<帰国大使は語る>潜在力の大きい南部アフリカの国・ナミビア


前駐ナミビア日本国大使 原田秀明

 2018年4月より2022年4月まで駐ナミビア大使を務めて最近帰国した原田秀明大使は、インタビューに応え、ナミビアの特徴と魅力、在任中に経験したことや力を入れて取り組んだこと、日本との関係とその展望等について以下のとおり語りました。

―ナミビアはどんな国ですか。その魅力は何ですか。

 ナミビアの国名は、海岸地域に広がるナミブ砂漠に由来し、「ナミブ」とは先住民の言葉で「何もない」との意味の由です。国土は日本の約2.2倍ありますが、人口は約250万人で1平方キロメートル当たりの人口が3人と、世界でも人口密度の低い国の一つです。気候は、亜熱帯気候に属し、首都ウィントフックの位置する中央部は標高1,650メートルの高原のため、雨期と乾期に分かれるものの、一般的に乾燥した気候を有しており、年間を通して比較的しのぎやすい気候です。また、ナミビアは、世界最古の砂漠と言われるナミブ砂漠、ドイツ植民地時代の街並みが残るスワコプムント、北部のエトーシャ国立公園等観光資源も多く、ヨーロッパや南アフリカをはじめとする近隣国からの旅行者が年間約150万人以上訪れています。

(写真)ナミブ砂漠

 ナミビアは、1884年「南西アフリカ」としてドイツの保護領となり、その後1914年南アフリカ軍の侵攻・占領を受け、第一次世界大戦後の国際連盟の発足と共に南アフリカの委任統治下におかれました。そして、1990年3月に南アフリカからの独立を果たし、アフリカ大陸の中でも南スーダンに次ぐ新しい国です。

 独立以降のナミビアは、一貫して民主的な選挙を通じて政権が維持され、今日に至っています。民主主義の定着とともに、言論の自由、報道の自由が確保され、サブサハラ・アフリカ地域における安定国家として評価されています。外交については、独立闘争時に支援を得た旧ソ連(ロシア)、キューバ、中国等との友好関係を維持しつつも、安保理決議435に基づき国際連合ナミビア独立支援グループ(UNTAG)の支援により国の独立を達成し得たとの観点から、国際場裡においては、国連重視、非同盟、多国間主義を標榜した外交を展開しています。

 経済については、ウラン、ダイヤモンド、銅、金、鉛、亜鉛等の地下資源に恵まれ、主に鉱業、農業、観光業に依存しています。2015年までは毎年5%以上の経済成長率を維持し順調に経済発展を遂げてきましたが、一次産品価格の低迷、継続する干ばつ被害により、2016年以降は1%以下、むしろマイナス成長に低迷し、加えて新型コロナ感染症の影響を受け、2020年の経済成長率はマイナス8.5%に落ち込みました。また、一人当たり国民総所得(GNI)は4,500米ドル(2020年:世銀)で高中所得国に分類されるものの、20%の富裕層がナミビアの富の60%以上を占有しているとされ、所得格差が著しく、更に、失業率は33.4%(2018年:ナミビア国家統計局)、特に若者の失業率は50%以上とされ深刻な課題を抱えています。

 我が国との関係では、1990年3月の独立直後に外交関係を結び、2010年に在京ナミビア大使館が設置され、2015年首都ウィントフックに我が国大使館が開設されました。

 ナミビアはこのように、新しい国ですが、地下資源、水産資源及び観光資源を有する経済発展のポテンシャルの高い国です。

―在任中に経験された大きな出来事や特筆すべき事柄はありますか。

 まずは、2019年のラグビー・ワールドカップ日本大会で、ナミビアがアフリカ代表として参加し、日本国内を転戦する中で各地の日本の方々と交流を深めました。特に、釜石で予定されていたナミビア・チームの予選最終戦が台風でキャンセルになった直後に、ナミビア選手は被災地域に入り、現地コミュニティーの方々を激励したとの感動的な出来事がありました。また、昨年の東京五輪パラリンピックでは、女子五輪陸上選手(200メートル)が銀メダルを獲得、男子パラリンピック陸上選手(400メートル)が銀メダルを獲得する等して、ナミビア国内でも大いに盛り上がりました。私自身も選手団の壮行会や壮行レセプションを主催し、関連イベントにも積極的に参加しました。こうした、国際スポーツ大会を通じた交流が、二国間の相互理解につながり、ナミビアにおける日本の認知度を高めることができたと考えます。

 そして、2019年の第7回アフリカ開発会議(TICAD7)の際には、ガインゴブ大統領がナンディ・ンダイトワ副首相兼外務大臣他閣僚を伴って訪日し、安倍総理(当時)との二国間首脳会談が実現しました。要人の往来の機会が限られているアフリカの国にとって貴重な首脳間の直接対話の場となりました。その意味で、日本の対アフリカ外交の柱となっているTICADはマルチの国際フォーラムに留まらず、アフリカ諸国との二国間関係強化の面でも極めて有効な、かつ貴重なツールとなっています。

 なお、ここ2年以上に及ぶ新型コロナウィルス感染症は、二国間外交関係を含め様々な負の影響を与えてきましたが、ナミビアにおいては、政府の努力もあってその影響は最小限に抑えられたのではないかと思われます。ナミビア国民も、新型コロナ対策として政府が講じた措置・ルールを守ってきたことがその一因だと思われます。例えば、マスクの着用に始まり、ショッピング・モール等への入場に際しても入り口での検温、手消毒等が厳格に実施されていたことは印象的で、ナミビアの国民性の一端を表す例だと考えます。

