。

(注⑨ Donald Trump’s Presidential Rerun – WSJ

 WSJ紙11月9日付社説は「The DeSantis Florida Tsunami」との見出し記事(注⑩)で、デサンティス・フロリダ州知事が、同時に行われた州知事選でトランプ前大統領の支援なしで、民主党候補に20ポイントの大差をつけて再選されたことをビッグニュースと報じ、同知事が大きな勝利を収めたことで、かつての激戦州(swing state)フロリダにおける政治的変化が大きく、次期大統領を目指すキャンペーンを開始する可能性があると指摘している。

(注⑩ https://www.wsj.com/articles/the-ron-desantis-florida-tsunami-charlie-crist-governor-election-covid-11667964888?mod=MorningEditorialReport&mod=djemMER_h

外交への影響
 中間選挙では外交は争点となっていない。しかし、今回選挙で共和党が下院の過半数を占める結果に関連して、財政・経済問題のみならず今後のバイデン外交政策への影響について、以下指摘があり、留意すべきだと思われる(注⑪)。

1)ウクライナ支援の継続、予算追加について米議会で亀裂が入る。同支援資金を中国との競争や米国内の経済問題への取り組みに使った方が良いのではないかと疑問を呈する共和党議員が多くなり、支援縮小を求める声が強まろう。

2)中国との競争については、民主党も共和党も国家安全保障上の中核的優先事項であるとの立場で共通している。共和党は、今後、米台関係の強化や対中貿易障壁の強化など、より対立的な政策を推し進める可能性がある。

3)2021年8月、バイデン大統領が決断したアフガニスタンからの波乱に満ちた米軍撤退が、下院での新たな議会調査の焦点となる可能性がある。共和党は、米兵士とアフガニスタン人協力者を避難させるために十分かつ迅速に行動しなかったと非難している。

(注⑪ https://www.wsj.com/articles/what-gop-control-of-the-house-means-for-inflation-taxes-healthcare-11668681002?mod=livecoverage_web

最後に
 中間選挙投票の終了後、バイデン大統領はカンボディア、インドネシアを大統領就任後初めて訪問し、東アジア首脳会議、ASEAN首脳との会談、G20サミット等に出席している。G20サミット直前の11月15日には、バリ島でバイデン大統領と習近平総書記との間で初めての対面での米中首脳会談があり、大いに注目された。中間選挙で民主党が当初予想以上に健闘したことから、バイデン大統領の一連のサミット外交へも、一時的にせよ、弾みがついたと思われる。
 (令和4年11月19日記)