東ティモール(平和構築を経てASEAN加盟へ)


駐東ティモール大使 木村徹也

1.平和構築を経てASEAN加盟へ
 本年10月26日、東ティモールは、2002年の独立回復から23年を経て、正式にASEAN加盟国となりました。筆者は、独立回復前の2000年当時、インドネシア大使館に在勤し、首都ディリに開設された大使館リエゾン・オフィスに度々出張しました。当時のディリで多くの建物が焼け崩れた状況を目の当たりにしましたが、まさに「ゼロ」からの再出発を経て、同国がASEAN正式加盟までたどり着いたことを感慨深く思います。
 同国は、国連PKOから政府への権限委譲を経て民主主義及び平和の定着、治安の安定を達成した、平和構築の好例とされています。一方で、同国は産業が未発達で、貧困等の課題も抱えています。本稿では同国の歴史を振り返りつつ、東ティモールのASEAN加盟の意義を考えたいと思います。

2.東ティモールという国
 東ティモールは、豪州の北方約600㎞に位置するティモール島の東半分を占め、岩手県と同じ位の大きさを持つ島国です。国民のほとんどがカトリック教徒で、昨年、教皇フランシスコ(当時)が当国を訪れた際には多くの人々が首都に集まりました。また、朝日や夕陽が美しく、日本と同じくTimor-Lorosae(日の昇る国)と言われます。美しい海に囲まれており、世界有数のダイビングスポットもあり、ジュゴン、海亀、季節によっては鯨が見られます。
 また、同国は、太平洋において海上交通路の要衝に位置し、自由で開かれたインド太平洋(FOIP)の実現を図る上で重要なパートナーとして、民主主義、人権、法の支配といった基本的価値を共有する我が国の友好国です。

3.歴史的背景
 東ティモールでは、長いポルトガルによる植民地時代を経て、1975年、ポルトガルでの革命を機に独立派フレテリン(東ティモール独立革命戦線)が独立を宣言しますが、程なくインドネシアが侵攻し、同国の統治下に置かれます。この後も独立闘争は続きますが、1998年にインドネシアのスハルト政権が終焉を迎え、国際社会においても独立支援の機運が高まる中で、1999年に国連を中心に平和構築の取り組みが開始されました。2002年の独立回復後、一時国内的な対立により治安が不安定になる時期がありましたが、治安の回復後は、大統領選挙、議会選挙に基づく政権交代が平和裡に行われており、民主的制度が定着しています。

4.積極的な外交活動
 独立回復後、同国のリーダー達がインドネシアとの和解を推進してきたことが東ティモールの安定に大きく寄与しました。小国である東ティモールは、インドネシアや豪州という隣国との関係を強化しつつ、全ての国と友好関係を維持するとの全方位外交を基本方針にしています。更に、ポルトガル語圏諸国共同体(CPLP)との連携や脆弱国のネットワーク(g7+)にも積極的に参加しています。同国は、独立闘争を国内で率いたシャナナ・グスマン現首相、海外で国際的な支援獲得に奔走し、ノーベル平和賞を受賞したラモス=ホルタ現大統領の国際的知名度やネットワークを最大限活用し、積極的な外交活動を行い、我が国を含め多くの開発パートナーを獲得する等、外交巧者と言えます。こうした外交努力も背景にあり、ASEAN諸国から信頼を得、想定されたよりも早くASEAN正式加盟に漕ぎつけました。

