労働力不足と外国人労働者


前駐ベトナム大使、元駐ブラジル大使 梅田邦夫

1.はじめに

(1)現在、筆者は外国人労働者問題に関連して「外国人材共生支援全国協会(NAGOMi)副会長」、「中南米日系人連携担当大使(外務省参与)」と「海外日系人協会理事」を務めている。

(2)NAGOMIは、監理団体の全国組織になることを念頭に、2020年10月に次の3つの目的で設立された。
 ① 迎え入れる若者たちの立場に立って受入れ政策を確立すること
 ② 技能実習と特定技能制度を一貫性・整合性ある制度にすること
 ③ 悪質なブローカーや企業・団体から外国人材を守り、健全な企業に配属される就労システムを定 着させること

 役員は、武部勤会長(元自民党幹事長)、副会長は塩崎恭久元厚労大臣と筆者を含めた計3名が務めている。全国8ブロックの支部があり、会員数は約180(22年6月末現在)である。

(3)この寄稿文では、①外国人労働者の現状と今後の動向、②古川法務大臣の発言(7月28日)、③技能実習と特定技能の実態、改革に関する新提案、そして④日本で働くことを希望する日系4世の長期滞在(2018年開始)の現状とブラジル日系5団体からの要望について説明したい。

2.「外国人労働者」の現状

(1)国籍別

 日本在住の外国人労働者数は、この10年間で約2.5倍増(2011年69万人→21年172.7万人)。外国人を雇用する事業所数も約2.4倍増(2011年12万事業所→21年28.5万事業所)となった。

 国籍別にみてみると、2021年10月現在、①ベトナム45.3万人、②中国39.7万人、③フィリピン19.1万人、④ブラジル13.5万人、⑤ネパール9.8万人、⑥韓国6.8万人、⑦インドネシア人5.2万人、⑧ペルー3.1万人である。

 2020年にベトナム人労働者が中国人を抜いて初めて1位になった。10年前、ベトナム、ネパール、インドネシアは「その他」に一括りで分類されていたが、この10年間にこの3か国の労働者数が急増した。

(2)在留資格別

 在留資格別には、「身分に基づく在留資格(永住者、日本人の配偶者、定住者(日系人)等)」が58.3万人と一番多く、全体の33.6%を占めている。次いで「専門的・技術的分野の在留資格(高度専門職、技術・人文知識・国際業務、企業内転勤、特定技能等)」が39.5万人(同22.8%)、「技能実習」が35.1万人(同20.4%)、「資格外活動(留学等)」が33.5万人(19.4%)である。

 この内、報道で取り上げられる回数が多い在留資格は、技能実習、特定技能、定住者(日系人)、資格外活動(偽装留学生)である。

(3)今後の見込み

 今や介護、農業、水産業、建築、外食、食品加工などの分野は外国人労働者なしでは成り立たない現実がある。また今年2月公表された価値総合研究所(日本政策投資銀行グループ)の推計(※)では、2030年に419万人(20年比143%増)の外国人労働者を必要とするが、供給ポテンシャルは356万人である。需要に対して63万人もの労働者が不足すると見込まれている。近い将来、この問題への対応が「緊急課題」として浮上するのは間違いなく、外国人の「定住政策」を正面から議論することを最早避けることはできないと考える。

(※)推計の前提:年平均成長率1.24%、高齢者・女性雇用、設備投資が促進された場合を想定。

3.古川法務大臣の発言(7月28日閣議後の記者会見)

(1)特定技能制度は昨年4月以降、見直しの時期を迎えていたが、主管官庁である「出入国在留管理庁」の事情により、先延ばしになっていた。技能実習制度は今秋以降、見直し時期を迎える。NAGOMiは昨年6月以来、両制度の見直しは同時期に行い、一貫した制度にすべきと主張してきた経緯がある。

(2)古川法務大臣は今年2月以降、技能実習と特定技能制度の課題を洗い直す勉強会を随時開催して専門家から意見を聴取するとともに、6月末にはハノイを訪問してベトナム関係者と意見交換を実施。それらを踏まえ、7月末に今後の見直しに向け次のような考え方を公表した。

 (イ)(技能実習)制度の趣旨と運用実態に乖離がない整合性のある仕組みとする。
 (ロ)技能実習生に十分な情報が与えられ、人権侵害が決して起きないようにする。
 (ハ)日本で働き、暮らすこととで、外国人の人生にもプラスになる仕組みとする。

(2)政府は、今秋にも関係閣僚会議の下に有識者会議を設置し、今回の古川法務大臣の発言を踏まえて技能実習と特定技能の制度改正の検討を本格化すると思われる。

4.技能実習制度と特定技能制度

(1)技能実習制度(主管:法務省、厚労省)

