〈霞関会理事長対談シリーズ1〉中間選挙を迎える米国の現状と外交政策の見通し


グレン・S・フクシマ 
スタンフォード大学客員研究員
米国先端政策研究所上級研究員
元米国通商代表部通商代表補代理(日本・中国担当)

1.米国有権者の動向
川村理事長: 日本では米国の物価上昇への不満が報じられていますが、11月の中間選挙に向けて、有権者の投票行動を最も左右する要因は何でしょうか。また、経済・政治的アイデンティティ・外交の優先順位はどのように変化しているのでしょうか。
フクシマ氏: 4月末から5月初めにかけてワシントンD.C.とカナダで多くの民主党議員や関係者と会いましたが、2026年の中間選挙で有権者が最も重視しているのは「生活の負担感」、つまり経済問題であることが明確になりました。インフレは依然高く、イラン情勢によるガソリン価格上昇も影響し、経済が最優先の争点になっています。移民問題への関心は続いているものの以前ほど高くなく、外交も直接の争点ではありませんが、イラン戦争が物価に影響するため無視できません。
 前回選挙でトランプ氏が支持を得た理由の一つは「経済改善への期待」でしたが、その期待は満たされていません。最近の世論調査では、トランプ氏の支持率は37〜40%と低く、不支持率は約58%に達しており、かなり高い水準です。

2.トランプ大統領の支持率の解釈
川村理事長:トランプ大統領の支持率低下をどう見るべきでしょうか。無党派層(有権者の約30〜35%)は、ホルムズ危機由来のインフレに敏感に反応しています。この無党派層の動向が11月の中間選挙にどのような影響を与えるのでしょうか。
フクシマ氏:米国の有権者は、民主・共和・無党派がそれぞれ3分の1ずつで構成されており、選挙結果を左右するのは無党派層です。前回選挙では、無党派層の多くが「経済改善」と「国境管理強化」を期待してトランプ氏に投票しました。しかし現在は、関税政策やイラン・ホルムズ情勢によるガソリン高騰が物価不満を強め、支持率低下につながっています。また、選挙中に「愚かな戦争には関わらない」などと述べていたにもかかわらず、ベネズエラ介入やイラン攻撃などの外交に多くの時間を割いていることも、共和党内部でも反発を招いています。
 中間選挙の見通しは複雑で、通常は政権側が議席を失う傾向があります。昨年11月の選挙では民主党が予想以上に健闘し、その後の州知事選や地方選挙でも好調で、下院で30-40議席を獲るような「ブルーウェーブ」への期待が高まりました。しかし、テキサスやフロリダで共和党有利の区割り変更が進む一方、カリフォルニアでは民主党有利の区割りが住民投票で可決され議席の増加分が共和・民主で相殺されるなど、州ごとに動きが錯綜しています。インディアナ州ではトランプ氏の「区割り変更」指示に造反共和党議員が出て変更自体は実現しなかったのですが、造反議員への報復によりこれら共和党議員が落選という複雑な結果になりました。バージニア州でも住民投票で民主党有利の選挙区割り変更が可決されたのですが、州最高裁がこの結果を覆し、結果的に民主党はバージニアでの優位を失うことになりました。このように州ごとの状況が異なるため全体としての見通しを立てるのが難しくなっています。さらに、最高裁が1965年投票権法(Voting Rights Act)を弱める判決を下したことで、南部州(ルイジアナ、ミシシッピ、アラバマなど)では黒人票の影響力を分断するゲリマンダリング(選挙区操作)が進んでおり、黒人議員や民主党議員が当選しにくくなる状況が現出しています。
 それでも、トランプ氏の人気低下が著しいため、民主党が下院多数を奪う可能性は50%を超えるという見方が一般的です。上院は現在共和53,民主47になっています。メイン・アイオワ・オハイオ・アラスカ・テキサスの5州のうち3州を取り、これに民主党優位のノースカロライナが加われば民主党の上院多数派奪還が視野に入ります。
 民主党が上下両院で多数を取れば、召喚権を使った調査や汚職疑惑追及が可能となり、弾劾手続きが開始される可能性もあります(ただし罷免はほぼ不可能)。上院多数を取れば、トランプ政権の人事を阻止できます。いずれか一院でも民主党が多数派になれば、トランプ政権の政策遂行は大幅に制約されます。現在は「上下両院とも共和党多数、最高裁は6対3で保守派多数」であり、本来機能すべき三権分立のチェック機能が働いていない状況です。

