中国に関する24か国での世論調査結果から感じたこと

  
外務省参与・和歌山大学客員教授 川原 英一  

 米国の主要な世論調査団体Pew(ピュー)研究所が今春に実施した、中国についての世界24カ国における世論調査結果(注)が7月下旬に公表されました。中国を好ましいとみるかどうか(favorable or unfavorable)、中国の対外政策が相手国の利益を考慮しているのか、世界の平和と安定へ貢献しているか、世界経済をリードしているのは米国と中国のどちらか、などの設問に世界24か国の人々が中国をどう認識しているのかを調査した興味深い内容です。調査結果についてのグラフをみると、意外に思えるものがあります。
 個人的に注目した結果やその理由について、私見を織り交ぜながら御紹介致します。
 (注:出所「Pew Research Center’s Spring 2023 Global Attitudes Survey」; https://www.pewresearch.org/global/2023/07/27/views-of-china/

 この調査の実施時期は、米国が2023年3月下旬、残り23か国では、2月20日から5月22日の期間です。今回の調査にはアフリカと中南米の国々が含まれています。コロナの世界的流行により中断された2019年以来、4年ぶりの調査です。電話、対面、オンラインによるインタビュー調査方式で実施され、回答総数は30,861人です。
 なお、中国では、米世論調査会社が独自調査を行うことは規制されて実施出来ません。調査対象となった各国には、報道の自由があり、国民への自国政府の政策の透明性を確保する手段があり、他国の情報に直接に接することが可能であり、各国政府がこの調査に介入しないという条件で、実際されています。ロシアも同様の理由から今回の世論調査の対象に入っていないようです。

中国への評価

 調査対象24カ国全体としては、おおむね否定的です。全体の約3分の2(67%)が、「中国を好ましくない(unfavorable)」とみると回答し、「好ましい(favorable)」とみる肯定的回答は28%にとどまります。
 調査対象の欧米12か国中、半数以上の国が、中国に対し「やや好ましくない」もしくは「非常に好ましくない」と考えていると回答しています。
 否定的な見方が多いのは、スウェーデン(85%)で、次いで米国(83%)、カナダ(79%)、オランダ(77%)、ドイツ(76%)と続きます。これら5か国では、4分の3以上が、好ましくないとの見方をしています。人権意識の高い欧米各国の国民がこのような回答するのは当然のようにも思われます。

 残る欧州7か国の中で、「中国は好ましくない」は、仏が72%(他方、「中国が好ましい」との見方は22%)、英69%(同27%)、ポーランド67%(同21%)、スペイン66%(同28%)、イタリア58%(同36%)、ギリシャ51%(同40%)、ハンガリー50%(同、42%)となっています。

【5年前の調査結果との比較】
 2018年春のコロナ禍前に実施された世論調査での同項目についての結果を世界的にコロナ禍が落ち着いた今春時点の調査と比較してみますと、この5年間で中国への評価が劇的に変化した国が多くなっています。
【「中国は好ましくない」の回答率が、30ポイント以上も増加した7カ国(カッコ内は%の変化)。
豪:40ポイント増(47→87)、米国:36増(47→83)、カナダ:34増(45→79)、英:34増(35→69)、スウェーデン:33増(52→85)、オランダ:32増(45→77)、ポーランド:30増(37→67)】

【以下5か国では、「中国は好ましくない」が22ポイント~15ポイント増加。
独:22増(54→76)、仏:18増(54→72)、スペイン:18増(48→66)、韓国:17増(60→77)、ブラジル:15増(33→48)】

 因みに、日本は9ポイント増(78→87)です。インドは前回調査数字がありません。

【逆に、「中国は好ましい」との回答が、顕著に増えたのは2カ国です。
ナイジェリア:19ポイント増(61→80)、メキシコ:16ポイント増(41→57)】

(参考)https://www.pewresearch.org/global/2018/10/01/international-publics-divided-on-china/

 変化した理由についての私見ですが、欧米では、チベット、新疆や香港での基本的人権の抑圧が長年にわたり指摘される中国は、東・南シナ海での力による現状変更の動きを強化し、昨年2月にウクライナを侵略したロシアと制限なき協力関係にあること、昨年8月の台湾への軍事的威圧を行うなど多くの情報に接し、中国を「好ましくない」との意識が調査対象の各国で高まったものと思います。
 2021年のG7(先進国首脳会議)英コーンウォールサミットから、今年のG7広島サミットまで、毎回、中国が主要テーマの一つとして討議され、G7として結束、連携して中国に対応することを首脳宣言で確認しているのは、この欧米世論の見方と軌を一にした動きに思います。

