【TICAD9特集】TICAD9に向けてのアフリカと日本の協働:ガーナの視点から


駐ガーナ大使 義本博司

 近年の国際情勢は、アフリカ諸国の発展に複雑な影響を与えています。特に、トランプ政権下での米国の国際開発協力への姿勢の変化は、アフリカの安定と開発に対する懸念を高めています。本稿では、TICAD9(第9回アフリカ開発会議)を前に、アフリカの現状と日本への期待、そしてガーナの事例を交えながら、今後のアフリカと日本の協働のあり方について考察します。

アフリカ開発の現状と課題
 アフリカは、経済成長の可能性を秘めている一方で、多くの課題に直面しています。TICADの議論では、これらの課題の相互連関性が指摘されており、単一の解決策では対応できない複雑さを増しています。
 経済面では、アフリカの民間部門の成長が不可欠であり、貿易や投資の促進、民間セクターの関与が重要です。アフリカ個々の国が独立して動くのではなく、地域統合を進め、連結性とバリューチェーンを確立することが求められています。アフリカ大陸の外とも連結性を進めていき、付加価値の低い産業構造により、資源・農産物原材料を輸出し、完成品を輸入するといった経済構造を転換し、域外への依存を減らしていくことが重要です。そして、これらの全ての基礎となっているのは「人」であり、人材育成が重要な鍵となります。
 アフリカのダイナミズムを支える若者や女性の活躍は、アフリカの発展に不可欠です。
 政治・社会面では、貧困、社会的サービスの欠如、雇用問題など、根本的な課題に対処していく必要があります。人道、開発、平和の連携、WPS(女性・平和・安全保障)やYPS(若者・平和・安全保障)の視点も重要です。日本のテクノロジーを活用して課題解決していくことも期待されています。政府開発援助(ODA)は、多様化し、増大する規模の大きな経済・社会課題への対処を行うためのツールの一つであり、官民連携を通じた民間資金の動員なくしては、持続的な解決は望めません。また、近年顕著になっている国際社会の変化の中で、アフリカの問題のみならずグローバルな課題で日本とアフリカが連携していくことが必要です。

ガーナの現状と課題
 ガーナもまた、これらの課題に直面している国の1つです。ガーナが直面する問題としては、経済の立て直し、国境の緊張、難民の流入、西アフリカの連携と経済統合などが挙げられます。
 ガーナは、金、石油、カカオなどコモデティ依存型経済で、国内産業は十分に育っておらず製品や食品など多くを輸入に頼り慢性的な貿易赤字体質にあります。その結果、世界経済情勢や地球環境変動の影響を受けやすく、2020年以降の新型コロナウイルス、ウクライナやパレスチナでの戦争などによる世界的不況の下で、2022年12月に債務超過に陥りIMFから5年間30億ドルの緊急支援(ECF)を受けることになりました。今、IMFのプログラムに沿った債務再編や財政健全化などに取り組んでいるところです。
 また、ガーナ自体は昨年末の大統領選挙が平和裏に行われたようにアフリカの民主主義の模範と言われていますが、ガーナの北に位置するブルキナファソ、マリ、ニジェールなどサヘル地域で軍事政権が誕生し、ECOWAS(西アフリカ経済共同体)からの離脱を決め、更にはイスラム過激派勢力が横行する中で、難民の流入や武器の密輸にみられるなど北部では絶えず緊張を抱えています。
 更には、トランプ政権によるUSAIDの縮小廃止、WHO等への拠出金の削減により、特にマラリアやエイズなどの薬の確保など保健分野での影響を受けています。大使館やJICAなどにこうした分野での日本の支援への期待の声が届いています。一方、相互関税など自由貿易に影響を与える措置については、その影響はアメリカとの貿易の構造によって異なります。ガーナの場合、対米貿易では輸入超過で10%のベースライン関税にとどまり、米国への輸出の多くは、金、ボーキサイトなど関税ゼロの鉱物資源であることから、その影響は衣料品等の比較的小さい範囲にとどまります。但し、アフリカの特定国からの製品の輸出の関税をゼロにするAGOA(アフリカ成長と機会に関する法律)の恩恵を受けていることから、ガーナ政府は米国政府に対し今年9月末で期限を迎えるAGOAの更新を求めています。
 一方、相互関税問題をきっかけに、アフリカ大陸全体での貿易を盛んにし欧米からの自律を図るために、ECOWASやAfcFTA(アフリカ大陸自由貿易圏)を進めようとする機運を感じます。但し、貿易のための標準化や円滑な通関、隣国間の関税の在り方など基礎的な環境整備は未だ整っていない現状にあります。
 マハマ新政権は、サヘル3か国を頻繁に訪れ、外交関係維持、ECOWAS(西アフリカ諸国経済共同体)を重視した域内外交の推進を図るとともに、経済の立て直しを最優先に財政規律を重視した財政政策を進めています。また、ガーナのコモデティ依存の脆弱な経済構造からの脱却を図るため、「24時間経済」を掲げ、アグリビジネスを中心に輸出産業振興、そのための道路や水上交通などの基幹インフラやサプライチェーンの改善、中小企業の金融アクセスの改善など総合的な政策を打ち出して、外国資本の投資促進を呼びかけています。その一方で、社会不安を抑えるために、若者、女性、弱者に対する政策などを打ち出しています。こうした新政権の政策は概ね評価されています。
 特にマクロ経済については、債務再編がほぼ完了し、金保有量や外貨準備の改善を背景に通貨セディ高が進み、投資家の信用が改善し、格付け会社(S&P)のガーナの評価がはじめてデフォルトを脱しました。ただし、「24時間経済」政策による生産拡大、輸出促進、雇用の創出、インフレの改善など実体経済への反映は未知数であり、Glamsey(金の違法採掘問題)、汚職対策などの課題も残っており、引き続き注視が必要です。