3.関税と産業政策への労働者層の評価
川村理事長
: トランプ関税・産業政策は労働者からどのように評価されていますか。
フクシマ氏: 世論調査では、労働者階級の多くが関税に不満を示しています。関税は物価を押し上げ、消費者の負担となり、企業も輸入部品の価格上昇に直面しています。トランプ氏は「外国を痛めつけるための関税」と説明していますが、実際にはアメリカ国民がコストを負担しています。インフレへの影響は一部にとどまるものの、今後遅れて影響が強まる可能性も指摘されています。

4.インフレと若年有権者
川村理事長
: 高インフレに直面して都市近郊の若者の投票行動に変化がありますか?また彼らの不満は経済状況あるいは今の政治システムのどちらにより不満を持っていますか?
フクシマ氏: アメリカの若者は経済への不満が強く、学費の高騰や学生ローン負担、住宅取得の困難さから将来への不安が高まっています。そのため、サンダース氏やウォーレン氏、AOCといったリベラル派への支持が集まりやすくなっています。また、若者の間では政治だけでなく経済システムへの不満も強く、「資本主義そのもの」への疑問が広がっています。ただし彼らが求める「社会主義」は、政府が教育や医療のセーフティネットを強化する“民主的社会主義”であり、旧来型の計画経済ではありません。一因として、株の保有層と持たない層の格差拡大があり、株を持たない若者ほど物価高の影響を強く受けています。

5.MAGAの現状
川村理事長
: MAGA(トランプ支持層)の現状をどう見ていますか。
フクシマ氏: MAGA内部では不満や離反が生じており、その主因は外交政策です。エプスタイン問題で一部の支持者が離れた時期もありましたが、現在の焦点はトランプ氏がイスラエル・ハマス、ベネズエラ、イランといった外交課題に強く関与している点です。MAGA支持者にとって「アメリカ・ファースト」とは国内問題への集中を意味するため、外交への深入りが反発を招いています。
 今後のMAGA派分裂の程度は外交情勢に左右され、現時点ではイラン問題が最も重要です。また、トランプ氏がキューバへの対応を検討している兆しもあり、国務長官ルビオ氏がキューバ側(ラウル・カストロの孫)と直接交渉しているようです。こうした外交面での動きが、MAGA内部の断片化を進めていると言えます。さらに、無党派層や浮動層も中東やベネズエラ、イランへの米国の関与に否定的で、トランプ氏が海外問題にかくも多くの時間を割いていることに驚きを示す人が増えています。

6.2028年大統領選挙に向けての民主党の対応
川村理事長
: 2028年の大統領選に向けた民主党内の動きはどうなっていますか。
フクシマ氏: 本格的な動きは今年11月の中間選挙後になる見通しですが、少なくとも10名以上が立候補を検討していると見られます。もしバイデン大統領が2024年の早い段階で1期退任を表明していれば、ニューサム、ホイットマー、プリツカー、シャピロ、ベシアの5人の人気知事に加え、クロブシャー、ブッカー、ブティジェッジ、カストロ、ハリスといった上院議員・閣僚級が出馬していた可能性があります。2028年については、この10名のうちクロブシャー氏を除く9名が出馬する可能性が高いと見られています。さらにムーア、ポリス、マーフィー、エマニュエル氏などの名前も挙がっており、候補者は10名以上になる見込みです。
 ただし、選挙年初頭の世論調査は当てにならず、過去にも有力視されていなかった候補が勝ち上がった例があります。2020年の民主党予備選でも、バイデン氏は序盤で苦戦し、サウスカロライナ州で黒人有権者の支持を得てようやく勢いをつかみました。また、スーパーチューズデーではサンダース氏がカリフォルニアで勝利し、中道派候補が票割れを避けるためにバイデン氏に結集した経緯があります。民主党はトランプ政権の続投を避けたいという危機感からバイデン氏を支持したのであり、当時から圧倒的な本命だったわけではありません。このため、2028年の展開を事前に予測するのは非常に難しいと言えます。
  2028年に経済が悪化し、トランプ氏の人気が低い場合、有権者は「トランプとは全く異なるタイプ」を求める可能性があります。その筆頭がカリフォルニア州知事ギャビン・ニューサム氏ですが、「ハンサムすぎる」「リベラル色が強い」「中西部・南部で支持を得にくい」といった懸念もあります。その場合、もう一つの選択肢として浮上するのがケンタッキー州知事アンディ・ベシア氏です。私は最近彼と会談しましたが、保守的な州で再選を果たした中道寄りの人物で、宗教心を倫理観として語る点が印象的でした。
川村理事長: ベシア知事の対日経験は長いのでしょうか。
フクシマ氏: 知事職は外交が中心ではありませんが、ケンタッキーには米国最大のトヨタ工場があり、ベシア氏は日本の投資の重要性を理解しています。ニューサム氏やホイットマー氏も、日本企業の投資が多い州を率いており、貿易も含む経済面での日本の存在感をよく認識しています。