 アジア太平洋の調査対象5か国中、中国が「好ましくない」との見方は、豪と日本が共に87%です。次いで韓国の77%、インドは67%となっています。5年前から劇的に変化した豪については、20年4月、モリソン豪首相(当時)が、コロナ発生源への独立調査を提案したことに中国が反発し、豪州産牛肉輸入の停止、豪産大麦への高率輸入関税を実施するなど経済威圧や中国駐在の豪報道関係者を強制的に退去させたなどから、豪国民の対中感情が大いに悪化した結果だと思います。

 インドは、米国や日本とのパートナーシップを維持しつつ、ロシア、中国の両国との外交関係も重視しています。中・ロが創設メンバーであるSCO(上海協力機構)の今年の議長国であり、またG20の今年議長国です。インドで、中国の評価が67%対26%で「好ましくない」との見方が多いのは、2020年夏のインド北部の中国との国境地帯で死傷者を出した軍事衝突以来、緊張した関係が続いているためではないかと思います。

 アジア地域の対象国中、唯一インドネシアでは、「中国を好ましくない」と見るのは、25%とかなり低く、逆に、「中国を好ましい」と見る人が49%あり、「好ましくない」との見方のほぼ倍です。

 経済成長のためのインフラ・エネルギー開発が課題であるインドネシアが、中国の一帯一路構想に参加して、2018年頃から中国の支援を得ています。 最近(今年7月下旬)も、ジョコ大統領が訪中し、両国首脳会談では、一帯一路がジャカルタ・バンドン高速鉄道などで大きな成果をあげていることを強調しています。この結果は意外ではないと思います。但し、回答していない人が26%います。中国支援プロジェクトに伴う問題点(環境配慮、債務の罠など)についてインドネシア国内で議論もあるようです。

 中南米3か国(ブラジル、アルゼンチン、メキシコ)の見方は様々です。メキシコ人の過半数(57%)は「中国を好ましい」と見ており、「好ましくない」と回答したのは33%です。 ブラジルでは、逆に、「中国は好ましくない」との意見が48%あり、逆に、好ましいと回答した比率は39%です。アルゼンチンでは、中国が好ましいとの意見が41%にあるのに対して、好ましくないとの見方は34%で、3か国の国民の間で意識の差がみられます。

 ブラジルとアルゼンチンのように中国が貿易相手国1位、ないし2位(メキシコ)の国では、中国との貿易・経済関係が良好なことから、中国を好ましいと感じる人が多いのではないかと思います。ブラジルは対中貿易が中南米の中で最も大きいのですが、反中国で米国に近い立場をとるボルソナロ前大統領の影響が大きかったため、「好ましくない」との見方が多くなったのではないかと思います。しかし、今年1月に就任したルーラ大統領は、ボルソナロ前大統領とは異なり、中国との政治・経済関係を重視し、4月に訪中して、反米路線で中国と結束した動きもみられますので、今後はブラジル人の中で、中国を好ましいとみる比率が高まる可能性があります。

 メキシコは、隣接する米国と、米・メキシコ・カナダ自由貿易協定(USMCA)のメンバーであり、米国との経済・貿易関係が緊密です。メキシコで「中国が好ましい」との見方が57%と過半数を超えたのは、別の理由がありそうです。

 中国に対する好意的な見方は、調査対象のサハラ以南のアフリカ3か国で最も高くなっています。中国への原油・鉱物資源が輸出の太宗をしめるナイジェリア(80%)、鉄道事業などで中国の支援を得ているケニア(72%)では、中国に好意的な意見の割合が高く、他方、好ましくないとの否定的見方は、各々、15%、23%に留まっています。南アフリカでは49%が好意的、40%が否定的な見方でした。

中国の対外政策は、相手国の利害を考慮していない

 中国が対外政策を決定する(international policy decision making)際、「相手国の利益を考慮していないと回答したのは、全体平均で76%と高い比率です。逆に、中国が相手国の利益に配慮しているとの回答は22%です(なお、この設問への回答対象者は、ソーシャル・メディア利用者になっています)。

「中国が相手国の利益を考慮していない」との見方が最も強いのは、スウェーデンの93%であり、次にオランダ(89%)、韓国及び豪(共に87%)、スペイン(86%)、日本と仏(共に85%)、英国とカナダ(共に82%)、イスラエル(81%)、ギリシャ(79%)、米国(77%)の順です。

 逆に、相手国の利益を考慮するとの肯定的見方が過半数を上回ったのは、ナイジェリア(71%)、ケニア(64%)、南ア(56%)、インドネシア(53%)の4か国のみです。調査対象となったサハラ以南アフリカ3カ国のいずれも「中国を好ましい」と評価しており、同地域での中国の影響力の大きさを感じます。

 中南米3カ国では、半数以上の人が、中国は相手国の利益を考慮していない(アルゼンチン61%、メキシコ53%、ブラジル50%)と回答しています。
 なお、メキシコとブラジルでは、中国が相手国の利益を考慮しているとの回答が、共に44%と比較的高くなっています。