5.東ティモールの課題と我が国の開発協力
 一方で、東ティモールは独立回復後23年の「若い国」で、開発途上にあり、引き続きASEANへの統合のための努力を継続する必要があります。まず、制度構築や人材育成を通じた政府の機能強化が重要です。また、産業が未発達で、豪州との間の海域で生産されてきた天然ガス・石油による財政収入への依存、多くの物資の輸入への依存、若者の失業といった課題に直面しています。人口が増え、若者が人口の多数を占める中で、若者は海外労働に活路を求め、海外労働者からの送金が収入の柱の一つとなっています。
 このため、主要産業である農業・漁業を近代化し、美しい自然を活用し、観光業を促進するとともに、製造業を含む民間投資の促進により産業を多様化することが不可欠となっています。また、これまで収入源となっていた天然ガスの生産が既存のガス田の枯渇により止まっており、政府財政を支えてきた石油基金が新たな収入を得られなければ枯渇することから、新規ガス田(グレーター・サンライズ・ガス田)開発が必要となっています。
 こうした状況を踏まえ、我が国は、東ティモールの将来の開発に向けて、ASEAN正式加盟後を見据えた持続可能な成長及び開発の基盤づくりに協力することを基本方針としています。
 第一に、経済成長のための基盤強化及び産業の多様化を支援しています。港湾、道路、水供給といった基礎インフラ支援をディリ及び地方で行ってきており、ディリ国際空港の改善事業(旅客ターミナル建設)を進めています。環境・防災対策にも力を入れており、災害復旧、森林保全、再生可能エネルギー活用に協力しています。主要産業である農業について、灌漑施設を建設し、周辺農民の米作りの生産向上等を支援してきており、漁業分野でも沿岸漁業の手法や流通を改善するための事業を行っています。
 第二に、教育や保健等の社会サービスの機能強化を通じて貧困や子供の栄養の問題等への対応が必要です。このため特に母子保健に力を入れており、国立病院での新病棟の建設や地方の産科施設の新設・改修を行っています。
 第三に、ガバナンスの強化のために法制度支援や海上警察等の制度構築、JICAによる各種研修、公務員や研究者を含む留学制度等も活用し人材育成に取り組んでいます。
 更に、同国では人口の大半が地方の農村、漁村に居住しており、地方開発も重要な課題です。我が国は、草の根人間の安全保障無償協力により全国で148件にのぼる学校、保健所、水施設、障害者施設等の建設を支援しています。また、我が国のNGOが長年にわたり、地方で保健、栄養に関わる活動を行ってきた他、農業手法の改善を通じ農民の所得を増やし、生活を改善していくために、日本にも輸出されているコーヒー栽培や地元産品を使った農産加工品の製造、女性グループによる野菜作りや生花栽培を支援しています。
 こうした事業を通じ具体的な成果を生むためには、援助の現場での粘り強い、日々の協力が鍵となります。JICA専門家、JICA海外協力隊員やNGO関係者などが継続的に地元の方々と共に活動することにより、現場での自発的な変革を促していくという我が国の支援のあり方が東ティモールでは特に有用であると感じます。

(日本NGO連携無償資金協力)
女性の生計向上を通じた子どもの栄養改善事業の事業地を視察

6.日・東ティモール関係
(1)独立回復闘争時代
 1975年に始まる独立回復闘争を日本の市民団体の方々等が支援されてきたことから、今なお多くの東ティモールの方々から当時のお話を伺います。独立闘争時代をテーマにした「抵抗博物館」には、日本の支援者から贈られた衛星電話が展示されています。
(2)平和構築支援
 転機を迎えた99年以降日本政府は平和構築に向けた支援を積極的に行ってきました。同年8月の住民投票実施のために国連の活動を支援し、その後、治安維持のためのINTERFET(多国籍軍)派遣国連安保理決議を米国や豪州とともに推進し、INTERFETに開発途上国の部隊が参加できるよう国連基金に1億ドルの拠出を行いました。12月には東ティモール復興支援のための第一回ドナー会合が東京で開催されています。また、2002年の独立回復に向けて我が国からPKO施設部隊が派遣され、同年4月には小泉総理(当時)が東ティモールを訪問しました。その後も我が国は主要ドナーとして同国の国造りに寄り添ってきました。
(3)包括的パートナーシップ
 平和構築プロセスを経て開発フェーズに移行する中で、我が国は同国との協力を拡充してきました。2023年12月には、東京で開催された日ASEAN友好協力50周年特別首脳会議にオブザーバーとして参加したシャナナ・グスマン首相が岸田首相(当時)と首脳会談を行い、両国の協力関係を「包括的パートナーシップ」に格上げし、幅広い分野で協力を拡充することに合意しました。また、2025年8月、大阪関西万博ナショナルデーの機会にラモス・ホルタ大統領が訪日し、石破総理(当時)と会談を行い、両国は包括的パートナーシップを一層強化すべく、安全保障や経済分野等での二国間協力を更に進め、地域・国際社会の諸課題についても連携を深めることを話し合いました。
(5)ASEAN加盟支援
 我が国は、長年にわたり東ティモールのASEAN加盟を支援してきました。2013年にASEAN加盟のための課題を整理した報告書をJICAが作成し、同国政府が活用してきました。また、加盟準備が本格化していく中、ASEAN事務局等での研修、ASEAN主要文書のテトゥン語・ポルトガル語への翻訳、ASEANの主要課題をテーマにASEAN加盟国講師等によるワークショップを行っており、今後もASEAN統合を後押していく予定です。
(6)民間投資
 経済分野では、対東ティモール投資に関心を示す日本企業が増加しており、造船業や太陽光発電プラントなどにおける具体的な動きにつながっており、雇用創出、地方振興、貿易赤字の改善などにより経済構造改善に寄与することが期待されています。
(7)安全保障分野の協力
 東ティモール国軍の能力構築のために2015年よりハリィ・ハムトックと呼ばれる施設部隊合同演習を米、豪、NZとともに行っている他、これまで17名が日本の防衛大学校を卒業、海上自衛隊の艦船が3度同国に寄港する等、国軍との交流を行っています。現在、同国向けでは初となる政府安全保障能力強化支援(OSA)の実施に向けて準備が進められています。

