余談雑談(第126回)グローバル化と移民
元駐タイ大使 恩田 宗
日本で開催されたラグビー・ワールドカップ戦での日本代表チームは選手の半分が外国生まれだった。然し観戦初めてという日本人も違和感を持たず応援していた。外国人に慣れてきたのである。今、約146万人の外国人が日本で働いている。政府は5年で更に34万人増やす計画であるが永住(移民)は認めないと言う。優秀な人材確保のためには何れそんなことは言っていられなくなる。
日本チームの主将のリーチ・マイケルはニュージーランド生まれで15の時日本に留学しそのまま居残った。「日本で成長できたのだから」ラグビーでも日本のために闘うと言い日本国籍をとっている。他方、レバノン人女性がジャパンタイムズにこんな投稿をしている。外国人は日本人の仲間に入れてもらえないので自分達でグループを作り互いに国籍は違っても受け入れ合って心を支えている、先週酔った人に国に帰れと叫ばれたが謝ってくれる人も居た、時がくれば故国に戻るが日本は多様で素晴らしい国だとは思う、と。
移住者は出身国と移住国の何れにも属しきれずアイデンティティーが揺れる悩みを抱く。日本で生まれ日本に住み自分は日本人だとしか考えてこなかった日本人にはその苦しみは理解できない。グローバル化で人の移動が自由化すると複数国の文化に染まる人が増える。国や宗教で仕分けするアイデンティティーの観念は教育によりもっと複合的で巾のあるものに脱皮させる必要がある。
トランプ大統領(当時)は「未来はグローバリストのものではなく愛国者のものだ」と言って移民受け入れに反対している。「グローバリゼーション・パラドックス」(2011年)の著者D・ロドリックは、グローバル化と民主主義は同時には達成出来ない、グローバル化は所得格差を拡大させ社会の底辺の民衆が支持しないからである、グローバル化が機能するには全世界的民主主義政府が必要である、現状では最大の利益を引き出せるのは頑強な政府を持つ国で中国がその良い例である、民主主義国がグローバル化を進めるには節度と賢明さが求められる、と書いている。米国は移民の国であり元来移民に寛容な筈であるが節度をこえた状況になり移民にアレルギー反応をする人が増えているらしい。
大和朝廷は5~7世紀に言語・製鉄・織布・農業・土木建築等の分野で先進技術を持つ技能者を半島から多数受け入れ彼等を活用して国家を創設した。今の日本国は活動の継続に必要な人口を自力では維持していけない。他方周辺国には日本で働きたいという人が多くいる。移民受け入れに方針転換すべき歴史的局面に来ていると思う。アレルギーにならぬよう節度と賢明さをもって進める必要はあるが。
(注)このホームページに掲載された「余談雑談」の最初の100回分は、『大使館の庭』と題する一冊の書籍(2022年4月発行、ロギカ書房)にまとめてあります。