(イ)実態

 本制度は1993年スタートし、2017年に技能実習法が施行され、法律に基づいて監理団体や企業を実地検査する権限を有する「技能実習機構」が設立された。

 実習生の在留資格を持つ外国人は、コロナ禍で右肩上りの増加は止まり、2021年10月現在約35.2万人と前年の40万人から初の減少となった。監理団体は2022年5月現在3535である。

 また、古川発言の通り、本制度の目的(技能・知識の伝授を通じた国際貢献)と実態との間には大きな乖離がある。制度の目的に「人材育成」に加えて「人材確保」をも明記することが重要である。

(ロ)失踪の要因

 大多数の実習生は日本にきて良かったとの思いを持って帰国するが、毎年約2%前後の実習生が失踪する。「2%」といっても7-8千人にもなり、彼らの今後の人生や2国間関係への悪影響を勘案すると看過できる問題ではない。

 失踪の主要因は、①実習先での暴言・暴力、給与未払いなどの「人権侵害」、②訪日前の多額の借金、③勤務条件・環境の理解不足、④コミュニケーション不足(日本語能力不足)等である。

(ハ)国内外からの批判

 技能実習制度は国内外からの強い批判にさらされている。米国務省は「人身売買年次報告書」において、強制労働ともいえる人権侵害が存在していると長年批判している。また、①技能実習制度を即刻廃止して、特定技能に一本化すべき、②韓国の雇用許可制度と同様の制度を導入すべきとの意見もある。

 特定技能については、今までは人数が多くなく、それ程表面化していないが、技能実習と共通の問題(人権侵害等)が既に起こっていることに加え、外国人労働者が賃金の高い都会へ集中する傾向がみられる。また韓国の「雇用許可制度」は、見かけは良いが、不法滞在者数は日本の5倍以上であり、借金問題も解決されていない。

(ニ)技能実習制度の貢献

 日本国内では技能実習制度の問題点のみが報道され、残念なことに、これまで30年の間にアジア諸国から約2百万人以上の若者が訪日し、次のような成果を生んできたことはあまり知られていない。

① 元実習生は日本で学んだ労働倫理、日本語、技能・知識を活かして起業したり、新たな職を得て母国の経済発展に貢献している。

② 本国では得られない実習・就労の機会を得て、自身のキャリア・アップに加え、仕送りを通じて兄弟や子供の学費負担、実家の改築等を実現している。

③ 日本人従業員の高齢化が進む中、若く向上心にあふれる実習生を受入れた日本企業の活性化・生産性向上がみられる。

④ 地域の活性化への貢献:岡山県美作市、北海道紋別市、東川町等 

(ホ)失踪要因である「人権侵害」や「借金問題」等への取り組み

 技能実習であれ特定技能であれ、制度が適正に機能するためには、それを支える厳格な人権侵害対策や借金問題対策等が不可欠である。

 これらの問題に関して、遅きに失した感はあるも、最近になって日越両国政府はようやく有効な措置を取り出した。

技能実習機構(2017年創設)は、2020年以降漸く本格稼働しており、実地検査の結果、監理団体の許可取り消しや実習実施者の認定取り消しも大幅に増加し、「悪徳業者」の排除と抑止力は大きく向上している。

② また、この2年間に「ビジネスと人権」の観点からサプライ・チェーン内で人権侵害がないことを確認・公表することが企業に求められるようになった(人権デユーデリジェンス)。このプロセスは海外のサプライ・チェーンだけでなく、日本国内も対象となる。日本企業の「人権尊重」の意識は着実に向上しつつある。

③ 日本側からの度重なる指摘の結果と思われるが、ベトナム政府は昨年3月多額の借金を生んでいる要因を究明し、責任者を処分すると発表。更に今年1月、法律改正を行い、借金減額に向けて新たな仕組み(実習生の負担費用=給与の3か月分-管理費(※)3年分)を発表した(7月1日施行)。※管理費:日本側がベトナムの「送出し機関」に毎月支払う費用、最低月5千円。古い法律では、実習生の負担費用は3年間で3600ドル(派遣手数料)+教育経費(約300ドル)であったが、ブローカー経費、過剰接待経費やキックバック分が上乗せされていた。新たな仕組みでは、例えば月給が18万円とすると18万円×3か月=54万円、これから管理費月0.5万円×36か月を引くと実習生の負担額は36万円。管理費を月1万円にすると負担額は18万円、管理費1.5万円では実習生の負担額は「ゼロ」となる。この方式を厳格に適用すると、借金問題はほぼ解消できることとなる。

④ 今年5月の日越首脳会談の機会に、ブローカーを経ることなく送出し機関や就職情報を入手できるプラットフォーム創設が合意され、来年には稼働する。これによりブローカー排除と勤務条件の透明性向上が期待される。

⑤ 現在、技能実習には「日本語要件」がないが、多く関係者が少なくとも「N5の要件化」を指摘するようになっている。

(2)特定技能制度(主管:法務省のみ)