海上自衛艦「むらさめ」のディリ港寄港

(8)人的交流
 2023年に技能実習生の日本への派遣が始まり、60名を超える若者が活動しています。農業、観光分野から始まり、造船、建設、漁業などに拡大しています。日本側の関心も高く、今後徐々に派遣が拡大していくものと思われます。
 学術分野でも長年にわたりJICAが東ティモール国立大学(UNTL)工学部を支援しており、大学間の交流が拡大しています。日本語学習者も増えており、UNTLにおいて日本語クラスを基礎に日本研究が発展していくことが期待されています。
 これまで1400人以上の東ティモールの若者がオンラインも含め我が国との交流プログラムJENESYSに参加しています。毎年数十名の東ティモールの若者が日本を訪れ、日本の若者も継続的に同国を訪れています。今後、ASEAN正式加盟を機に次世代交流がさらに拡大することを希望します。

7.ASEAN加盟を機会に更なる発展を
 10月26日、マレーシアで開催されたASEAN首脳会議で東ティモールの正式加盟が決定され、その後行われた日・ASEAN首脳会議の席上、高市首相はシャナナ・グスマン首相に加盟への祝意を伝え、協力を確認しました。

シャナナ・グスマン首相にASEAN加盟への祝意を伝える高市総理大臣(官邸ホームページより)
https://www.kantei.go.jp/jp/104/actions/202510/26asean_2.html

 29日、マレーシアから帰国したラモス=ホルタ大統領、グスマン首相は、国民から大歓迎を受け、国中がASEAN加盟の喜びに溢れる中、大統領府で祝賀行事が行われました。祝賀行事では、大統領や首相が演説に立ち、ASEAN加盟を好機と捉え、国の発展のために努力することが重要で、これからがまさに本番であるとし、ASEANへの統合に向けた国民の努力を強く求めました。特に、グスマン首相は若い世代に、国に頼るのではなく自ら海外から学び、その経験をビジネスや雇用の創出等を通じ国造りに活かすよう呼びかけました。
 東ティモールのASEAN加盟は、同国及び東南アジア地域に新たな価値を生み出す機会を提供します。自ら独立回復を達成し、民主主義、人権、法の支配を重視する東ティモールがASEAN内やパートナーとの議論に積極的に参加し、地域の平和、安定や繁栄に寄与することが重要です。また、同国にとってASEAN諸国との人的交流、貿易や投資の拡大を活用する絶好の機会であり、民間投資の拡大や産業の多角化への取り組みを強化することが望まれます。この国のリーダーが指摘するように、東ティモール政府、国民が、ASEANへの統合に向けて、様々な課題に正面から向き合い、これらを克服していくことが重要です。我が国も同国の持続可能な開発に寄り添い、ASEAN統合を後押しし、同国との協力を強化していきます。
 東ティモールは、美しい海や山に恵まれ、将来を担う若者の人口比が高く、可能性を秘めた国です。温和で人懐っこい人柄や目を輝かせる子供達の明るさにも惹かれ、長年この国に住み、あるいは、何度も同国を訪れ、この国の開発や交流に携わる多くの日本の方々にお会いしました。ASEAN正式加盟を機に東ティモールが持続可能な発展に向けて更なる一歩を踏み出すことを希望してやみません。(了)