TICAD9への期待と日本の役割
 このような状況下で、TICAD9は、アフリカ開発の新たな方向性を示す重要な機会となります。
 TICAD9に向けては、官民連携、将来社会の担い手である若者・女性の能力強化、連結性、グローバル・ガバナンスといった横断的なテーマについて、TICAD共催者との間で方向性が確認されています。アフリカ側からは、AI、デジタルの分野のようなイノベーション、テクノロジー分野での日本との協力を期待する声も上がっており、気候変動への強靭性、債務、国際保健は引き続きアフリカ側の関心事項です。
 日本は、TICADを通じて、アフリカの課題解決に貢献することが期待されています。具体的には、アフリカの民間部門の成長を促すための貿易・投資の促進、地域統合の支援、付加価値の高い産業構造への転換、人材育成などが重要な協力分野となります。また、平和と安定の構築に向けて、貧困対策、社会サービス向上、雇用創出、人道支援、平和維持活動など、多角的な取り組みが求められています。

今後のアフリカ、ガーナと日本の協働に向けて
 ガーナとの関係では、日本は、普遍的価値を共有する重要なパートナーです。野口英世博士の来訪以来、長い友好関係を築いており、両国間の関係は緊密です。
 日本は、ガーナに対して、無償資金協力、技術協力などの開発援助を実施しており、地域間の連結性を高めるインフラ整備(道路、配電網等)、グローバルヘルス(官民連携による母子保健の推進)、農業(コメの生産性向上、カカオ児童労働対策等)、セクターを通じたKaizenによる職業訓練、コミュニティとの協働による教育支援事業“Compass”など、それぞれの分野での開発協力が行われています。日本企業も、西アフリカの拠点としてガーナに事務所を置き、カカオなどの取引、発電事業、自動車の簡易組み立て工場、女性用かつら開発など堅調にビジネスを展開しています。
 また、農業、保健、教育の分野でAI、ドローンなどICTテクノロジーを活用する社会課題に挑戦するビジネスを展開し、地元の若者の雇用に寄与する日本の若き起業家の活発な活動が見られます。更に平和維持の面では、国連コフィアナン平和維持訓練センター(KAPTC)を通じた国境警備、海賊対策等に携わる警察能力の向上、北部からの難民等流入の根本原因である女性や若者の貧困や孤立化を防ぐための生活能力の向上などの支援を行っています。
 こうした動きを踏まえつつ、日本には、バリューチェーンの改善、貿易の円滑化、基幹インフラの整備など日本の開発援助とそれに連動して企業の持つノウハウや技術を活用して官民一体で、ガーナ政府が進める外国資本の投資や貿易に貢献することが求められています。また、アフリカ域内の経済的統合や域内外との連結性の向上に向けて、AfcFTA(アフリカ大陸自由貿易地域)をより実効性のあるものにするために、日本の知見や技術を生かした更なる連携や支援が重要です。一方、平和維持の貢献として、国境管理のために、例えば顔認証などの日本の優れた技術を生かす取り組みを国際機関と連携して行うことも考えられます。
 更にアフリカに共通するより根本的な課題として、一度決めた物事を計画通りに進めていくことが苦手であるということがあり、その背景には、責任感とチームワークなどの価値観が国民に十分育っているとは言えない問題があります。JICAの長年の取り組みにより官民のセクターを超えてKAIZENの考え方が徐々に根付いてきました。最近において、小学校の学校生活を通じてチームワークや責任感を育てる「日本式教育」が指導者層の間で注目されています。エジプトに続いてガーナにおいても、日本式教育を参考にした教育連携の検討が始まっています。
 日本が信頼できるパートナーとして、教育や人材育成の分野における息の長い支援を通じて、国民の意識や考え方を徐々に変えていくことが、最終的には、国民の自律性や強靭性を高めるために極めて重要であると思います。
 2027年には、日本とガーナは国交樹立70周年、野口英世来ガーナ100年、JOCV活動開始50周年を迎えることから、これを契機として、日本とガーナとの課題解決のパートナーとしての関係をより一段高いものにしていくように微力ながら取り組んでいきたいと考えています。
 アフリカは、多様な課題を抱えていますが、同時に、大きな可能性を秘めています。TICAD9を機に、日本とアフリカが互いの強みを活かし、協力関係を一層強化することで、アフリカの持続可能な開発と繁栄に貢献できると確信します。(了)