(イ)実態

特定技能制度は2019年4月、14業種において5年間で34.5万人を雇用することを目標に開始された。

2022年3月末現在6.4万人が「特定技能1号」として在留資格を得ているが、その内、技能実習制度を経由した者が全体の約8割を占めている。

コロナ禍という事情はあるものの、その多くは技能実習生として来日して3年後、在留資格を特定技能へ変更した人達であり、特定技能外国人や受入れ企業にとって、技能実習の3年間が「基礎的人材育成期間」として機能している。 

(ロ)問題点

この制度に絡む問題点は今後人数の増加とともに、更に顕在化してくると思われるが、現時点で判明している主要問題点は次の通り。

① 外国人労働者にかかわる制度であるにもかかわらず、主管官庁が出入国在留管理庁のみで、厚労省が入っていない。

② 登録支援機関(営利団体)は外国人を「支援」することは求められているが、「保護義務」はない。コロナ禍で職も宿泊先も失くした実習生が多く出たが、監理団体が相当数を保護していた事実がある。今後、特定技能が多くなり、不況が来ると路頭に迷う外国人が町中に溢れる恐れがある。

③ 既に制度の利用者が賃金の高い大都市圏、都市部に集中する傾向が発生しており、既に地方からは強い危機感が示されている。

④ 出入国在留管理庁による立ち入り検査の具体的頻度・内容、法令違反を犯す企業への罰則が不明である。この機能が弱いと人権侵害がはびこる。

4.技能実習と特定技能制度の一貫性ある制度構築(新たな提案)

 6月13日、自民党「グローバル人材共生推進議員連盟」の会合(関係各省代表参加)において、筆者はNAGOMiの代表として次のような提案を行った。秋以降の自民党・政府部内の検討において、有益な材料になることを期待したい。(下図参照)

(1)技能実習と特定技能にかかる法律を一本化し、主務大臣を法務大臣と厚労大臣とする

(2)両制度の目的を①人材育成 ②人材確保 ③国際貢献とし、国際貢献の意味を「人材派遣国の持続的成長と安定への寄与」といった広義とする。

(3)技能実習の3年間を「基礎的人材育成期間」(インターンシップ期間)、特定技能1号の5年間を「実践的人材育成期間」と位置付ける。当初3年間は転職を原則不可とするが、人権侵害や本人の意思に反した解雇などが発生した場合は例外とする。

(4)監理団体(技能実習)と登録支援機関(特定機能)を統合し、技能実習と特定技能にかかる監理・支援事業を行う機関として「監理・支援機関」(仮称)を設置する。この機関には外国人斡旋機能、外国人本人に責任がなく雇用が打ち切られた場合などの支援・保護機能を持たせる。

(5)「監理・支援機関」及び特定技能所属機関に対する実地検査は、技能実習機構が行う。

(6)技能実習の職種・作業と特定技能の産業分野・業務区分を可能な限り一致させ、技能実習から特定技能への移行を容易にする。

5.日本で働きたい日系4世の直面する問題

 技能実習と特定技能制度の見直しが行われる際には、日系4世に対しても前向きな対応がとられることを期待したい。

(実態) 2021年6月現在約27万人の日系人が日本に在住しているが、その多くが2世、3世とその家族であり、4世単独の長期滞在は認められていなかった。

 2018年、日系4世の長期滞在(年齢18-30歳、最長5年、家族帯同なし、受入れサポーター必要等)を認める新受入れ制度が開始された。この制度では、年4千人の来日が想定されていたが、3年が経過した2021年9月現在、この制度の下で入国できた4世は108名 のみである。コロナ禍があったとはいえ、あまりにも悲惨な結果である。

 今年5月、ブラジル日系5団体の総意として日本政府(林禎二駐ブラジル大使宛)に対し、本制度の見直しについて、主に次のような要請があった。

 ①受入れサポーターの条件緩和(条件があまりに厳しく、サポーターの成り手がいない)
 ②家族帯同の許可(3世は初めから家族帯同可。条件を付して可能にして欲しい)
 ③年齢制限(18歳-30歳)の緩和(多くの4世が30歳を超えている)
 ④生活習慣の違いなどに関する事前研修会の開催(今までなし)

6.最後に

(1)ベトナムは一貫した厳しい対中姿勢を維持しており、今や日米両国にとって、東南アジア地域で最も信頼できる国である。「夢」を抱いて訪日するベトナム人の若者たちが、日本に来て良かったと思える環境をつくることは、二国間関係の強化だけでなく、日本の安全保障にも貢献する。

(2)世界に約3.8百万人の日系人が存在するが、彼らは最強の日本応援団であり、日本にとってかけがえのない「宝」である。昔、日本が貧しい時代に国策で移住した日本人の子孫を大切にすることは、豊かになった日本の責務である。

(注)日本の政治・安全保障、少子高齢化・労働力不足問題、日本企業の対外経済活動等におけるベトナムの重要性については、梅田邦夫著『ベトナムを知れば見えてくる日本の危機』(2021年6月発行、小学館)を参照ください。