中国は、世界の平和と安定に貢献していない、との見方が大半

 24か国全体平均では、71%の人が、「中国が世界の平和と安定に貢献していない」とみています。特に、欧米6か国、及び韓国・日本・豪州では、8割以上がこの見方を回答しています。
 逆に、「中国が世界の平和と安定に貢献している」と見ているのは、全体の23%にとどまっています(残り6%は回答なしで、表示がされていない)。
 平和と安定に貢献しているとの回答比率が高い国は、ナイジェリアの68%で、次いでインドネシアの54%、ケニアの51%。南アの47%です。

 韓国では、2022年5月、これまで北朝鮮へ融和政策をとり経済支援を進めた文在寅前政権から変わった尹(ユン)新政権は、中国の台湾海峡や南シナ海への強硬な対応を、尹韓国大統領が公に批判して、米韓同盟を重視する立場を鮮明にしています。
 このような外交政策が異なる与野党間の政権交代が韓国の世論形成に与える影響も大きいのではないかと思います。

米国と中国のどちらが世界経済をリードしているのか?

 欧州諸国14か国中で、世界をリードする経済国家は米国と中国のどちらかと問われて、中国だと回答した国は半数です。中国との経済的結びつきが強いことが背景にあるように思います。

 中国の一帯一路構想に2019年から参加したイタリアが55%と最も高く、次いで、スペインとギリシャでは共に48%です。興味深いのは、仏では中国と米国と回答した比率が、各々43%で同じです。英国も同様に各々40%です(なお、回答しない分の比率は、表示されません)。
 注目されるのはドイツです。中国が世界経済をリードしているとみるのは43%あり、米国がリードしていると見る比率34%より9ポイント上回っています。
 長年、独政権の舵取りをしてきたメルケル前首相は、中国との経済関係を重視して、毎年のように同首相自らが経済ミッションも同行して訪中していた事情が、この意識調査結果に少なからず反映しているのではないかと感じます。

 豪州も50%が中国を世界の経済をリードしているとみており、米国と答えた(39%)を11ポイント上回っています。やはり貿易相手国として米国より中国の重要度が高い事情が反映していると思います。
 米国を卓越した経済大国と見る国の中で、断トツの83%である韓国では、中国とみる比率は8%で、その差は75ポイントと大きな差があります。他にも日本(64対22で42ポイント差)、イスラエル(41ポイント差)、ポーランド(41ポイント差)と、40ポイント以上の大差で米国を選んでいます。

興味深いのは、米国での調査では、米国が世界経済をリードしているとの回答が48%あり、中国が世界経済をリードしているのは38%となっていて、現状認識における健全さも感じられます。

 コロナの影響をうけた2020年の中国のアフリカ全域との物品貿易総額は1860億ドル超(約26兆円)で、アフリカの貿易相手国のトップです。ナイジェリアは、アフリカにおける「中国の主要な戦略的パートナー」と王毅・中国国務委員兼外交部長(当時)が21年1月、ナイジェリア訪問中の記者会見で述べていて、鉄道インフラや衛星打ち上げなど協力を進めています。南ア、ケニアも似た事情にあるようです。

最後に

 2020年、コロナ禍の中、コロナ発生源に関する情報開示など対応が遅れた中国政府が、欧州諸国にマスクなど防護具や医療機器を欧州各国に提供して、在外中国大使館が、救世主の中国へ各国から賛辞を送るよう求める情報発信を行い、提供した防護具などに不良品があると受入国から指摘されると民間企業の製品だとして政府の責任を回避する発言があったと記憶しています。また、WHO(世界保健機構)に対して、同年4月、豪が発生源への独立調査を求めたのに対して中国政府が反発し、豪に対する農産品の輸入停止など経済的威圧を行っています。さらにコロナ発生後、1年以上の遅れで中国がWHO調査チームを受け入れた際、中国が透明性に欠ける対応をしたため、WHOのコロナ対応が混乱する状況もありました。こうした事情も欧米、日本、豪などで「中国が好ましくない」との見方が極めて高い理由ではないかと感じます。

 調査結果への私見として指摘しましたように、ドイツ、イタリア、ブラジルなどでの新政権誕生により、対中政策の変更があれば、中国への見方が変化します。又、G7広島サミットでは、グローバル・サウスへの支援に向けたG20との連携を謳っています。今後、具体的な連携・実施が進めば、一帯一路構想に参加して、プロジェクト建設を受け入れてきた新興国・途上国の中でも、中国への見方が変化する可能性もあります。
 対象国の事情から調査できない国もありますが、中国について世界各国の人たちの現状認識・見方を幅広く教えてくれる本調査は貴重であり、今後の調査結果にも注目したいと思っています。
(平成5年8月10日 記)