7.米中首脳会談の評価
川村理事長
: 米中首脳会談の米国内での評価はどうですか。
フクシマ氏: 多くのアメリカ人は失望しています。トランプ氏は中国に大豆やボーイング機を大量購入させ、中間選挙向けに「経済成果」を示したい考えでしたが、実際の成果は限定的でした。習近平氏は台湾を含む長期戦略を優先しており、トランプ氏が短期的利益のために台湾問題でどこまで譲歩するかが注目されていました。ボーイング200機購入の合意はあったものの、台湾向け武器供与を遅らせたり規模を縮小したりする可能性も指摘され、今回の会談の成果は明確とは言えません。「大きな成果はなかった」という評価が多い状況ですが、トランプ氏自身は9月24日の習近平主席訪米の際の会談でより大きな成果を得たいと考えているようです。その際の最大の懸念は「その成果と引き換えに、トランプ氏は中国に何を与えるのか」という点です。
川村理事長: 米中関係は「管理された競争」に入っているという指摘がありますが如何。
フクシマ氏: 「管理された競争」はバイデン政権のサリバン氏が使った概念で、バイデン政権の米中関係の理想像でしたが、トランプ氏はそのように捉えておらず、中国を「取引相手」と見て、アメリカ製品を買わせることに重点を置いています。人権、対ロ協力、台湾などの課題にはほとんど触れず、「台湾は米国から半導体を盗んだ」といった発言もあり、米中と台湾の複雑な歴史的背景への理解不足が懸念されています。
川村理事長: 中国のAI・半導体・宇宙分野の台頭に対し、米国の戦略がトランプⅠ期政権に比して「競争相手として共存」を指向、いわば突然減速したように見える点は心配です。
フクシマ氏:ご指摘は正しいと思います。 議会(民主・共和)は「中国は長期的な戦略的競争相手」という点で一致していますが、トランプ政権内部の戦略性は1期目より低下しています。以前はボルトン、マクマスター、マティス、ポッティンジャーら現実的対中観を持つ補佐官がいましたが、現在はそうした人材がほぼおらず、関税やレアアースなど場当たり的な対応が目立ち、体系的な対中戦略とは言えません。
川村理事長: トランプ政権の台湾に関する立場表明がいろいろ聞こえてきますが、米国内ではどう受け止められていますか。
フクシマ氏: 議会・国務省・国防総省は「台湾防衛は米国の信頼性に直結する」と一致しています。バイデン大統領も4回「台湾を防衛する」と述べました。一方トランプ氏は「答えない」とするなど極めて不透明で、1982年の米中合意についても「昔の話だ」と発言するなど、歴史的理解の不足が懸念されています。また、トランプ氏は長期的安全保障より短期的商業的利益を優先する傾向があり、それも懸念材料です。

8.揺るぎなき日米同盟へのコミットメント
川村理事長
: 最後に、日米同盟について伺います。 昨年の我々の対談では米国の軍事安全保障専門家の間では「日米同盟はインド太平洋戦略の中核という強固なコンセンサスがあり、たとえ大統領というトップリーダーによる発言がこの基本ラインから外れることがあっても、基底のコンセンサスは揺るがない」との評価でしたが、この安全保障のコミュニティのコンセンサスに変化はないと考えてよいでしょうか。
フクシマ氏: このコンセンサスに変化はないと思います。米国議会、国務省、国防総省、 そして安全保障関係者は皆、 「日本はアジアで最も重要で信頼できる同盟国」として高く評価し続けています。そして日米安全保障条約に基づき、米国が日本防衛のために行動するのは当然だと受け止めています。
 唯一の不確定要素は、大統領本人の発言であり、予測が難しく、誰と話したかによってその内容が変わり易いところがあります。
 しかし、 国家安全保障コミュニティの総意としては、 日米同盟は米国のアジア戦略の中心であり続ける という認識が共有されています。それゆえ大きな変化が起きているとは考えていません。

(注)2026年5月27日外務省において本対談を行った。