―ナミビアと日本との関係はどのようなものですか。今後の展望はいかがですか。

 ナミビアにおいては、国内を走っている車の多く(80%以上と言われる)が日本車であること等から、日本と言えば自動車生産を始めとして高い技術力を有する工業化された先進国とのイメージが持たれているものの、日本についての一般的理解、認知度については残念ながら未だ限られたものであるとの印象です。在留邦人は大使館員・家族、JICA関係者を中心に約50人、駐在する日本人ビジネスマンはゼロといった状況です。

 経済関係については、合弁会社が6社にとどまり、そのうちマルハニチロ及びカネダイの水産会社二社が、それぞれウォルビスベイ沖でエビ・カニ等の漁獲に従事しています。なお、日本の皆さんにお馴染みの正月のおせち料理に入っている伊勢エビの多くがナミビア産であることはご存じでしょうか。ただし、こうした水産業分野の活動を除けば日本企業の活動は残念ながら限られています。

 日本の経済協力に関しては、ナミビアの一人当たりGNIが4,500米ドルと高中所得国に入ることから、いわゆる一般無償資金協力の対象となりません。従って、二国間経済協力は、草の根・人間の安全保障無償資金協力を駆使して、選択と集中により小中学校の教室建設に注力しており、毎年7から8校に支援を行っています。また、海外協力隊員が約20人派遣されており、大半が小中学校での教員として活躍しています。このように、日本は教育分野を中心にナミビアの人的資源開発に協力しています。また、干ばつ被害、新型コロナ被害への支援の一環で、食糧援助、医療機材供与を実施してきています。その他、保健、教育、農業分野でUNICEF、WHO、UNDP等国際機関を通じたマルチ・バイ協力も積極的に実施しています。

 国際場裡においては、日本とナミビアは共通の認識を有し協調できる分野が多く、例えば国連安保理改革問題、NPT(核兵器不拡散条約)交渉等では良きパートナーとして協働しています。国際選挙等についても、大阪・関西万博の誘致や国際司法裁判所(ICJ)判事、万国郵便連合(UPU)事務局長選挙等々、ナミビアは、ほとんどのケースで日本を支持してくれており、頼りになる友好国です。

―大使として在任中、特に力を入れて取り組まれたことは何ですか。

 日本の認知度が低いこともあり、日本を知ってもらい、関心を持ってもらうために、兎に角、様々なイベントに積極的に出席し、日本のプレゼンスを高める努力を行いました。草の根・人間の安全保障資金協力による学校教室建設支援プロジェクトの署名式あるいは引渡式には、必ず教育大臣他と出席し、支援対象の小中学校の生徒、教師、父兄等現地コミュニティーとの交流にも努めました。結果、私はナミビア14州のうち13州に出張しました。また、各種経済協力プロジェクトの署名式、引渡式等には、広報活動に長けたUNICEF、WHO、UNDP等の国際機関の協力を得つつ、現地TV、新聞等のメディアを招待し、日本のプロジェクトであるとの広報にも努めました。また、ナミビア政府が主催するオングェディバ物産展(毎年、ナミビア大統領が出席)、外交団婦人会が主催するバザー等にも、毎回、日本大使館として出展し、外交団婦人会バザー等に際してはナミビア剣道連盟に演舞で参加してもらう等々、あらゆる機会を捉えて広報活動、日本文化の紹介事業等を行いました。更に、首都ウィントフック市内の映画館や、ナミビア大学、ナミビア科学技術大学での日本映画上映会等を地道に、かつ、積極的に実施しました。

(写真)エルワ特別支援学校引渡式

 なお、今後の課題としては、二国間経済関係の強化が挙げられます。ナミビアは経済発展のポテンシャルが高いこと、ナミビア政府としても日本との貿易・投資の拡大に高い期待を有していることに鑑み、私は、まずは、日本企業にナミビア経済の現状、投資環境等について理解してもらうことが最も重要だと考え、南アフリカのヨハネスブルグに行き、JETROの協力を得て在南アフリカ日本商工会議所所属の日本企業に対する説明会等を行いました。日本企業自らがナミビア経済の実態、ポテンシャル、課題等を把握し投資、貿易の拡大の可能性を探ることが期待されるところ、引き続き、TICAD官民合同ミッションの派遣、その他経済ミッションのナミビア訪問を実現していて行く必要があると考えます。

―在外勤務を通じて強く感じられたことはありますか。

 アフリカは生活・勤務環境が厳しいところが多く、アフリカ公館での勤務を積極的に希望する人は多くないと聞いています。しかし、アフリカでの勤務はやりがいがあり、外務省でのキャリアパスにつながる大きな機会を提供してくれることとなると訴えたいと思います。アフリカにおいては、小規模公館が多く館員一人一人に任される業務の責任、範囲、業務量が大きいと言えます。また、相手国政府からの日本に対する期待も高く、その意味で、館員一人一人が主体的、能動的に取り組めば確実に成果が出せる、引いては二国間友好関係の拡大につながると考えます。外交官としてのやりがい、達成感もひとしおであるというのが、私の実感です。ついては、外務省職員には、もっと、アフリカに関心を持ち、アフリカを好きになってもらいたいと考えます。その延長で、必ずや、外務省職員としてのキャリアアップが図れると考えます。
 また、外務省としても、アフリカの厳しい勤務環境に即した職員のための各種支援措置を今後とも充実させていくことが、アフリカで勤務したいと考える職員を増やすために必要不可欠であると考えます。

(写真)ガインゴブ大統領との会談